守護者 番人 化け物
少しだけ生々しい(グロ)箇所があります。
こちらを見つめたまま微動だにしない男。
ちょっとぽっちゃり目の体型で顔やら首が弛んでいる。
身につけている物は高そうな服や装飾品で、金糸やら高そうな宝石?が光っている。
おそらく彼がこの屋敷の主なのだろうと想像がつく。
「おい」
「・・・・・・」
俺が声を掛けてもウンともスンとも言わず身動き一つしない。
だが瞬きもしない瞳は確かに俺達を捕らえていた。
「何とか言ったらどうだ」
『じゃあ『何とか』言ってみようか』
「!?」
男の口が動いていないにもかかわらず部屋に声が木霊する。
―――というか、この声って。
「主、声はあの魔具から聞こえているようです」
『正解です』
声の主はケタケテと小さく笑っていた。
その声は探し求めていたあいつ、『仮面の人』の物だ。
『ようやくここまで来てくれましたね。待ちくたびれそうでしたよ』
「なんだと?」
『あ、少しは楽しめた場面もあったかな? あの四人と戦ってる時とか』
どこから見ていたのだろう?
仮面の人はあの冒険者達との戦闘を見ていたようだ。
もしかした今も見てるのか?
「いったいどこにいる? 姿を現せ!」
『残念ですがそれは無理な相談です。私は離れた安全な場所からあなた達のことを観察していますので』
監視カメラみたいな物か?
きっとそういった魔法か魔具だろう。
「街を覆っている結界を解除しろ・・・って言っても無駄だろうな」
『良くお分かりで。もちろん、『住民を解放しろ』とかもダメです』
「いったい何が目的なんだ? なぜガルシュバを乗っ取るなんて事したんだ」
『目的、ですか―――』
そう言うと仮面の人は黙り込んでしまった。
「・・・・・・おい」
『―――』
沈黙に耐えかねて声を掛けるが返事が返ってこない。
「もしかして魔具が止まったのか?」
「いえ、あの魔具はまだ発動しています」
「わかるのか、イリーナ」
「はい。ただあの魔具がどういったものなのか、機能については手に取ってみないことにはわかりませんが・・・」
近づいてみるか?
いや、もしかしたら何かの罠かも。
椅子に座ったままの男はジーっと凝視しているし、いったいどうしたものか。
『――ふぅ』
ようやく魔具から仮面の声が聞こえた。
いや、声と言うより溜息に近い物だったけど。
『私の目的について教えてあげても良いです』
「何?」
突然どうしたというのだろう。
仮面の真意が本当に読めない。
『ですがタダでとは行きません』
「何だ。金でも取るって言うのか」
嫌みに聞こえるかもしれないがお金ならかなり持ってるぞ。
この世界に展翅した時神様が用意してくれたお金と、ちょこちょこ自分で稼いだお金が。
『いえ。お金なんていりません』
「じゃあ何だ。何が欲しい」
『あぁいえ。物が欲しいわけではありません。ただ、ちょっと資格があるか確認させてもらいます』
「資格だと?」
『はい。今あなた達の目の前に男がいますね』
仮面の言うことに吊られ、俺とイリーナは男を見る。
『その者はあなた達がいる屋敷の主で、私の協力者だった人物です。その男と戦って勝利したらお教えしましょう』
「・・・正気か?」
『えぇ、まだ狂ってはいませんよ』
仮面はクスクスと笑う。
俺は気にせず男を改めて観察するが・・・・・・万が一にも負ける気がしない。
イリーナもそのようで、『さっさと片付けてしまいましょう』とか言っている。
『あぁ、あとあなた達が貫いている『不殺』でも構いませんよ。殺す必要はありませんから―――まぁ出来れば、の話しですが』
最後の言葉に気味が悪い気配を感じた。
