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説得

 

 

 

 俺目掛けて飛来する魔法、魔法、魔法―――。

 まさしく雨のように降りかかってきた。



「ちっ!」



 とにかく防御しなくては。

 イリーナの方にも魔法は向かっているが、彼女ならこれくらいどうって事はないだろう。

 俺は土壁、氷壁を作り出し魔法で作られた物理的な攻撃を防ぎ、突風、炎弾、雷撃で魔法自体を迎撃した。



「ふふふ、自らの魔法でやられる気分はどうですか?」



 仮面は俺とイリーナの二人が防御に専念するのを見て機嫌が良さそうに笑う。

 だが手を抜くことはなく、何度も指を鳴らして魔法を発動し放ってきた。



「(くそ、多分あの魔呪具を何とかすれば良いんだろうけどっ)」



 仮面が持ってる魔呪具を壊すか奪うかすればとりあえず大人しくなるだろうと思うのだが、如何(いかん)せん魔法が絶え間なく飛来するので身動きが取れない。



「(こんなに俺とイリーナの魔法って厄介だったのか)」



 これが他の者の魔法だったら何とか出来る自信があるのに。

 実際に俺とイリーナの魔法を受けてみて初めてわかったその威力。

 一瞬でも気を抜いたら蜂の巣にされそうだ。



「っ!? うぐっ」



 ちょっと考え事に気を取られたところに、土魔法で作り出された棘が地面から襲いかかってきた。

 致命傷こそ真逃れたが太ももの肉を少し持って行かれた。



「主っ、ご無事ですか」

「ああっ、だけどめちゃくちゃ痛い」



 痛さで集中が乱れそうになる。



「私が援護します」



 だが、イリーナのサポートも加わり何とかその後も防ぐことが出来た。

 その代りイリーナの負担が増えてしまい、彼女は歯を噛み締め眉間は辛そうに寄っていた。



「なかなか粘りますね。ですが、いつまで持ちますかね?」



 仮面は今度は自らの側に空気を圧縮し始めた。

 それはどんどん大きくなっていき、さながら台風の球のようだった。



 さすがにアレは拙いと感じ取り俺とイリーナは更に防御の壁を強めた。

 あの球は触れただけでもきっと体をバラバラにするだろう。

 物理的に防ぐか、魔法で迎撃するか。

 そう考えていたところ仮面が突如慌てだした。



「主様っ!?」



 そう仮面が叫ぶと同時に今まで俺とイリーナを襲っていた魔法は全てかき消えた。

 後に残ったのは壁を作り出したり魔法が炸裂して凸凹になった地面と壁だった。



「主様っ、主様っ!」



 俺は警戒して少し待ってみたが魔法が飛来してくる様子はなかった。

 隣り合わせに立っていたイリーナの方を見て彼女とアイコンタクトを取る。

 作り出していた壁を魔法解除してただの土塊に戻すと、その向こうでは仮面が地面に前のめりに倒れていた男の白骨遺体にしがみついていた。



「どうしたんだ?」



 何がどうなっているのか、状況がよく分からない。



「私が見ていたのはあやつが作り出した魔法。それが限界まで膨れあがった時の余波で、あの亡骸(なきがら)が倒れたところまでです」



 俺とイリーナに目もくれずひたすら叫び続け、男の亡骸の安否を確認している仮面。



 ―――今だったら説得出来るか?



 俺は無言で仮面へと近づいていく。

 手を伸ばせば触れる距離まで来ても仮面はこちらにはノータッチだった。



「おい、もうやめろ」

「邪魔するな! 主様! 起きて下さいっ」



 仮面の肩に手を伸ばして言うが手を振り払われた。

 やっぱり・・・・・・こいつはこの男がまだ生きていると錯覚、もしくは思い込んでいるんだな。

 ―――だったら早くこの呪縛から『解放』してやらないと。



「・・・・・・」



 俺は刀の切っ先を仮面の後頭部へと向ける。

 あとは振り下ろして頭をかち割るなり、突き刺したり、薙いで首を落とせばいいのだが・・・・・・俺は命を取らなくても、解放することが出来るのではないかと思ってしまった。



「おい」



 俺の声に仮面は答えない。



「そいつはもう死んでるんだよ」



 その言葉も耳に入っていないのか、ひたすらに地面に倒れ込んでいる亡骸に叫ぶ仮面。



「だから! そいつはもう死んでるんだよ!」



 俺はその姿が痛々しく思え強行手段を取ることにした。



「何をするっ」

「イリーナ、コイツを抑えてくれ」

「わかりました」

「何をっ、離せ!」



 俺が仮面の後ろから回り込み男の亡骸に手を伸ばすと、仮面は今度はさすがに反応して邪魔をしてきた。

 だが俺はイリーナに命じて仮面の動きを遮る。

 そして邪魔するものが居なくなり、俺の手は男の亡骸に掛かっていたローブを剥ぎ取った。



「・・・ぇ?」



 仮面が小さく呟く。

 目の前に広がる光景が信じられないのだろう。



「主、様?」



 俺達の眼下に広がるのは白骨。

 しかも倒れた衝撃のせいなのか所々折れたりヒビが入りバラバラになっていた。

 椅子から倒れただけでこうなると言うことは、それだけ昔にこの男はなくなっていたのだろう。



「わかったか。お前の主はもうこの世にはいなかったんだ」

「・・・・・・だ」

「お前は多分主の死が信じられなかったんだと思う。だから今までそれを受け入れられず生きていると思い込んでいたんだろう」

「・・・そだ」

「だからもうこんな事は止めよう。主のためにってしていたことは、もう意味がないんだ(・・・・・・・・・)



「うそだっ!」



 仮面は魔力に言わせて体を強化してイリーナの拘束を無理矢理引き剥がす。

 そのまま広間の出入り口に走っていってしまった。




最後までお読み下さりありがとうございます。


※作中のように狂人に無理矢理現実を突きつけるのは大変危険な行為です。

カウンセリングの視点から考えると、ゆっくりじっくり馴らしていく必要があります。


【次回】仮面の暴走

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