エピローグ
「おーい! そっち持っててくれー」
「わかったー」
悪魔の襲撃を受けたソプレゼの街。
総面積の約半分が建物の倒壊、炎上などにより破壊され、死傷者並びに行方不明者合わせて総人口の五分の一程出た。
だが人々は強かった。
現在ソプレゼの街は復興の賑やかさで包まれている。
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「伯爵様、次はこちらに署名を」
ドアートがホーネット伯爵の目の前に書類の山をドサッと下ろす。
「・・・・・・おい、ドアート。俺はこれでも怪我人なんだが」
そう言って折れて首から回した布で吊るされている左手を見せる伯爵。
伯爵は悪魔の攻撃で領主の館の倒壊に巻き込まれたが九死に一生を得て、怪我は腕の骨折だけに留まっていた。
ただ瓦礫に埋もれていたため救助されるまで出てこられなかったが。
「よかったですね。折れたのが利き腕でなくて」
ドアートは現在伯爵の補佐をしている。
同盟はあの襲撃の際に表舞台で大いに働いたためその存在を周知の物とした。
そしてそのまま伯爵傘下の組織として正式に組み込まれることとなる。
―――もうすぐ国王からの命が届き『同盟って何よ? 聞いてないけど?』と、出頭&事情聴取されるのだが、それはまた別の話。
「はあ・・・・・・おい。なんだこれは」
「これとは?」
伯爵は一枚の書類を掴みヒラヒラさせる。
「これだよっ、お前の発明品の金なんて出せるか! ただでさえ資金不足で頭が痛いんだぞ」
「―――ちっ」
「舌打ちしたな?!」
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「ね~ね~シェスカ~、リンディ~」
「何?」
「どうしたんですかフィーネちゃん」
同盟が正式に伯爵の傘下となったことで、シェスカ、フィーネ、リンディの元同盟員にも変化があった。
全員が上級騎士となったのだ。
「もう飽きたよ~」
「まあ、ね」
「そうはいってもお仕事だから」
三人はいわゆる騎士隊の隊長に就任していた。
元々同盟でも能力を買われて要所の役目に就いていたので当然の流れと言えばそれまでなのだが。
戦闘能力が高いフィーネは実働部隊隊長、元々騎士として治安維持に携わっていたリンディは警邏(治安維持)部隊隊長、頭脳派のシェスカは諜報部隊隊長となっている。
だがフィーネは隊長になって急激に増えたデスクワークにもう嫌気が差していた。
「(コンコン!)失礼します!」
「ん~?」
そんな時騎士の一人が慌てて部屋に入ってきた。
「諜報部隊からの報告です。街の北にある山に盗賊が集結しているとのこと。おそらくこの街を襲うつもりかとっ」
騎士は襲われたソプレゼに火事場泥棒しようとしている奴等の情報を持ってきた。
それを聞いたフィーネは目にも止まらぬ速さで飛びだす。
「ちょ、フィーネ!」
「お~! 久しぶりに暴れるよ~!」
「え、二人とも?!」
置いて行かれたリンディと報告を持ってきた騎士。
「・・・・・・私たちは街の警備にあたる。多分大丈夫だとは思うが」
「はっ」
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ソプレゼの街の各広場にはキャンプが作られている。
そのうちの一つの広場に宿屋三日月のロイ、パーラ夫婦とトール、トマスの姿があった。
「ほれ、二人ともきりきり働きな!」
『『はいっ』』
パーラの一喝で背筋を伸ばすトールとトマス。
今二人は炊き出し用の大鍋を必死に混ぜていた。
「ほい追加だ! そこが焦げないようにしっかり混ぜろよ」
『『お任せ下さい!』』
ロイが追加で持ってきた鍋を混ぜ始める。
代わりに今まで混ぜていた鍋は男衆が持っていき配給所へと設置された。
「・・・あの、トマスさん」
「何だいトール君」
ひたすら鍋を混ぜる自警団団員と元近衛兵の二人。
「何でトマスさん、こんなところで料理の手伝いなんてしてるんですか?」
「・・・・・・娘、フェルに言われてね」
トールは悪魔の襲撃の際、ロイとパーラを誘導し一緒に避難していた。
戦いにこそ参加しなかったが、影で多くの人々のために働いていたトールだった。
トマスは言わずもがな最前線で戦ったのだが、終わってからが地獄だった―――。
フェルが彼に言った、要約すると『こんなところで何してるの? 王都で兵士の仕事してたんじゃないの?』という追及を思い出す度に鳥肌が立つ。
「妻にバラされたくなかったらここを手伝うようにって言われてね」
「そうですか」
「ああ」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
二人は黙々と鍋を混ぜる。
「? あの二人は何をあんなに黄昏れてんのかね?」
「さあな」
