ロッキングチェアー
短いですがここで区切った方がいいと思い投稿しました。
名残惜しみつつも猫と別れた俺。
屋根から屋根へと飛び移り忍者のように移動していた。
先程のイリーナの合図が上がったと思われる場所までやってきて、屋根から石畳の地面へ着地する。
「この辺だったよな?」
「主」
「お、イリーナ」
イリーナが道の角から姿を現した。
「見つけたのか」
「はい。もう一本隣の道にある屋敷の中から、うっすらとですが気配を感じました」
「わかった。じゃあ行こう」
「こちらです」
イリーナは現れた角を戻り、俺もそれに続いた。
そして目に飛び込んできたのは壁を背に座り込んでいたり、頭から突っ込んでいたり、地面に突っ伏していたりする兵士達の姿だった。
「うおっ!? なんじゃこりゃっ」
「問題の屋敷の周辺に陣取っていた兵達です。調べている最中に襲われましたので眠ってもらいました」
「あぁ・・・なるほどね」
見たところ兵士達は時々『うぅっ』と唸ったり、体が動いているから死んではいないようだ。
見た目は文字通り死屍累々だが。
「全て排除した後に主をお呼びしましたのでご安心を。邪魔者はいません」
どこか『凄いだろ』という感じに胸を張っているイリーナ。
だが表情は変わっていないので、この変化は親しい者しかわからないだろうな。
「じゃあ調べてみよう・・・・・・」
「? どうしましたか」
「いや、緊急時とはいえ無断で人様の家に上がり込むのも何だかなぁって。しかもこんな豪邸に」
そう言って俺は鉄門に伸ばしかけていた手を止め、今一度屋敷を見上げた。
見上げた、と言ってわかるようにこの屋敷は大きかった。
ドアートさんの屋敷も鍛錬場を作ってしまうくらい十分大きかったが、この屋敷はそれよりも更に大きい。
学校の校庭くらいは楽に収まる面積はあるのではないだろうか?
「褒められた行為でないことは確かですが、これは平時の場合です。今は致し方ありません。早急に魔具を見つけ出さなければ」
「そう、だよな・・・よしっ」
俺は鉄門の取っ手を回し押し中に入ろうと、
「――あれ?」
「主。その門は押すのではなく、引くのでは」
「・・・・・・」
改めて取っ手を回し引いて中に入った。
「うわぁ、すご」
門を開け短いとは言えない歩数分庭を横切るように歩き、屋敷の玄関口を開けた第一声がこれだ。
「イリーナ。これ見てどう思う?」
俺は隣で眼を細めて若干眉間に皺が寄っているイリーナに聞いてみた。
「・・・とりあえず、私の趣味ではありません」
「だよねぇ、よかった。もしこれ見て高評価だったらどうしようかと思ったよ」
「あり得ません。私と主が離れ離れになるくらいあり得ません」
「そ、そう」
「はい」
そっか、それは、何と言うか・・・・・・照れるなっ!
俺が凄いと言ったのは内装やら調度品などを見た感想なのだが、『凄い綺麗だな』などではなく『凄く悪い趣味だな』という意味合いを含んだソレだ。
エントランスホールには金ピカに輝く物に沢山飾られていて、それが輝いていた。
床は真っ赤な絨毯で金ぴか達はその色を映し込んで反射し余計に眩しい。
他にもこれ何?と思ってしまう恐らく魔獣や魔物の剥製やら毛皮の類。
とにかく宝石をふんだんに使ってデコレーションした壺や皿の数々。
挙げていたら切りがない。
「あぁ・・・とりあえず奥の方虱潰しに探してみるか」
「いえ、屋敷に入った途端気配が強まりましたので場所の見当は付きます」
こちらですと言いイリーナが先導して廊下を行く。
道中この屋敷の使用人と思われるメイドさんや執事さん、さらにはコックさんが手に箒やら包丁を持って襲いかかってきたが、俺達はまったく意に介さず先を急いだ。
「この部屋です。この扉の向こうから魔具の気配を感じます」
辿り着いたのは屋敷の中でも特に豪華な装飾が施された一角の部屋だった。
扉のノブなんかライオンみたいになってるし。
「じゃあ開けるぞ」
「私が開けます。罠がないとも限りません」
「いいから。こういうのは男の役目だろ」
自分でもちょっとクサイ台詞だと思いつつ扉を開ける。
もちろん警戒は怠らず慎重にだ。
「・・・・・・」
「っ!」
思わずビクッとしてしまった。
扉の中もやはり金ぴか尽くしだったが、驚いたのはそれではない。
部屋の窓際にロッキングチェアーがあり、それに座っている男がこちらを凝視していたからだ。
「主、アレを」
イリーナが指し示したのは男の膝の上。
そこには地球儀のような形をした淡く輝く魔具が置かれており、男はそれを守るように両手で支えていた。
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【次回】化け物退治




