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嵌められた戦い

 

 

 

「それじゃあ、第二ラウンド開始だっ」



 俺は刀を構え―――、



「うっ!? くぅっ!」

「主っ」



 右手に激痛が走り刀を落としてしまった。

 そういえば右手の指折っちゃってたんだ。



「ケガをしているんですね。今治癒魔法を」

「そ、んな暇はない、ぞっ」



 赤鬼がドスドスと走り寄ってくる。

 その巨体ゆえに鈍足だが、さすがに治癒魔法を掛けている暇はない。



「とにかく、あいつを片付ける、ぞ。イリーナ」

「・・・はい」



 痛さで途切れ途切れになりつつもイリーナの目を見て言う。

 すると何故かはわからないが、なんとなくイリーナの考えていることがわかるのだ。

 召喚した者(俺)とされたイリーナだからだろうか?



『GUOOO!』



 そんな風にアイコンタクトを取っている俺とイリーナ目掛けて、赤鬼が足を高々と持ち上げ踏みつけをカマしてこようとする。



「散れ!」

「はっ」



 俺とイリーナはそれぞれ左右に飛び退き踏みつけを躱す。

 そして攻撃を躱された赤鬼は迷わず俺の方にターゲットを絞って向かって来る。

 俺は刀を鞘に戻しつつ開いた方の手でピストルの形を作り、指先に魔力を集中させた。



「そらよっ!」



 そしてドパンッという音が銃口に見立てた指の先から鳴り、圧縮した空気を撃ち出した。

 これはある意味爆弾のような物で、何かにぶつかった衝撃で圧縮していた空気を解き放つ仕組みになっている。

 狙いを付けた場所目掛け寸分違わず圧縮弾は飛んでいき赤鬼の顎に命中した。



『GO、O、OO』



 さすがに顎に衝撃を受け脳が揺れたようだ。

 赤鬼の動きが止まった。

 単純に突っ込んでくる相手だから出来た芸当だ。

 腕でガードされなくて良かった。



「今だイリーナ!」

「はっ」



 そして動きを止めたところにイリーナの魔法が炸裂する。

 イリーナの小さな気合いを入れる声の後に現れたのは、天高く立ち上る『炎の竜巻』だった。

 俺は魔法の予兆を感じると直ぐさま全力で赤鬼から距離を取る。



『GYAAAA!?』



 竜巻は赤鬼を中心に分厚い壁を作り上げた。

 あまりにも炎の密度が濃すぎて赤鬼の姿が見えないほどだ。



「ついでだっ、これももらっとけ!」



 俺はイリーナの発動した炎の竜巻に合わせて竜巻を放った。

 ただでさえ通常では考えられない炎だったところに、竜巻が加わったことで十分な酸素が供給されたこととなった。

 つまり、炎の規模が増大した。



『――――』



 もはや赤鬼が何か叫んでいるのかどうかすらわからないほど、炎のゴオオオッと言う音が屋敷に反響して庭を包み込んでいた。



「うっ、あつっ」



 さすがにもう十分じゃないだろうか。

 あまりの暑さで花壇に植えられていた花が萎れてきた。

 これ以上やったら自然発火するのではないだろうか。



「イリーナ! やめやめ!」

「――?」

「ストップ! もう十分だろ!」

「―――」



 音が大きすぎて声が届いていないようだ。

 暑くて目も開けていられないのでアイコンタクトも取れない。

 俺は頭の上で両手をクロスさせ『×』とイリーナにして見せ魔法を止めさせた。

 


「―――」



 イリーナはちゃんとジェスチャーの意味を理解したようで、魔法の発動を止めた。

 ゆっくりと上の方から炎の竜巻が消滅していく。



「・・・・・・うそだろ」



 そして俺は目を疑う光景を()の当たりにした。



『U、GU、O、O――』



 なんと赤鬼はまだ生きていた。

 体の所々を炭化させてはいるが、まだ普通の肌の部分が多い。

 あれ程の魔法を受けてこの程度で済むなんて・・・・・・正真正銘の化け物だ。



「・・・はっ、イリーナ! 攻撃するんだっ」



 俺は再び攻撃を再開した。

 イリーナもそれに続いて魔法を放つ。



 俺が魔法で無数のかまいたちを作り赤鬼を滅多切りにする。

 イリーナがウォーターカッターのような水流を放って赤鬼を貫く。

 そしてその攻撃で赤鬼の四肢や首は飛んだのだった。



「さすがにこれなら」

「・・・いえ、主、まだのようです」



 それでもまだ動く赤鬼だった。

 首が皮一枚繋がった状態でブラブラしているにも関わらず、変な咆哮を向いている首は何かを叫ぶ。

 左脛から下を消滅しているがバランス悪くも立ち上がり、二の腕から下がない右手を伸ばして俺達と戦おうとする。

 



