表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
79/92

氷柱チェーンガン

微妙な時間の投稿になってしまいました。

 

 

 

 赤鬼は自身に突き刺さっている刀を引き抜こうと藻掻(もが)く。

 だが規格外に発達した筋肉が邪魔をしているのか、左脇腹に刺さった刀まで右手が届かないようだ。

 左手も関節の可動範囲の関係で使えない。



『GAAAA!』



 そして最終手段のつもりだったのか、左肘をぶつけて刀を折ろうとした。

 だがこの刀はそこらにあるようなただの刀ではない。

 神様がくれた『折れず・曲がらず・腐食せず』という効果がある特別製だ。



 もうお分かりだろう。

 そんな刀を肘でぶっ叩くとどうなるか。



『GYYYYY!?』



 正解は突き刺さった刀の部分が揺さぶられ傷口を大きくする、つまり自滅行為だ。

 だが無駄ではなかったようだ。

 傷口が大きくなり、さらに刀を止めていた筋肉も切断されたのかゆっくりと刀が抜けてきた。



『NNUUUU!』



 そしてついにカランという音を立てて刀が地面に落下した。

 赤鬼は呼吸を荒げつつも抜け落ちた刀を拾い上げる。



「まさか使おうっていうんじゃないよな」



 赤鬼が持つと一般的な長さの刀が随分と小さく見える。

 拾い上げ方も握るのではなく摘み上げるようだし。



 だが俺の危惧は取り越し苦労となった。



『OOOGAAAAA!』

「あっ!」



 止める間もなく相手は腕を振りかぶって刀をぶん投げてしまったのだ。

 ヒュンヒュンヒュンと回転しながら屋敷の屋根の上を越えて見えなくなる刀。

 これで俺の武器はなくなってしまった。



「このっ、何してくれてんだ!」



 カッとなって魔法を発動してしまう俺。

 あの刀はこの世界に転移してきた時から使ってきた相棒とも言える代物だ。

 愛着のある物を粗末にされたら誰だって怒るだろう。



「ふぅっ!」



 俺は庭にあった噴水の水を使って空中に巨大な水球を作り出す。

 そこから2リットルペットボトルサイズの氷柱(つらら)を作り出す。

 そう、水がなくなるまで(・・・・・・・・)



『―――!?』



 その光景に赤鬼は攻撃を仕掛けることも忘れて釘付けになる。

 水球は跡形もなくなり、俺の周りには(おびただ)しい数の氷柱の群れが宙に浮いていた。

 氷柱の本数は軽く三ケタはあるだろう。



 あとは―――放つのみ。



「俺の奢りだ。遠慮せず喰らえ(・・・)!」

 


 俺に一番近い氷柱から順に赤鬼へ向かってまっしぐらに飛んでいく。

 間髪入れず次の氷柱、また次、次と放たれるそれはまるでチェーンガンのようだった。



『―――』



 赤鬼は何か声を出しているようだが聞こえなかった。

 まるで機関銃のように連射される氷柱が命中、もしくは外れて屋敷や庭に植えられた木々に当たる音や、氷柱が粉砕される音が他の音を凌駕して当たりに響く。



 今回作った氷柱はただ魔法で水を凍らせただけの物ではない。

 氷柱の表面、内部、素材の水に俺の魔力を混ぜ込んだ、名前を付けるなら『魔氷(まひょう)』だ。

 とても燃費が悪いがその分氷による物理攻撃と、魔力による魔法攻撃を同時に与えることが出来る。

 俺の編み出したとっておきのひとつだ。



 ちなみにこの『魔氷』は一般的な魔術師には使えない。

 俺みたいな無尽蔵に近い魔力を持っていてしても魔力がごっそり減ったのがわかるレベルだ。



「―――はっ!」



 時間にして一分くらいだろう。

 赤鬼が立っていた場所は狙いがはずれた氷柱が巻き起こした土埃やら何やらで覆われている。

 そしてさらに赤鬼の背後にあった屋敷も甚大な被害を被っていた。



「やばいっ! だ、誰かいたらどうしよう!?」



 屋敷の中で無力化し意識がない人達に被害がないように、強めの魔法は使わないようにしていたのに。

 ついカッとなってやってしまった。

 今の俺は後悔しか頭にない。



「とにかく確認にっ」



 俺は至る所が崩れている屋敷に駆けだした。

 しかし―――、



「ぐえっ!?」



 ――突然俺の首が絞まった。



「ゴホゴホッ、な゛、なんだ?」

「申し訳ありません、主」



 どうやら後ろから襟を掴まれたようだと気づき振り返るとイリーナが立っていた。

 そして何故かその手には、先程赤鬼に放り投げられた俺の刀『烈光丸』が逆手に持たれていた。



「イリーナっ、俺ついカッとなって屋敷に被害を」

「主、落ち着いて下さい」

「でも」

「既に屋敷内の使用人達は屋外へ移動させました」

「本当に!? よかったぁ」



 イリーナの言葉を聞いてほっと一安心した。

 


「はあぁ・・・・・・一時はどうなるかと――ん?」



 膝に手をついて項垂(うなだ)れていると立ちこめていた煙がユラリと動いた気がした。



「まさか、アレを喰らってまだ動けるのか?」



 驚きつつ煙の向こうに見える影に視線を注ぐ。

 そしてその影――赤鬼は煙の中からゆっくりと踏み出し出てきた。



「主、これを」

「あ、そういえば拾ってきてくれたんだ。ありがとう」



 (うやうや)しく刀を俺に手渡すイリーナ。

 ・・・・・・うん、見たところ刀身に傷はない。

 柄に巻いてある柄糸(つかいと)が若干解れてる程度だ。

 まぁ加護があるし当然といえば当然か。



「しかし、主の魔法を受けてもほぼ無傷ですか」

「だな。どれだけタフなんだ」

「妙ですね・・・主の魔法を受けてこの程度しか? 気になります・・・・・・」



 イリーナは何か違和感があるらしく、眉をひそめブツブツ呟きながら赤鬼を睨み付ける。 



 そんな赤鬼の体にはあちこちに氷柱が刺さった後があり、そこから少量の血を流している。

 ちなみに血の色は黒っぽい赤だった。

 多分だが刀で突きをお見舞いした時のように、筋肉に阻まれて致命傷を与えられたかったのだろう。

 わかっていたことなのに、頭に血が上るあまりすっかり忘れてしまっていた。



『GUUUU・・・・・・!』

「――じゃあ、第二ラウンド開始、かな」



 唸っていた赤鬼が形容しがたい咆哮を上げ、再び戦いの火蓋は切られた。





最後までお読み下さってありがとうございます。


赤鬼退治は次回で完了の予定。

物語のラストが見えてきます。


【次回】赤鬼決着、そして・・・

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