幕間劇 ~フェルの感情~
二話続けて幕間劇です。
次には本編へ戻ります。
「じゃあ私は帰るわね」
「あぁ、また明日な、フェル」
「えぇ、お休みなさい! ユーキ」
私とユーキは『安らぎの宿』の前で別れた。
従姉妹のミィルが経営しているから安心だし、それに何より気兼ねなく訪ねられる。
あとユーキには悪いけど、従姉妹の宿でお金を落としてくれることもすこ~しだけ期待してたり。
「(ミィルならボッタクリとかしないし、大丈夫よね)」
そんなことを考えつつ私は家路を急いだ。
~~~~~
「ただいま~」
「お帰り、フェル」
「ただいま、お母さん」
私はそのままリビングに行き、机から椅子を引いて腰掛けた。
私の家はごく一般的な家庭だ。
街の中層に坪数は狭いが二階建ての一軒家を持ち、お母さんは日中近くの食堂で厨房の手伝いをし、お父さんは国の兵士で今は王都の方へ行っている。
冒険者家業をしている私も含め、家族全員が働いているが別に生活が苦しい訳でもない。
お父さんは大黒柱として働いているが、私とお母さんは暇つぶしと時間の有効活用だ。
本当にどこにでもいる家庭だ。
「フェル、今日は遅かったのね? 何かあったの?」
いや、一つだけ普通とは違う部分があった。
それはお母さんだ。
水仕事をしていたお母さんはエプロンで手を拭きながら、リビングにいる私の元へやってくる。
私と同じピンクの髪、女神と見間違うその容姿、もうすぐ五十なのに若々しいその姿。
二人で街を歩くと『姉妹』と間違われることもあったほどだ。
地味な既製品の服を着ているのに、全くその魅力は薄れず、逆に整った顔立ちを引き立てているかのように見える。
つまり何を言いたいのかというと『お母さんは超絶美人』なのだ。
日中手伝いに行っている食堂も、お母さんがいる時間帯はいつも満席状態だそうだ。
しかもその美しい容姿から『看板貴婦人』と呼ばれているとか。
「あらあら、ありがとう。うふふ」
「心が読まれてる!?」
「あら? 何となく言ってみただけなんだけど」
「お母さんはいっつもタイミングが良すぎるのよ!」
お母さんは時々こんな風に『心を読んでるのでは?』と疑いたくなるタイミングで、何かをいう事がある。
私も何度も経験したが、やはりコレは慣れない。
お父さんもお母さんのこの部分は結婚する以前から苦手だったらしい。
そして結婚して、今に至ってものそれは克服出来ていないそうだ。
あ。
あとウチのお父さんの方は美男子とかではなく、とっても平凡な顔つきだ。
腕前は良いが、あの顔であの奥さんをよく射止められたな、とは夫婦で誰かに会う度に言われるネタになっている。
「それで、遅くなった理由は何なの?」
「大したことじゃないわよ」
「もう、良いから話してよ~」
お母さんは私の肩を軽く揺さぶって『話して話して』とせがんでくる。
・・・本当にこの人は・・・・・・はぁ~。
「わかったわよ。話すから手を離して」
「うん、わかった」
素直にいう事を聞いて手を離し、向かいの椅子を引いてテーブルに着くお母さん。
「え~と。何から話そうかしら」
「うんうん」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・。
~~~~~
「と言うことがあったの」
「へぇ~異世界から来たユーキさんねぇ」
一通りユーキと会った時から話しをした。
もちろん一番最初の『全裸事件』のことは省いてだけども。
「じゃあフェルはこれから、そのユーキさんといっしょに依頼を受けるのね」
「えぇ、そのつもりよ」
頷いた私は明日のことを考えて、思わず笑みが浮かんでしまう。
「(明日はまずミィルのところに行ってユーキと合流、ギルドの説明とかして、依頼を受けて、それから、あ~、あと魔法の練習もあったんだ)」
今までの退屈な日常から一変、異世界からやって来たという男と出会って、私は今生き生きしている。
「でも、よく男とパーティを組む気になったのね? あんなに『男なんかっ!』って言ってたフェルが」
「あれは周りの男がダメダメ過ぎたのよ。その点ユーキなら問題無いわ」
「ふふふ、そう」
今までフェルに言い寄ってきた男達は数多くいた、散歩中、買い物中、ギルドで依頼確認中、依頼遂行中、わざわざ臨時パーティを組んで、依頼を遂行する人気のいない場所で襲いかかろうとした輩もいた。
最後の男は魔法攻撃と、股間を全力で蹴り上げることで撃退した。
「(そういえば襲ってきた男の話しあれ以来一切聞かないわね)」
―――実はグインタビューギルド支店の掟(男限定)によって、ガンスに制裁を受け街を出たことを知らないフェルだった―――
「フェルはユーキさんが好きなのね」
「なっゴホッゴホッ!」
いきなりお母さんに突拍子も無いことを言われてむせてしまった。
「な、何言ってるのよお母さん!」
「あらあら、まあまあ。これはこれは」
ニヤニヤしながら私の顔を見てくる。
私は顔に手を当てて隠そうとした。
「(やだ、なんで私こんなに顔が熱くなって!?)」
手から伝わってくる体温はとても熱いものだった。
きっと私の顔は真っ赤に染まっていることだろう。
「私は応援するわよ。そのユーキさんって、パパに似てるみたいだし」
そう言われてみれば、確かにお父さんに似ている気もする。
顔立ちは平凡だけど、腕が立つところとか、雰囲気とか・・・・・・ハッ!?
「か、からかわないでよ! もう、私寝るから!」
「あら~? 湯浴みは?」
「いい! 明日の朝にする」
私は湯浴みすらせず二階の部屋に入り、そのままベッドへとダイブした。
「(私がユーキを好き? そんなはず)」
思い出すのは、森で私の前に立ってデスドッグを薙ぎ払ったユーキの背中、自警団で凄腕三人に勝ったユーキ、ギルドでガンスに勝ったユーキ・・・・・・。
「(心臓がドキドキする)」
もしかして・・・私は、本当に・・・・・・。
『キャアァァァァァァ! へ、変態ーーーー!』
『ご、誤解だあぁぁぁぁぁぁ!(全裸で叫ぶユーキ)』
「はっ!? 私は何を!? お母さんに流されすぎだわ!」
一番初めの出会いを思い出したらドキドキもいつの間にか薄れていた。
「もう、寝よう」
今日は疲れた。
最初の全裸は誤解だって分かってるし、もう気にしていない。
明日に備えて早く寝ないと。
「おやすみ」
返事はないが、そのまま私は眠りに就いた。
ただ、心臓の鼓動は少しだけいつもより脈打っている気がした。
お読み頂きありがとうございます。
評価、お気に入り登録して頂けると幸いです!
もう少しでお気に入り3ケタ!と喜んでいる作者です。
※誤字修正9/1