最終戦 ~反撃開始~
『ドコダ』
悪魔は今だ羽を羽ばたかせて宙に留まっていた。
ただ先程までとは違い魔法攻撃の雨は止んでいる。
そんな街のあちこちに身を隠すようにしながら、悪魔の様子を窺っている人影が無数にあった。
全員緑色のローブを着ている。
その中にひとつに俺の姿もあった。
【全員、配置についたか?】
身を潜めている中耳元でドアートさんの声がする。
だがこの場にはドアートさん本人の姿はなかった。
【無事全員が配置につきました。次の指示をお願いします】
【わかった。トマス、伝達魔具の調子はどうか?】
【今のところ問題ありません】
ドアートさんの姿がないのに声が聞こえるのには理由があった。
彼が開発した魔具、伝達魔具のおかげだ。
◇◇◇◇◇
『伝達魔具』
ドアートが開発した魔具。
元々存在したスピーカーに似た役割を持つ魔具を改良した物。
ピアスの装飾を施した宝石を通して離れた場所にいる人物と会話(念話のような形)をすることが出来る。
ただし、まだ改良途中のため常時安定したやりとりが出来る保証はなく、有効範囲も狭いく街中くらいが限界。
また宝石が高価かつ希少な物を使用しているため数を用意することが出来きていない。
形状の都合上必ず耳に穴を開ける必要がある。
◇◇◇◇◇
【ならば良かった】
ドアートさんはそこでいったん間を置いてから再度口を開く。
【これより反抗戦を開始する。皆に配った発明品は私が作った特別製だ。きっと役に立つ。――トマス】
【はっ】
【全体指揮は任せる】
【了解しました】
ちなみにこの魔具での会話は魔具を付けている人全員に聞こえる。
無線にあるようなプライベートチャンネルのような物はない。
【あと、ユーキ君。最後のとどめは任せた】
【わかりました】
作戦としてはシンプルだ。
各地に散らばって身を潜めている同盟員が、悪魔を地上に引きずり下ろす。
そしてそのまま地上に貼り付けにして俺が肉薄し悪魔の首を切り落とすという作戦だ。
魔法を使ってもいいのかもしれないが街に被害が出る恐れがあるし、魔法制御役のイリーナがこの場にいないので接近戦に持ち込む必要がある。
イリーナはマヤと一緒に野戦病院というか、負傷者が集まっている場所へ赴いている。
回復魔法を使えるので治療をするためだ。
マギーとフェルはソプレゼの騎士と一緒に悪魔の魔法を防ぐために配置についている。
彼女たちの魔法ならきっと大丈夫だろう。
シェスカとフィーネは先に行動していたホーネット伯爵を探す部隊の後を追った。
こんな事態なので一刻も早く探し出す必要がある。
・・・・・・あれ?
そういえばトールはどうしてるんだろう?
【では、作戦開始!】
そうこうしているうちに作戦開始の合図がドアートさんから出された。
いったんトールのことは忘れよう。
「よし、じゃあ行くぞ!」
トマスさんの声に一緒に隠れていた同盟員の人達が『おう!』と力強く良く答える。
そして俺はそのまま潜伏し彼らは隠れていた瓦礫の影から姿を現した。
『ウン?』
「弓を射掛けろ!」
トマスの号令の元矢が放たれる。
だが悪魔はそれを飛び回る羽虫を払うかの如く手を振るだけで防いだ。
『邪魔ダ――ッ!?』
こちらに前面を向けた悪魔の背後から魔法攻撃が放たれる。
一つ一つはそんなに強くないが、かなりの数がある。
それは反対側から姿を現した同盟員達の攻撃だった。
『鬱陶シイッ』
悪魔は例の衝撃波のような物を体から放って飛来した魔法をはじき飛ばした。
【結界を張れ!】
直ぐさまトマスが伝達魔具を通して全員に指示を出す。
あちこちでパリンッとガラスが割れる音がした。
『生意気ナ奴ラメ』
ガラスの割れた音は結界を作り出す魔具が使われた音だ。
結界の持続時間は短いが、衝撃波は一瞬なので問題はない。
「二番! 再度射掛けろ!」
今度は悪魔の側面から矢が飛んできた。
ただその矢は普通の見た目ではなかった。
鏑矢や流鏑馬で使われる矢のように先端が鏃ではなく膨らんでいた。
『ガアアッ』
いい加減頭に来たのか悪魔は火炎弾を作って矢に向けて放った。
何本かは火炎弾に飲まれ焼き尽くされたが数本はそのまま残り悪魔へと肉薄する。
『チッ』
それを再び腕を振って防ごうとする悪魔。
その様子を見てトマスは口元に笑みを浮かべた。
「かかった!」
悪魔の腕に当たった矢は先端が割れ、中から液体を零れさせた。
その液体は悪魔の腕と体の一部を濡らすことに成功する。
『何ダ、コレワ?』
「魔法攻撃始め!」
液体に気を取られている悪魔に対して号令の元四方から魔法が放たれる。
火、雷、風の魔法が悪魔という一点を目指し集結した。
『ソンナ物ナド』
悪魔はそれに対して今までよりも大きな火炎弾を作って迎え撃とうとした。
―――だがそれは突然起きた。
『ッ!? ヌ、ガッ!』
悪魔の体が突然発火した。
そして集中力を乱した悪魔は火炎弾を消失させてしまい、その間を縫って同盟員達が放った魔法が次々に悪魔に命中していく。
悪魔が発火したのには理由がある。
そう、あの液体だ。
あれはドアートさんが開発した特別製の油で、粘度が高く一度体に着いたらなかなか落ちない。
キャンプ用品にあるジェル状燃料を想像してくれればいい。
そんな物を体に付けたまま火炎弾を発動したものだから、熱かはたまた火の粉が油に掛かって発火したというわけだ。
『――――!』
悪魔は耳障りな声とも言えない音を立てて徐々に高度を下げていく。
そしてある一定の高さまで降りてきたところで、ドアートさんの発明品その3が威力を現す。
「鎖網発射!」
街に置かれていたリヤカーのような物に掛かっていた布を同盟員が払い、姿を現した大型スポットライトのような代物。
太く長い筒の中に同盟員が風魔法を使って、中に仕込まれていた鎖で編まれた網を悪魔目掛けて発射した。
これはドアートさんが海で行われる投網漁からヒントを得て、その場のノリと趣味全開で作った大型魔物捕獲用の物だ。
鎖はただの鉄ではなく非常に頑丈な希少金属を使っている。
そのためコストが掛かりすぎて量産など出来ず、有効な道具にも関わらずずっとドアートさんの趣味倉庫に眠っていた。
今回はそれを引っ張り出してきたというわけだ。
『ナヌ!』
鎖網は狙い通り悪魔の体を覆いその自重と悪魔の体に絡まったことで地面へと落下させることに成功した。
「ユーキ君! 今だ!」
「はあああっ!」
俺は今まで身を隠していた瓦礫から飛び出し悪魔の元へ向かった。
お読み頂き感謝です!
ドアートの発明品が活躍しました。
発明品には正式な名前が殆どつけられておらず、今回使用前に咄嗟につけたという裏設定があります。
ちなみに同盟員達と悪魔がやり合っても本来悪魔が圧勝します。
ですが力を持った者にありがちな慢心と油断のせいで今回同盟員の策にまんまと引っかかってしまいました。
油断大敵!
【次回】悪魔VS主人公 直接対決
※誤字訂正1/11 1/12




