幕間劇 ~仮面と主~
幕間劇はここまで。
次回から本編へと戻ります。
「―――ただいまっ、ととっ!」
久しぶりに戻ってきた、が到着と同時に体がよろめく。
転移魔具は便利だけど、使用した際のこの独特な立ちくらみが面倒だ。
それを除けば便利なんだけど。
◇◇◇◇◇
『転移魔具』
ゲル状の半固体の転移魔法を発動する魔具。
使い捨てで、半固体のこれを瓶などに入れ地面などに叩きつけると、その周囲を特殊な結界で包む。
包み込まれた結界内にあるものを任意の場所へと転移させる。
ほぼ失われた魔法で、種類が無属性だという事しか分からず、使用には時折遺跡などで見つかるこの魔具を利用するしかない。
使用にはいくつか制限があり『一度訪れた場所しか指定出来ない(転移先を思い浮かべる必要があるため)』『結界内は指定出来ない(種類問わず)』『存在しない場所は指定出来ない(架空の場所、地殻変動などで消滅した場所など)』。
◇◇◇◇◇
ここは特殊な結界があり入る者が制限されている森だ。
その中には大きな古城が建っていて、今はその城の廊下を私は一人で歩いている。
「さて。まずは報告に行かないと」
懐に赤い魔結晶があることを確認して歩き出す。
◇◇◇◇◇
『魔結晶』
この世界のビデオカメラ&プロジェクターにあたる魔道具。
映像を保存して、あとからホログラムのように空中に投影して見ることが出来る。
ただし、映像には音声が付かない、保存したら削除出来ない、投影は暗くないと見えない、という制限もある。
一般的に出回っている魔結晶は、ひとつにつき映像一本しか保存出来ないが、今回話に出てくる魔結晶は弄ってあり、繰り返し録画のように使うことが出来る。
余談だが、色は赤しかない。
◇◇◇◇◇
人の気配が全くしない通路を真っ直ぐ歩き続け、最後に突き当たった壁に手を触れる。
「―――んっ」
手の平に魔力を集めて壁を押す。
するとその壁は手の平の形に沈み込み穴が空く。
最後にはその穴に肘近くまで飲み込まれる。
「―――しょっ、と」
ガコンという音が穴の奥から聞こえてくる。
この穴の奥には仕掛けがあって、それを起動させた音だ。
ちなみに、この仕掛けを部外者が起動させるとそのまま穴が狭まり、最後には腕がちょん切られることになる。
穴の横の壁に魔方陣が浮かび上がる。
その魔方陣が消えると、ただの壁だったそこには地下へと延びる階段が現れた。
私はその階段をスルスルと下りていく。
「―――ただいま帰還しました。主様」
「・・・・・・」
階段を下りきると大広間に出る。
ここはお城の謁見の間と同じような広さと造りになっていて、光石を惜しみなく使っているので地下なのにまるで日中のように明るい。
「グインタビューの遺跡から人工魔物、もしくはそれに関する資料を発見しようとしましたが・・・申し訳ありません。全て空振りに終わりました」
「・・・・・・」
広間の先には豪華な装飾が施された黄金の椅子が置かれている。
その椅子に座る人物に向けて話を続ける。
「ですが計画には支障ありません。もともと人工魔物はあれば儲け物程度にしか考えておりませんでしたので」
「・・・・・・」
椅子に座る人物は終始無言だった。
どこかの民族衣装のようなダボダボの服を着て、顔には真っ白な仮面を付けている。
服と仮面のせいで性別、体型、人相など全く分からないが、唯一真っ白な髪だけが見て取れる。
その髪も伸ばし放題という感じでボサボサだった。
「少々寄り道してしまいましたが、もう間もなく計画は実行段階へと移ります・・・・・・ようやく主様の願いを叶える時が来ました」
「・・・・・・」
「主様。まだお褒めの言葉は掛けて頂けないんですね」
「・・・・・・」
「・・・わかりました。私は必ずや計画を成功させて見せます! ですから、成功の暁には主様のお言葉を頂戴しとうございます」
「・・・・・・」
「では。私は計画の準備をして参ります」
終始椅子に座った人物―――我が主は無言だった。
だが一方的に話をしていたに過ぎない私はそれでも満足だった。
久しぶりに主様のお姿を見ることが出来たのだから当然だ。
「さて、あともう一踏ん張りだ」
計画はあともうちょっとで実行に移れる。
人工魔物が手に入らないのは口惜しいが、もともと計画にはなかった物だ。
大した痛手でもない。
「待ってて下さい。我が主」
階段を登り切り城を出た。
森を暫く歩いて結界の範囲外へと抜け出る。
そして私は次の目的地に向かうため、転移魔具を地面に叩きつけた。
お読み頂きありがとうございます^^
今回は謎が多いあの『仮面の人』視点の幕間劇でした。
※登場はグインタビュー編『追及は実力行使で【3】』の最後の方から
少し文が短いですが、ラストの展開に必要な回(幕間)だったのでご了承下さい。
【次回】イリーナさん無双! 綺麗な花には棘・・・どころか、えっ!?
※加筆10/26




