同盟
くしゃみをしたらぎっくり腰が悪化した作者です。
この『同盟』にて物語に必要なピースが揃ったはずです。
(断定ではないのはプロットも何もないので、のちのち修正があるかもしれないからです)
ある馬車が大通りから外れた道をガタゴトと走っている。
飾りっ気のないどこにでもあるような普通の馬車だ。
どんどん人気がなくなり、最後には人っ子一人いなくなる。
「周囲を確認しろ」
「はい」
馬車は一軒の廃屋の前で止まった。
この辺りは建物やライフラインの老朽化で開発予定地区に指定された場所だ。
なので今この近辺に住んでいる住民はいないし、ある仕掛けによって人払いもされている。
それでも念には念を入れ、馬車に乗った人物は手綱を握っていた御者に命令する。
「確認しました。人の気配はしません」
「ご苦労。では中に入るぞ」
「わかりました」
馬車を降りて調べていた御者は再び手綱を握り、廃屋の敷地内へと馬車を進める。
そのまま入口が大きく開かれている建物の中へと入っていく。
~~~~~
「・・・ぅん」
何だか妙な臭いがして意識が強制的に覚醒する。
どうやら背中の柔らかさをみるにベッドのような物に横になっているようだ。
無意識に手を振るうと何か柔らかい物にぶつかった。
「きゃっ」
パサッと何かが地面に落ちる軽い音と女性のものと思われる声がした。
「う、ん・・・ん?」
「お、おはようございます。ユーキさん」
「リン、ディ?」
目を開けるとそこにはリンディがいた。
両腕で自分の体を抱きしめるような妙なポーズをしている。
俺は不自然な格好をしたリンディに内心『?』と思いつつ、体を起こしてベッドの縁に座り直した。
「えっとここは、どこ? さっきまでドアートさんの屋敷にいたのに」
「す、すみませんでした。訳があってユーキさんの断りもなく無理矢理連れてきてしまって」
この世界では一般的な部屋を見渡していると、リンディが説明してくれた。
確かに俺はドアートさんの屋敷にある修練場にいたが、あの妙な警棒で気絶させられてここまで無理矢理連れてきてしまった、と。
ここの場所やなぜ連れてきたのかはまだ話せないらしい。
「どうしてだ?」
「それはもうすぐわかります(コンコンコン)―――どうやら来たようです」
部屋の扉がノックされ、リンディが応対する。
その前に床に落ちたハンカチ?を回収していた。
部屋を訪れた見たことのない男と少し話をするとこちらに振り返る。
「お待たせしてすみません。説明しますのでついてきて貰えますか」
「わかった」
リンディの様子を見るに危険はないと判断し、言われた通りついていくことにした。
部屋を出るとやはり一般的な廊下に出る。
ただ部屋もそうだったが廊下には窓が一切なく、今どのくらいの時間なのか分からなかった。
「―――ここです」
歩いて数分ほどで目的地に着いたようだ。
そこは他の内装とはちがい、重厚な木の扉(板チョコみたいな形状)が他とは違うという存在感を放っていた。
「(コンコンコン)リンディです。ユーキさんをお連れしました」
『そうか。入ってくれ』
「失礼します」
リンディは見るからに開けるのに重そうな扉に手をかけると、『横にスライドさせた』。
「えっ!? この扉そうやって開けるの!?」
俺は思わず口に出して驚いてしまった。
「はははっ、やはり驚いたかね? 初めて開けようとする者たちは、必ず押し引きしてしまう紛らわしい扉なんだ」
「良いではないですか。無断侵入しようとする部外者対策なのですから」
「今まで一度もその役目を果たしたことはないがな」
「平和なことです」
扉の予想外の開閉方法に驚くと、中から聞き覚えのある声が二つ聞こえた。
「ドアートさん・・・と、伯爵様?」
「グッスリ眠っていたな」
「久しぶりだね。元気にしていたかい?」
部屋の中にはドアートさんとソプレゼ領主であるホーネット伯爵がいた。
伯爵は学校の校長室のような部屋の、これまた校長室の机に似た席に着いていて、ドアートさんはその斜め後ろに控えている。
「いきなりのことで戸惑っているだろう。今から説明する」
「ドアート。それは私からするよ―――ユーキ君、とりあえず座りたまえ」
「はぁ、どうも」
勧められるまま用意されたいた椅子に腰掛ける。
見た目は卵形というか、スポーツカーについているようなバケットシートのように体を包み込んでくれる椅子だった。
「さて、まずここに君を連れてきた理由だが、それは君が妖精族を召喚したからだ」
「イリーナを?」
「そうだ。私は―――いや、私たちは君が現れるのをずっと待っていたんだ」
舞台に立つ役者のような手を広げるオーバーアクションをする伯爵。
俺が頭に『?』を浮かべていると、コホンと咳をひとつして話を進める。
