オークの参謀ジロンの見解 ††
††(オークの参謀長ジロン視点)
まったく、我が旅団の旅団長、アイクの旦那は一体なにを考えているのだろう。
輪番制?
なんだそりゃ?
人間どもに報酬を渡す?
なんだそりゃ?
そんな前例聞いたことない。
普通、魔王軍に捕まった人間は奴隷だ。
報酬など支払わない。
最低限の食い物を与え、鞭を振って働かせる、それが常識であり、伝統ってもんだ。
オレっちのじいちゃんのじいちゃんの代から、そうやって人間を支配してきたんだ。
それを今更変える? 馬鹿を言っちゃいけない。
そう反論したかったが、オレはしなかった。
魔族ってのは自分よりも上位の魔族に決して逆らっちゃならない。
そういった鉄の掟があるが、それよりもなにもなんだかんだで、アイクの旦那を尊敬していたからだ。
旦那の下に配属されて3年、最初こそ生意気な若造の下に配属されたと嘆いたものだが、今じゃ完全に旦那の信者だよ、オレは。
だってそうなるだろう。
旦那がこの不死旅団を結成して以来、その戦果はめざましい。
落とした砦は5つ、攻略した都市は2つ。
戦場でも数多の軍勢を破り、付いた異名は『魔王軍の懐刀』。
このまま順当に戦功を重ねれば、旦那は軍団長になれるかもしれない。
そうなりゃ、オレっちは軍団長の参謀の肩書きを頂きだ。
そんな夢を見させてくれるくらい、旦那の働きはすごいってことだ。
たぶんだが、近い将来、その夢は叶うと思うぜ。
なぜなら、今回の城門修復もたったの一ヶ月で片づけちまったんだから。
いや、旦那は腕っ節だけじゃなく、脳みその中もすごい。
一度、覗いてみたいね。きっと、オレなんかよりもたくさん脳みそが詰まっているんだろうね。
まさか、あんな方法を考えるだなんて、夢にも思っていなかった。
輪番制? 実はあの制度はいまだによく分かってないんだが、その後旦那が提案した『報奨金制度』ってのはピンときた。
あ、この人天才だ、ってね。
旦那は雇った人足と技術者を20のグループに分けると、そいつらを昼夜問わずに働かせた。順番でだけど。
それだけでもオレの想像外の手法だってのに、旦那は更に、『報奨金制度』を付け足すことで、人足たちのやる気を高めた。
報奨金制度ってのはあれだ。
簡単に言えば目の前にぶら下げられた人参って奴だ。
その週、一番働いたグループに、ボーナスを支払う。至極単純な制度だが、それだけに効果は覿面だ。
上位3位までのグループに入れば給金が増えるのだから、どのグループも必死に働く。
結果、砦の修復は通常の6倍の早さで終わった。
もしも人間たちが攻め入ってきたら、驚くだろうね。
「ば、馬鹿な、魔王軍はたったの一夜で砦を修復できるのか」って。
実際、物見にやってきた人間の斥候は驚いているはずだぜ。
たったの一ヶ月で修復した外壁の様子を見て。
ま、ともかく、今回の件は、本当に恐れ入りやした。
オレは今回の件で確信したね。
将来この人は、絶対に軍団長になるって。
いや、それだけじゃない、もしかしたらこの人こそ次の『魔王様』なのかもしれない。
そう言い切ってもいいくらい、旦那の働きはすごい。
オレは絶対、この旦那の下から離れないぞ。
この人について行けば、絶対、出世が約束されるもんね。
この人のもとから離れたら損だ。
オレの頭のできはよくないが、それだけは確信していた。