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鬼退治

 

 

 

 赤鬼の咆哮で体が硬直してしまう。

 耳を手で塞いでいても聞こえてくる。



『GAAAA!』



 そんな俺目掛けて固く握りしめられた拳が振り下ろされる。

 握られた拳は人の頭ほどの大きさがあり、直撃すれば簡単に相手を文字通り潰すことが出来るだろう。



「させませんっ」

『WOOOO!?』



 だがイリーナがそうはさせないと横やりを入れる。

 部屋にあった貴金属の類が彼女の魔法によって手繰り寄せられ、俺の前に実に豪華な素材を使った壁を作り出した。



「イリーナ!」

「ここで戦うのは得策ではありません」

「あぁっ、いったん外に出よう!」



 この狭い空間で戦うのは難しい。

 俺は壁のおかげで赤鬼が視界から消え、硬直が溶けた体に鞭を打ち部屋から脱出する。


 

「お急ぎ下さい。あの壁はそうは持ちません」



 イリーナがそう言うのと壁の一部が崩れるのはほぼ同時だった。

 即席で作った上に素材はそこら辺にあった調度品やら装飾品だ。

 赤鬼のあの見るからに力強い拳の連打には耐えきれなかった。



『GOAAAA!』



 そしてついに壁が崩れ落ちる音が背後から響いてきた。

 次いでズシンズシンと赤鬼が駆けてくる震動が地面越しに伝わってきた。



「どこで戦うか」

「とにかく広い場所が良いかと。あの巨体に捕まったらさすがに危ないです」

「だな・・・・・・ん?」



 屋敷の長い廊下を走っていると、ふと目に入ってきた物があった。



「主? 如何(いかが)なさいましたか?」



 突然走るスピードが落ちた俺の速度に、空をフワフワ飛んでいたイリーナが合わせる。



「あそこに行こう」



 俺がそう言って指さした先にあったのは花壇やベンチが備え付けられていた庭だ。

 正確には屋敷に囲まれている中庭のようなスペースなのだが、かなり広く体育館くらいは余裕でありそうだ。



「あそこなら街に被害も出にくいだろう」

「そうですね。ただこの屋敷の被害は甚大になりそうですが」

「それは、仕方ないって納得しよう」



 そもそもこの屋敷の主だというあの男は今や化け物になってしまっているのだ。

 文句を言ってくる人もいないのではないだろうか。



「あ、眠ってもらってる使用人の人達はどうしよう」



 あの部屋に辿り着く前に無力化してきた人達。

 あの人達は屋敷の至る所に横たえたままだった。



「・・・・・・よし。イリーナ、あの人達を安全な場所まで運んできてくれないか」

「主は?」

「俺はその間あいつの注意を引きつけておく」



 とりあえず庭に移動しながら話す。



「とりあえず門外まで移動させればいいかな」

「それでは主が危険です。相手の力もまだ未知数なのですから」

「わかってるよ。だからなるべく早くあの人達を移動させて加勢してくれ」

「私が残ってあれの相手をします。主が使用人達の移動――」



 イリーナが言おうとした言葉は最後まで聞き取れなかった。

 何故なら俺達が庭に出てくる際に通った出入り口を、(なか)ば壊すように赤鬼が突入してきたからだ。



「時間切れだ。イリーナ頼むよ」

「主っ」

「お前だけが頼りなんだ」

「・・・わかりました」



 イリーナの目を見つめ頼み込む。

 するとイリーナはようやく折れてくれた。



「すぐ戻ってきます。主、お気を付けて」

「あぁ、あいつの強さは未知数だからな。無茶はしないよ」

「では」



 イリーナは自身の姿を魔法で透明にして見えなくする。

 相手は突然消えたイリーナに驚いたりどこに行ったのか探すかと思いきや、初めからイリーナのことは眼中になかったのか、俺目掛けて突進してきた。



「初めから俺狙いだったのか? 好都合だけど、なっ!」



 相手が大体庭の中央まで来るように誘導する。

 俺目掛けて愚直に突っ込んでくるので簡単な仕事だった。



『UUUU・・・』

「あれ? どうした」



 突然動きを止めた赤鬼。

 犬が威嚇するように喉の奥からうなり声のような音がする。



「何だか知らんがチャンスっ」



 とりあえず様子見を兼ねて花壇の縁に埋め込まれていたレンガをひとつ抜き取り投擲する。



「おらっ」



 そのレンガは弾丸とまでは行かなくともかなりの勢いで赤鬼へと飛んでいく。

 そしてその大きな体のど真ん中に命中した。



『BAAAAA!』



 だが砕けたのはレンガだけだった。

 赤鬼に体にはレンガの砕けた際に出た埃しか付いておらず、まるで効いていなかった。



「まじか。打たれ強いっていうか、頑丈だな」



 俺のレンガ攻撃に怒ったのか、立ち止まっていた赤鬼はまた突っ込んできた。



「ならこれでどうだ!」



 刀を抜き放ち、相手の側面へと回り込む。

 きっと赤鬼からしたら俺は消えたように見えただろう。

 実際キョロキョロしている。



「せぇいっ!」

『GUAAAA!?』



 そのまま俺は正眼から斜め上目掛け――赤鬼の左脇腹から右肩へ――突きを放った。

 レンガは粉砕した筋肉の鎧に刀の切っ先がブスリと突き刺さる感触が伝わる。

 刀が五分の一ほど突き刺さり、そのまま一気に力を入れようとした――――その時だった。



「っな!?」



 刀がそれ以上進まなくなった。

 俺は慌てて刀を抜こうとしたがそれも叶わない。



『WOOOO!』

「ちぃっ」



 赤鬼の左腕が振られ肘が俺の顔目掛けて迫る。

 回避するため刀から手を離してバックステップした。



「まさか、筋肉を締めたのか?」



 漫画とかで見たことがある。

 だがまさか本当に出来るとは思わなかった。



「さて、得物が捕られちゃったな」



 赤鬼は刀が突き刺さっているにも関わらず、それを無視して向かって来る。

 イリーナが戻ってくるまでどうやって時間を稼ぐかな。




 

お読み頂きありがとうございます。


物語も佳境を迎えて参りました。

あと大きな戦闘は何回あるかな?


【次回】赤鬼の脅威


※誤字訂正12/16

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