「実は私はこの国の貴族でソプレゼ領主という立場以外にもうひとつ、裏の顔とも言える肩書きがある。私は『同盟』の盟主でもあるのだ」
「同盟? 何の同盟ですか?」
「この同盟には『名前がない』。さらにこの同盟は各国に存在するが、国は介入しておらず存在すら知られていないはずだ。そして、同盟はあるひとつの目的のために活動している。」
伯爵は一度間を開け話を続ける。
「同盟の目的は『仮面の根絶、もしくは封印』だ。君も仮面には会ったことがあるだろう?」
「・・・もしかしてグインタビューで会った?」
「そうだ」
予想外の人物の話題が上がり、驚きに目を見開いた。
伯爵は眉間に皺を寄せつつさらに話を進める。
「あいつら、いや、そもそも複数いるのかどうかも分かっていないが、仮面は約二〇〇年前―――ガルシュバとイデリア間戦争時代から存在が確認されていて、よからぬことを企んでいる・・・らしい」
「らしいって、どんなことか分かっていないんですか?」
「私たちの数代前に一度同盟は仮面によって滅ぼされかけてしまったのだ。その時に多くの資料と、先駆者達の命が奪われてしまった・・・」
伯爵は悔しそうに握り拳に力を入れていた。
後ろに控えているドアートさんと、部屋の隅に立っているリンディも悔しそうな表情を見せる。
「だが、ごく僅かながら残された資料には『仮面に対抗するには“全属性適性持ち”“妖精族”が鍵となる』と残されていたのだ」
「・・・見事に俺に当てはまる条件ですね」
「そうだ。だから無理矢理ではあったが君をここへ連れてきて、この話をした」
苦笑いする俺に伯爵は至って真面目な顔で見つめてきた。
「私も最初は迷った。条件が当てはまっていたとは言え、君はまだ若い。それにドアートに師事していると聞きまだ力も備わっていないと思ったのだが」
伯爵はチラッとドアートさんを見て、それに気が付いたドアートさんは伯爵に促されるように話し出す。
「魔法に関しては妖精族召喚によってもはや鍛えようがない力を得ています。現在は私を相手に剣の鍛錬中ですが、彼は純粋な身体能力のみ、私は魔法有りでもなんとかギリギリで私が上という状況です。いちおう私も剣の腕はかなりの物と自負しておりますので、彼の剣についても問題はありません」
「―――と、ドアートが太鼓判を押すので大丈夫だと判断した」
ドアートさんがそんなに俺の事を買ってくれていたことに驚いたが、同時に嬉しくもあった。
ちょっとマッドな部分があったり、イリーナの一件で一部弱腰なところを見てしまったりしたが、やはり俺の師匠なのだと改めて感じてしまった。
「それで、要するに『俺に同盟に参加してくれ』ってことですか?」
俺は話の核心部分について訪ねた。
伯爵、ドアートさん、イリーナはお互いにアイコンタクトを取った。
そして最後に全員の視線が俺に集まるのを感じる。
伯爵が一度口に貯まった唾液を嚥下し、口を開けようとした。
その時、
―――離れた場所からドーンとまるで爆弾が爆発したかのような音と、次いで部屋を揺らすような衝撃がやって来た。
「っ! 何事か!?」
「リンディ!」
「はい!」
伯爵は椅子を後ろに倒しながら勢いよく立ち上がり、ドアートさんは『頭と腰から獣耳と尻尾を出し』つつリンディに指示を出す。
リンディは扉を背にしていた俺を守るように立ち、俺も扉の方を振り返る。
ドアートさんがいきなり獣人になったことについて尋ねる間もなく、扉の向こうから切羽詰まった男の声が聞こえてきた。
リンディは剣を抜き、用心深く扉を開きそこにあった男(部屋に呼びに来た男だった)の顔を見ると緊張を解いた。
「状況は!?」
「はっ! 現在謎の敵からの襲撃を受けています! 魔法攻撃のようで至る所の建物が破壊されていますっ」
「まさか『仮面』か!? なぜここが分かった! 認識障害の結界があるはずだろう!」
伯爵の表情に焦りの色が見える。
「我々が確かめて参ります。リンディ! 行くぞ!」
「お供しますっ、師匠!」
ドアートさんとリンディは男に伯爵の護衛を命じると外へと飛び出していった。
そして俺もいても立ってもいられずその後に続くのだった。
お読み頂きありがとうございます^^
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【ちょっとしたお詫び】
送って頂いた一言を読んで『前話にてチートの主人公より剣が強いドアート』という矛盾があることに気が付きました。
作者は作中にてどうしてそうなったのかの説明を書いたつもりでいたので、完全に記入漏れのミスでした。申し訳ありません。
今回その辺りの説明をドアートがするようにしました。
主人公特権、ラッキースケベ発動っ。
さらにドアートがまさかの獣人?
最後に襲ってきたのはいったい!?
【次回】襲撃者の正体は?主人公の決断。




