最終戦 【3】
マヤ・フェル・トールの三人と久しぶりに再会した俺。
今は宿の一階にある食堂の一角でひとつの机に座っている。
実はこの前に突然現れた俺とイリーナに、この宿を切り盛りするロイさんとパーラさん夫婦がびっくりするという場面もあった。
『いつの間に帰ってきた!?』と詰め寄るロイさんだったが、生憎と仕事が忙しいようで『後で話し聞かせろよ!』といって仕事に戻っていった。
パーラさんもその時に話しを一緒に聞くそうだ。
「さてと、悪いんだけどトール。マギー達を呼んできて貰える?」
「わかりました、フェルさん」
「えっ!? マギー戻ってきてるのかっ」
トールはフェルに言われマギーを呼ぶために宿を出て行った。
「えぇ。この間街中でばったり鉢合わせしたの。マギーはどこかで仕事をしてきてこの街にきたみたいだったわ」
「そうなのか。あとさっきマギー達って言ったよな」
「そうよ。マギーの他にもフィーネやシェスカもね」
「二人だけか? あと男の人もいなかったか?」
「私があったのは今言った三人だけよ?」
トマスさんには会ってないのか・・・・・・無事だと良いけど。
でもよかった。
あとの三人は無事だったんだな。
・・・・・・あれ?
「フェル。シェスカとフィーネと知り合いだったのか?」
「マギーを通してお友達になったわ」
あぁ、なるほどな。
「あと・・・簡単な話は三人から聞いているわ。ユーキ達がソプレゼの領主様の依頼で何かの仕事をしているって」
「そうなのか」
「けど詳しいことは教えて貰えなかったわ。ねぇ? 一体何をしてるの?」
フェルは心配そうな目で俺を見てくる。
でも言えない。
これは秘密裏に俺達が片付けないと行けないことなのだから。
「悪いがそれは言えないんだ。他の人に話すのは禁止って領主様の命令もあるんだ」
そう言えば深く追及してくることもないだろう。
仕事の中で、しかも領主様からの命なのだからフェルも無理強いしてくることはないはずだ。
事実フェルは『そうなの』と残念そうな顔をして呟いて以降追及してくることはなかった。
だが代りに俺達の着いている机には沈黙が漂っていた。
だがその沈黙も破られることとなった。
「ユーキさん!」
宿の扉が乱暴に開く音がして誰かが靴を鳴らして食堂に飛び込んできた。
「マ、マギー?」
「ユーキさん、あぁ、よかった。無事でよかったっ」
飛び込んできたのはトールが呼びに行っていたマギーだった。
マギーは食堂の入口から俺の事を見つけるとそのまま真っ直ぐ俺の元へやって来て抱きついてきた。
今はゴーストではなくちゃんと肉体を得た状態だ。
「マギー。そんなことをしている暇はないわよ」
「お~。二人とも~。大丈夫だった~?」
マギーに遅れてシェスカとフィーネの二人が食堂に顔を見せる。
「二人も無事で良かったよ」
「私たちだけじゃないわ」
シェスカが後ろに目配せすると呼びに行っていたトールと、同盟のトマスさんが並んで丁度入ってくるところだった。
「いやぁ、二人とも無事で何より。我々だけ別に飛ばされて肝を冷やしていたんだよ」
「トマスさんもご無事で」
「あぁ、何とか・・・ね・・・・・・ひぃ!?」
トマスさんが突然奇声を上げた。
その声にみんなトマスさんの方を見た。
「フェ、フェ、フェル!?」
そしてトマスさんはフェルの名前を呼ぶ。
「え? お父さん? どうしてここに居るの? 王都にいるはずじゃ」
「―――はぁ!? トマスさんがフェルのお父さん!?」
まさかの事実。
トマスさんはフェルの父親だった。
そういえばトマスさん言ってたな。
奥さんと娘さんがいるって。
でも近衛兵を辞めて同盟に参加してるのは内緒で、家族には今でも王都で兵士をしているって嘘をついていたんだっけ。
「ユーキ、お父さんと知り合いなの?」
「あ、あぁ。今一緒に仕事をしていて」
「ユーキ君っ、それは内緒だって!」
「あっ」
咄嗟に口に手を当てるが後の祭。
フェルはまるで獣のような鋭い目でトマスさん――父親に狙いを定めている。
「ちょっとお父さん。どういうこと? ユーキと一緒の仕事って? 王都で兵士してたんじゃなかったの? お母さんはこのこと知ってるの?」
「フェル、これは、その」
滝のように汗を流すトマスさん。
助けを求めるように俺やイリーナ、同盟のみんなに目を向けるが・・・・・・俺とイリーナはそっと目を逸らし、シェスカは首を振ってフィーネは状況がわからない様子で頭の上に『?』が浮かんで見える。
マギーは未だに俺にしがみついていて、頬を膨らませたマヤに振り解かれそうになるという攻防を繰り広げていた。
「えっと。これはどうしたら」
トールは一人空気と化している。
「フェル。とりあえず今は勘弁してあげてくれないか。ちょっとトマスさんと話したいこともあるんだ」
このままではいつまで経っても進展しないと思い、俺はとりあえずフェルを宥めることにする。
トマスさんは目に見えて感謝していた。
「・・・・・・わかったわよ」
「はぁ~」
「でもお父さん。あ・と・で、話し、聞かせてもらうからね」
フェルの最後の微笑みを見てトマスさんは涙目になって震えていた。
・・・・・・ちょっと幻滅してしまった。
「主。何やら外が騒がしいです」
イリーナが俺の袖をチョイチョイと引いてそういった。
耳を澄ませてみると、確かに様子がおかしい。
「ちょっと見てきます」
「じゃあ僕も」
シェスカがトマスさんに一声掛けて宿を出る。
トールもその後に続いた。
「俺達も行ってみよう」
俺が声を掛けてマヤとフィーネを除いた全員で宿を後にする。
『何だと思うアレ?』 『何だろうな・・・鳥?』 『いや、鳥にしちゃでかすぎだろ』 『もしかして魔物か!?』 『でもこの辺りで飛行系の魔物って聞いたことないぞ』 『ママ~、アレ何~?』 『何かしらね~』
通りに出てみると他にも騒ぎを聞きつけて集まった野次馬が沢山いて、口々に『アレは何だ』と言いながら空を見上げ指さしている。
俺達もそれに釣られて空を見た。
そして、そこに悪魔を見た。
「あれは!」
「どうしたのユーキ?」
「アイツだよ! 仮面だ! あれは仮面の奴なんだよ!」
誰が聞いたかわからなかったが俺は大声で答えた。
悪魔はソプレゼの街を見渡すように上空で制止する。
そして両手を横にバッ!と広げると無数の火炎弾を周囲に展開した。
それを見てソプレゼの街の住民達は危険をようやく理解して逃げ出した。
だが通りは集まった人々で溢れていて逃げ出す人達による将棋倒しがあちこちで見られることとなる。
ソプレゼの街に常駐する兵士、騎士達も集まってきたが無駄だった。
悪魔の手はもう止められない。
悪魔が広げていた手を前に突き出す。
そして火炎弾が雨のようにソプレゼの街に降り注いだ。
お読み頂きありがとうございます。
スピーディな物語の持って行き方が上手く行きません><。
この回は後日修正する可能性があります。
そしてようやく戦の幕開けです。
ようやくここまでやって来ました。
【次回】強襲、避難、最後の戦い