『それでは合図が鳴りましたら戦闘開始と言うことでお願いします。私は監視がてら観戦していますので』
「ちょっと待」
『健闘を祈ります――』
仮面は一方的に話を切ってしまい、それ以降反応はなかった。
「いったいどういうつもりなんだ」
「あのような狂人の考えを理解するのは難しいでしょう」
「だ、な・・・」
とにかく、罠の心配もまだ残っているが行動しないことには始まらない。
あいつの思惑通りに動くようで嫌だが目の前の男をさっさと片付けてしまおう。
「!? 主っ、あれをっ」
「っ!?」
突然男の膝の上にあったあの魔具が宙に浮いた。
そして膝の上から邪魔な物がなくなったからか、男はスッと立ち上がる。
「これが合図か」
「いえ主、まだ何かあるようです」
イリーナのいう通り、魔具が今度は点滅し始めた。
その光は赤黒く、不気味な輝きだ。
「う、う゛ぅぅ」
男は光に照らされ苦悶の表情を浮かべる。
そして、俺達の目の前でその姿を変えていく。
「これは! グインタビューの時のやつか!?」
忘れもしない馬鹿貴族ジョウン達とのいざこざ。
あの時の光景が脳裏を過ぎる。
『う゛ぅaaAAA!』
ぽっちゃりしていた男の体は変貌を遂げる。
筋肉が爆発するかのように盛り上がり、着ていた服がズタズタに引き裂かれる。
体の内側の質量が増えた結果、それに耐えかねた皮膚に亀裂が入り鮮血が迸り、ドクンドクンと脈動する肉が剥き出しになる。
それに留まらず爪は鋭く伸びていき口は大きく横に裂け、歯はポロポロと抜け床に落ちていき歯茎から新たに牙が生えそろう。
そしてベキッパキッと骨が折れる音が聞こえると、バランスを取るかのように揺れながら身長が徐々に伸びていく。
終いには人間だった頃の面影など全くなくなり、赤黒い肌をした筋骨隆々、まるで赤鬼のような化け物がそこに仁王立ちしていた。
「なんだ、これはっ」
「魔呪具です」
「魔呪具だと?」
そう、これは魔呪具によるものだったのだ。
だが前回ジョウンの父親が仮面に魔呪具を使われた時は、まるでバーサーカーのように狂い暴走しただけだった。
あの時は狂いはしたが人の姿だった。
「それが一般的な魔呪具です。ですが、少ないながらも『人間を魔物化させる』魔呪具も作り出されました」
「そんなものが」
「もうこの世から全てなくなり、製造法も失われたものと思っていましたが―――あの仮面はいったい何者なのでしょう」
イリーナの喉が口に貯まった唾液を嚥下する。
俺も喉を鳴らし額から流れる汗を拭うことも忘れ、目の前の赤鬼から目を離せなくなっていた。
『・・・』
「なっ!?」
赤鬼がこちらを見る。
だがすぐに目を離すと宙に浮いていた地球儀に似た魔呪具を、その大きな手で起用に掴み取った。
そしてそれを自分の胸元に押し当てたかと思うと、魔呪具はズブズブと赤鬼の体内に取り込まれてしまった。
『WOOOAAAAA!』
体内に魔呪具が取り込まれたことに驚いていると、空気を、部屋を、屋敷を、そして俺達を揺さぶるまるで近くで爆発でも起きたかのような咆哮が、目の前の赤鬼の大きく裂け牙が並んだ口から放たれる。
思わず俺は耳をふさいで後ろに仰け反りたたらを踏んでしまう。
―――それが俺達と赤鬼の『戦闘開始』の合図となった。
最後までお読み下さってありがとうございます。
本当はこの回で戦闘シーンまで書くはずだったのに><;
それは次回に移行ということで。
ちなみに最後の『WOOAAA』という咆哮ですが、赤鬼は喋っているつもりです。
ですが魔物化する過程で人語を話せなくなったという設定があります。
【次回】対決!赤鬼




