情報をまとめる
最初に向かったアジトはガルシュバ帝都『ダロス』へ入る門を見張るための所だった。
そこには争った形跡もなく、敵の気配もないことを魔法で確認した。
あっさりと一息付けるアジトを確保出来た。
ちなみに敵に襲われたアジトは、同盟員を集めて情報を持ち寄る集会場のような役割の所だったそうだ。
アジトは平屋でログハウスのように表面を処理した丸太で建てられていて、カモフラージュのために外壁には草を差し込んでいる。
みんな椅子に座ったり、壁により掛かったり、窓から外を眺めたり思い思いの行動を取っていた。
見張りを立てようとも思ったが、マギーという魔法のスペシャリストが周囲に結界を張ったのでなしとなった。
「さて、まずは状況を確認しよう。場合によっては一度ソプレゼに転移し直す必要もあるかもしれない」
ここでもトマスさんが仕切る。
一番年上(見た目。マギーは除外)だし、元軍人なので頼りになる。
そもそも同盟内でも指揮を執る立場らしいし、最初に思った彼の印象とは違い、その姿は頼りになり様になっていた。
「まずアジトを襲われた時の状況を。シェスカ、フィーネ、マギーさん」
「私が」
シェスカが挙手し椅子から立ち上がった。
「私を含む同盟員はトマスさんたちの到着を待っていました。そして、突然覆面をした敵が乱入し皆散り散りに」
「見張りはどうしていたんだ? まさか立てていなかったわけではないだろう」
「はい。見張りは二人一組で三組、計六名いましたが、異常を伝える前に敵の手に掛かったのではないかと」
「もしかしたら、あの味方の姿に化けた敵にやられたのかもしれないな・・・・・・」
トマスさんが悔しそうに拳を握る。
「あいつら卑怯だよ~。あんな騙し討ちなんてして~」
「けどそれだけ有効的な作戦でもあるわ」
口を尖らせて文句を言うフィーネにシェスカが苦笑いを浮かべる。
「散り散りになる前に合流地点を示し合わせ、そこで再び集まる予定でした。ですが移動中にやつらに襲われ、あとはトマスさんたちが駆けつけてくれたという流れです」
その後のことは既に全員知っているので言う必要はないだろう。
「ガルシュバの様子は? そういえばあの城壁はいったい何なんだ? いきなり真っ白になっていたが」
「それについては私が説明するわ」
今度は窓の外を窺っていたマギーが名乗り出た。
「知っての通りあの城壁は一般的な石造りだったけど、今朝太陽が昇ると同時に発光して白く変わったわ」
「ね~。眩しかったと思ったら白くなってたよね~」
「マギーさん、なぜだかわかりますか? おおよそでも構わないので。今は少しでも情報が欲しい」
マギーは『そうね・・・』考え込む。
真剣な目をして考えるその姿は、整った顔立ちもあってクール系美女という感じだった。
ちなみにマギーはグインタビューで着ていたあの肌色の多い服の上からローブを着込んでいる。
ローブの下の服さえ見えなければ学者のように見える。
「・・・そういえば、城壁ではないし色も白ではないけれど、昔ガルシュバの砦が発光して青色になったことがあったわ」
「砦が青に?」
「えぇ。ただ詳しいことはわからないのよ。調べる前に崩れてしまって」
マギーは肩をすくめて手を軽く広げてみせるという、地球の外国人っぽい仕草をする。
その答えを聞いてトマスさんは残念そうな顔をした。
「よろしいでしょうか」
「? どうしたイリーナ」
俺の隣に立っていたイリーナが挙手し、全員の注目を集める。
「私はこの事例に心当たりがあります」
「本当ですか! ぜひ教えて下さいッ」
トマスが頭を下げてくる。
俺も含め全員がイリーナの言葉を待った。
「これは『妖精族に伝わる魔法』に酷似しています」
「普通の魔法とは違うのか?」
「その通りです、主。この魔法は『魂を付与』することが出来るのです」
「魂を、付与する?」
「もっと言いますと、生きていない物、例えば石や木材なんかに魂を持たせ意思を芽生えさせ、動くことさえ出来る様にするのです」
何となく分ったような気がする・・・・・・。
日本的に言うと九十九神みたいに、物が魂を持つということだろう。
「この魔法を発動する際には発光します。恐らくそちらの三人が早朝に見たという発光はこれでしょう。転移を妨害―――いえ、城壁内への転移が出来なくなっているという現象の説明がつきます」
「転移出来ないのは妨害されているからじゃないのか?」
「もし私の考え通りであるなら妨害はされていません」
俺はイリーナにどういうことかと話の続きを促す。
「転移とは『場所から場所へ』移動する魔法です。ですがもし城壁に魂が付与されたのであれば、あの城壁と城壁内の街、ダロスでしたか、あの街は『魂を持つ生き物』ということになり、場所ではなく生き物になったため指定出来なくなったのではないかと思われます」
つまり『場所→場所』は転移出来ても、『場所→生き物』は転移出来ないという事か。
確かに、生き物を指定して転移したら○○の中にいる!見たいになるかも・・・・・・。
ちょっとグロい想像が頭を過ぎってしまった。
「妖精族の魔法だと仮定して、発光した原因はわかりました。ではあの色は何なのですか?」
「色は本来魔法の属性を現します。発動した者が火属性の魔力を込めたのならば赤、水属性ならば青といった具合です。魔法を解除すると元に戻りますが」
「では白は・・・無? もしかして光とかですか?」
「それが・・・申し訳ありません。白色になる属性に心当たりがありません」
質問に答えられずイリーナは腰を折って頭を下げた。
トマスさんは『いえっ謝る必要などありませんよ』とわたわたしてしまっている。
「これは推測ですが、もしかしたら複数の属性を混合しているのかもしれません。もしくは全く新しい属性かと」
「ふむ。新属性よりも混合属性の方が信憑性がありそうですね」
『これは驚きました。もうそこまで紐解きましたか』
突如声が聞こえてきた。
すつとアジトが軋みをあげはじめ埃がパラパラと降ってきた。
俺達は即座にアジトから飛び出し臨戦態勢を取る。
「おや。全員素早いですね。あわよくば何人かここで始末するつもりだったのですが」
背後では先程までいたアジトが崩れ落ちている。
そして目の前には、『仮面の人』が立っていた。
お読み頂きありがとうございます。
『妖精族しか使えない魔法』
無機物に魂を与えて動けるようにする。
これは絶対的に数が少ない妖精族が、家を建てたり、集落を作ったりなどする時に少ない労力で済むようにするための魔法。
だが、今回の魔法はこの効果以外にも・・・・・・
【次回】仮面の思惑とは?