そんな二人の背中を不思議そうに見るロイとパーラ。
「それにしても、マヤは元気にしてんのかね」
「大丈夫だろ。あの小僧がついてるんだ。―――ただし、マヤに手を出すようなことがあったら・・・あの小僧おおおおお!」
『ロイさんがまた暴れ出したぞ!』 『抑えろ!』 『縄もってこいっ』
「GUOOOOOO!」
「やれやれ」
パーラはどこからか取り出したフライパンでロイの頭を叩いて黙らせる。
ドサッと倒れるロイを視界の端に捉えつつ、フライパンを肩に担いでマヤ達が旅立った方の空を見上げた。
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俺達は今森の中を歩いていた。
俺を先頭にイリーナ、マヤ、フェル、マギーと続く。
「おかしいな? 全然見つからないぞ」
「本当にこっちで合ってるの」
「そのはずです。情報が正しければ、ですが」
俺は簡単な地図に目を落とす。
後ろではフェルとイリーナが何か会話をしていた。
「お兄ちゃん、まだ、着かない」
「うーん。いや、もう目撃された辺りなんだけどな」
マヤが俺の服を引っ張ってくる。
俺はそんなマヤの頭に片手を乗せてポンポンと軽く叩く。
「ユーキさん、いったん休憩しましょう。無闇に歩いても体力を消耗するだけだわ」
最後尾にいたマギーが近づいてきてそう提案する。
確かに、もう随分と歩きっぱなしだったと思う。
「そうだな・・・じゃあいったん休憩にしよう」
俺がみんなに聞こえるように言うと思い思いに休憩を始める。
そんな中俺はマヤに近づいた。
「マヤ、すまなかったな。疲れただろ」
「ん、大丈夫。私、竜人族、だから」
「体力自慢の竜人族でもマヤはまだ子供だろ。疲れたなら疲れたって言ってもいいんだぞ」
「・・・・・・本当は、ちょっと」
俺はマヤの今度はグリグリと撫でた。
マヤは気持ちよさそうな顔を浮かべる。
「ユーキさん、私も疲れたわ。――労って」
「ちょっ、マギー」
マギーは突然ふらりと体勢を崩して俺にしな垂れかかってくる。
丁度俺の腕を抱きかかえるような体勢になり、マギーの柔らかな体の感触が伝わってくる。
「ああっ! マギー何やってるのよ!」
「・・・・・・抜け駆けはいけません」
それに気が付いたフェルとイリーナが駆け寄ってくる。
フェルはマギーを引き離そうとして、イリーナは俺の反対の手に抱きついてきた。
「イリーナも何してるのっ」
「私は主のパートナーです。こうする権利は当然あります」
「あら? ユーキさんのパートナーは私よ」
「いえ、私です」
「ふふふっ」
マギーとイリーナの視線がぶつかり合い火花を散らす。
「二人とも離れなさいよっ、そんなんじゃユーキが休憩出来ないでしょ!」
「・・・・・・(ギュ)」
「マヤまで?!」
無言でマヤが俺の正面から抱きついてきて顔を埋める。
『GRUUUUU・・・』
そんな時俺達の背後から腹に響く音が聞こえる。
瞬時に全員――マヤは俺が抱きかかえて――その場を飛び退いて背後を振り返る。
「やっとお出ましか。見つけようとしたら見つからなかったのに」
俺は背中に背負った大剣を引っ掴み構える。
前まで使っていた刀は悪魔との戦いで行方知れずとなってしまった。
きっとどこかにはあるはずだから、見つけたら回収しようと心に決めている。
「主、これは情報であったドラゴンではありません」
「何よ。ドラゴンって情報だったのに。じゃあコイツは何?」
「レッドリザード、かしら? ただ大きさは普通の何十倍もあるけど」
「・・・大きい」
「また突然変異種か」
俺達は今冒険者として活動していた。
パーティを組んで討伐をメインに依頼をこなしている。
悪魔を倒した後から魔物や魔獣の活動が活発化してきた。
通常では考えられない強さを持ったり、異常行動、異常繁殖などなど世界各地で問題を起こしている。
これはあくまで俺の憶測だが、悪魔を倒した際に点へと伸びた黒い線。
あれが引き金なんじゃないかと思う。
「なんにしてもやることは同じだ。いつも通り俺とイリーナが前衛、マギーとフェルが後衛。マヤは怪我したときの回復頼むぞ」
『了解しました』 『任せて』 『わかったわっ』 『ん』
もう何度も繰り返してきた確認をすませ、全員が配置につく。
『GYAAAA!』
相手もこちらを敵と認識したようで大きな口を開けて威嚇してきた。
「行くぞ!」
俺は大剣を軽々と振り上げ前方へと飛び出す。
さて。
とっとと依頼を終わらせるとしますか!
~END~
今までお読み頂き誠にありがとうございました。
これをもって本作品の幕引きとさせて頂きます。
いわゆる『俺達の戦いはこれからだ!』ENDです。
意外とこう言う終わりは作者は嫌いではありません。
では次回作でまた皆様に出会えることを願って。
ありがとうございました。




