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第八軍団の軍議、そして結論

 俺はイヴァリースの街に戻るとさっそく街に滞在している旅団長レベルの幹部を館にある軍議の間に集結させた。



 サキュバスのリリス、

 竜人のシガン、

 オークの参謀ジロン、

 ドワーフの王ギュンター、

 エルフの戦士長アネモネ、

 


 要はいつもの連中であるが、この面子に最近加わった女性がいる。

 先日、魔王軍に和平を求めてやってきた使者のアリステアである。


 彼女は元々は白薔薇騎士団というローザリアの正規の騎士団の団長であるが、とある理由により解任され、とある理由により復職した。


 更になし崩し的に魔王軍に加わるようになってしまった数奇な運命の持ち主である。


 形式的には現在保護している少年王の家臣なので、第8軍団所属ではないが、彼女の率いるローザリアの騎士団の実力はなかなかのものであった。


 王都を奪還し、トリスタンを復位させるという名目がある以上、その力を借りない手はない。

 幸いなことに彼女自身も、彼女の部下達も、それに快く応じてくれた。


「すべてはトリスタン陛下とアイク殿の御心のままに――」


 とのこと。

 有り難いことではあるが、リリスはへそを曲げている。


「どうせ、アイク様目当てでやってきた押しかけ女房に決まっています」


 とリリスはアリステアを敵視しているが、その表現はまったく的外れではない。


 最初に出会ったときの強烈な印象、その後、命を助けてやった恩、それに先日の一連の軍事行動の成果、彼女の俺に対する信頼度はすでに最高値で、あらゆる命令を聞いてくれる気配がある。


 たまにこちらを見かけてくるが、その目は常に尊敬と憧憬の感情で満ちているようにも感じる。


 リリスのように我が儘で奔放ではない分だけ助かるのだが、いつかリリスのようになられると困るので、注意しておこう。


 そんな風に考えながら、俺は魔王様から持ってきた難題を二つ、部下達に説明した。


「食糧の増産と国璽の奪還ですか……」


 オークの参謀ジロンの声は沈んでいる。

 流石のジロンもその難しさに気が付いているようだ。

 他にも似たような意見が上がる。


「そうですね、魔法ではないのですから、食料を倍にする方法なんてありませんよ」

 

 とは、楽天家のリリスの言葉だから、彼女もその難しさを心得ているようだ。

 ただ、そのあとの言葉が彼女らしいというか、魔族らしかった。


「ここは各都市の住民から食料を略奪……、いえ、徴発しますか? それが一番手っ取り早いというかそれしか方法はないんじゃ」


 その不穏な発言に俺は「アホ」と言う。


「そんなことをしたらせっかく築き上げた人間との信頼にひびが入るだろう」


「でも、最近は甘やかしてばかりですよ。それに今は緊急事態です、ちょっとくらい強引な手法を用いて王都リーザスを攻略しておけば、長期的に見れば魔王軍が有利になるんじゃないですか?」


 この娘から長期的などという言葉が出てくるのは驚きであったが、事実の一端を突いている。

 普通の魔族の将ならば考えてもおかしくはない。

 いや、人間の将とて同じ手法を取るかもしれない。


 一時だけ我慢してくれ、食料の徴発は今回だけだ。以後、このようなことはしない、と布告を出せば案外、納得して食料を提供してくれる住民もいるかもしれない。


 しかし、それでも俺はそんな無粋な真似は避けたかった。


 1回だけ、と自分を納得させ、食料を徴発することもできるが、それをしてしまえば、次に似たような状況になったとき、また同じようなことをしてしまうかもしれない。


 否、確実に同じことをするだろう。

 人間とはそういう生き物なのだ。一度味を占めれば同じことをする。

 自分だけが例外でいられるほど、自信過剰にはなれない。

 自分に言い聞かせるようにそう心の中で呟くと、己を戒めるためにリリスを制するように言った。


「住民から食料の略奪は厳禁だ。これは魔王様の意思でもある。破ったものがいれば軍法会議に懸けられ、縛り首だぞ」


 その言葉を聞いたリリスは「くわばらくわばら」と口をつぐむ。

 代わりに尋ねてきたのはドワーフの王ギュンターであった。


「ではアイク殿はどうやって食糧を確保するつもりなのだ?」


「それを考えて貰うために軍議を開いたのですよ」


「それは珍しい。いつもアイク殿は結論ありきで軍議を開かれているように思えるが」


「いつも完璧を求められても困る。時には迷うこともありますし、皆に相談したくなるときもあります」


 俺がそう言うとアリステアは挙手をする。

 発言してもいいでしょうか? という意味なのだろう。

 許可を下すと彼女は口を開いた。


「食料よりもまず国璽を奪還すべきなのではないでしょうか? さすれば王権は我が主トリスタン陛下に戻ります。そうなれば魔王軍に潤沢な食料を提供できる」


「順序が逆ではないか? 王都リーザスに攻めるために大量の食料が必要なのだ。王都リーザスを攻略した後に食料を得ても意味はない」


 その言葉を発したのはギュンターであるが、それにリリスも続く。


「そうよそうよ、小娘は黙っていなさい」


 と――。


 リリスの奴は嫉妬からくる感情であろうが、アリステアを除くすべての将がその意見には反対だった。

 意味がないからである。


 しかし、それでもアリステアは主張する。


「アイク様のお力で、電撃的にリーザスを攻略。食料を奪い取れば勝機はあると思うのですが……」


 当然、皆は楽観すぎると非難するが、それには俺も同意見だった。

 彼女は国璽を取り戻したいあまり、急いているのだろう。

 一刻でも早く国王を復位させ、その恩義に報いたい気持ちで一杯なのだ。

 彼女が口にする作戦はその気持ちが発露しているのだろう。


 当然、俺は却下しようと思ったが、途中でその言葉を飲み込む。

 一見、素人の生兵法のように思えるアリステアの発言だが、見るべき物を見いだしたからである。


 確かにアリステアの立案した作戦は危険きわまりないものであったが、見方を変えれば別の視点をもたらしてくれた。


 違う考え方を俺に与えてくれた。



(食糧問題と国璽の問題、双方一遍に解決する、というのは虫の良すぎる話かもしれない)



 王都リーザスにはまだ数万の兵が控えていて、国璽は王宮の最深部に保管されている。


 敵も国璽が自分たちの生命線であることは承知しているのだから、その保管には細心の注意を払っているだろう。



(ただ、王都を取り囲み、王都内部が混乱している隙に国璽を奪還する、というアイデア自体は悪いものではないな)



 少なくとも『普通の方法』で奪還するのは不可能のように思われる。 

 アリステアの言葉によって新しい発想を得た俺は、とある妙案を思いつく。

 無論、上手くいくかは分からないが、試す価値がある作戦だとは思った。

 俺は皆にその作戦を明かす。

 その作戦内容を聞いた諸将は「おお!」と驚きの声を上げた。


 ある意味、アリステアの提案した作戦よりも剛胆で虫の良すぎる作戦かもしれないが、誰一人反対しないのは、今までの実績のおかげであろうか。


 本当ならば反対意見のひとつやふたつは欲しいところなのだが、部下達は皆、俺を信頼してくれているようだった。


 ならばその信頼に応えるのが、大将の努めであろう。

 そう思った俺は、自信に満ちた表情で、その作戦に参加したい将を募った。


 無論、仮面を被っている俺の表情は彼らには伝わらないが、全員が挙手してくれたのは有り難かった。

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