諦念
―episode 13: 諦念 ―
「双子の、妹…?でも名字は…」
「あぁ、うちは親が離婚していてね。僕と兄は父方に、李杏は母方に引き取られた。『八代』は母の新しい旦那の名字なんだ。まぁ…詳しくは余り言いたくないけど…そういう家の事情が色々あってさ、李杏と僕の間には少し…溝があるっていうか、うん、端的に言うと、上手くいっていない。」
淡々と答えると、翡翠は目に見えてしおれた。
「ごめん…訊いちゃいけないことを…」
「気にしないでくれ。別に隠している訳でもないことだ、いずれ耳に入ることになっていただろう。
それでさ…
双子…それも一卵性の双子の僕達は、本当に顔形が似ている。
身長や声や雰囲気など、何故か顔以外はあまり似ていないのだが、それでも一目見ただけの人なら間違うくらいにはそっくりだ。
今はそれを嫌がった李杏が髪型や私服の系統を変えたりしているからそうそう間違われることはないけれど…やはりどこか似ている。
だから僕は思うんだ。
ユキはただ、僕のことが好きだと錯覚しているだけなんじゃないかな、ってね。
僕なんかを好きになるはずがないのにね。
何しろ、そんなに顔の似ている僕達だが、残念なことに…僕は何をやっても基本的に李杏には劣るんだ。
運動も、勉強も、人当たりも、歌も…
あぁ、それから容姿も、か。
顔の造形は同じなのに、李杏の方が何故か圧倒的に美人に見える。
僕には全く華がないが、李杏はどこにいても人目を引くからね。
さっきの話では全く解らないと思うけど、話だってずっと僕より面白いし、いつも人の中心にいる、太陽のような子さ。
だから、僕は李杏の『下位互換』。
普通に考えて、李杏よりこんな僕を好きになるなんて有り得ないじゃないか。」
僕が話し終わった後、翡翠は暫く険しい顔で黙ったまま歩いていた。
沈黙は苦手だが、重くなった空気の中何も言うことが出来ず、ただ隣を歩く。
靴音以外は何も聞こえないような閑静さが、今は恨めしい。
あと一つ信号を越えれば僕の家、という辺りになってようやく、翡翠が口を開いた。
「……俺はさ、皆のことも、紫杏さんのことも、当然八代さんのこともよく知らない。だから偉そうなことは全然言えないんだけどさ…
俺は…ゆっきーはきっと、紫杏さんのことちゃんと好きになってると思うよ。」
「………………」
そうだろうか、とも、そんな訳ない、とも言えず、ただ無言で翡翠を見上げると、何故か少し怒ったような顔をしていて戸惑う。
「怒ってる…よね?」
今日はこの台詞二回目だな、と思いながら恐る恐る訊ねると、翡翠は憮然とした様子で頷いた。
「うん、怒ってる。…っていうか、気に入らない。」
はっきりとした物言いに怯み、また言葉に詰まってしまう。
「…えっ…と、」
「君がそう自己評価が低い理由は解った。けど、それが気に食わない。皆に対しても、君に対しても。」
「ご…御免……」
最初に会ってから今までの数日の内で初めて見た、真顔と笑顔以外の顔に、冷や汗が流れる。
翡翠って怒るんだ。
当たり前のことなのに、想像が付かなかった自分に少し驚き呆れる。
こんなことにも思い至らないようだから、人付き合いが上手く行かないんだろうな。
「…別に謝ってもらわなくていいよ。」
まだ微量の怒りを含んだ声音に、どうやって謝罪したものか、と必死で考える。
数十秒の後、隣を歩く翡翠の前に回り込み、決死の覚悟で顔を見上げた。
【Continued.】