「なんだコイツ。不死身かよ」

「気味が悪いです」



 イリーナはどこからか出したハンカチで口元を押さえている。

 俺はまだ地球でゾンビやら幽霊が出てくる映画で耐性があったが、どうやらイリーナはこれ系は苦手なようだ。



「とにかく、ありったけの魔法を叩き込むしかないっ」



 俺は攻撃を再開した。

 それこそ魔法全属性適正持ちの本領を発揮し、全ての属性魔法でだ。



「主、お手を拝借致します」



 そんな俺の隣にやって来たイリーナは怪我をした右手に治癒魔法を掛けてくれた。

 今の赤鬼が相手なら突然走ったり出来ないので大丈夫だろうと思いそのままやらせることにする。

 ちょっと経つと俺の折れていた指はすっかり元通りになり、痛みもなくなった。



「ありがとう、イリーナ。さて、コンディションもばっちりだし、決めさせてもらうぞ!」



 先程までの痛みもなくなり、イリーナも側にいることで本来の俺の実力を発揮出来る条件が揃った。



 そして、ついにその時はやって来た。



『G、UU、U・・・・・・』



 ズズンと赤鬼だった物(・・・・・・)は地にひれ伏した。

 そして足下から徐々に上に向かって体が消滅していく。

 斬り飛ばした四肢もそれに合わせて消えていく。



「ふぅ――終わった、か」



 最後は一方的に魔法を離れた場所から撃ち続けるだけだった。

 何でもイリーナが言うには、赤鬼は魔法が自身に当たる瞬間に魔法の威力を軽減?していたそうだ。

 どうやってかはわからないし、イリーナもよく分かっていないようだったが――。



『――やあやあ。どうやら見事に突破出来たみたいですね』



 そして赤鬼の体が消滅したそこには、例の地球儀のような魔呪具がポツンと置かれていた。

 そういえばこれって赤鬼に取り込まれていたんだっけ?

 すっかり忘れていた。



「ああ、お陰様でね。それでおま――」

『君たちのおかげで最後の目的が達成出来ました。ありがとう』

「え、って、何だと?」



 俺の言葉を遮って仮面が話す。

 しかも若干嬉しそうなニュアンスが聞いてとれる。



『あの化け物はね、魔法を受ける度その魔法に使われていた魔力を吸収していたんですよ。そしてこの魔呪具を通してこちらに魔力を送っていたんです』



 じゃああの魔法が効きにくかったのは、魔法の魔力を奪っていたからだっていうのか。



『そして魔力が十分に溜まったので用済みとなり消滅したんですよ』

「お前、いったい何を企んでいるんだ」

『ふむ、いいでしょう。約束通り私の目的を教えてあげますよ』



 そう仮面がいうと魔呪具から魔方陣が地面一杯に広がった。



「これは、転移っ。無効化は・・・間に合わないっ、主っ」



 イリーナが俺へと手を伸ばす。

 俺も伸ばし返したところで転移魔方陣が発動した。



『ようこそ、そしていらっしゃい。我が主様の居城へ』



 誰もいなくなったボロボロの庭に仮面の人の声が小さく呟かれたが、それを耳にする者は誰もいなかった。

 魔呪具もまるで水のように波紋を浮かべる地面へと沈んでいき、その場には激しい戦闘の傷跡以外何もなくなったのだった。






お読み頂きありがとうございます。


イリーナが戦いに参加したおかげで最後はあっけなく終わりになりました。

それ以前に主人公は手加減していたので、本気を出せばこんな感じかと。


【次回】仮面と二度目の相対


※誤字修正、加筆12/22

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