幕間劇 ~グインタビュー事変~
この幕間劇は前話の時系列に沿っていません。
前話から見ると少し未来の話です。
ユーキがグインタビューを発って暫く経ったある日。
一ヶ月で何とかしてみせると大見得を切ったはいいが、なかなか進展がなかった。
むしろ後退したかもしれない――――――。
そんないつもと同じ、そう思っていたこの日、ついに停滞していた空気が動き出した。
「・・・今日もかね」
「はっ。領主様直々の命ですので」
「はぁ~」
儂はギルドの自室で大きく溜息をついた。
ユーキが街を出た日から、儂は領主へ直談判せんと再三にわたり面会の申請をした。
だが、『再三』と言って分かると思うが、その申請は未だに通っていない。
やれ『仕事が忙しい』だの何だの、理由を付けてきて会う気はないようだ。
「・・・気が散る。そんなに凝視するでないわい」
「はっ。失礼しました」
それどころか今の状況である。
執務用の机に椅子に座りながら向かう儂を穴が空くほど見続ける男の兵士、この兵以外にもう一人、外の廊下も含めると二人、領主の私兵がギルド長室の扉脇に立っている。
何度目かの申請をした後で、『ギルド長も例の賊に狙われるやもしれない』と言ってきて、一方的に護衛というなの見張りを付けてきた。
「(こんな事までしおって。もう強行手段しかないんじゃろうか・・・)」
おそらく儂の動きが邪魔だったのだろう。
ここまでする領主にはもう心底愛想が尽きた。
しかも独自のルートから得た情報によると、今回の隠蔽のために他の貴族に根回しをしているとか。
いっそのことガンス達を率いて領主の館に押し入ろうかと考えていた―――その時だった。
『おいお前! いったい何を―――うぐぅ!』
「!? どうした! 何があったあああぁ!?」
廊下に立っていた兵のと思われる声がしたと思ったら、今度は勢いよくギルド長室の扉が吹き飛ばされた。
「突然申し訳ありません。グインタビューギルド長のガーフィ殿とお見受けします」
「こんにちわ~」
扉の下敷きになった兵はどうやら気を失ったようだ。
吹き飛ばされた入口からは少女、エルフと獣人の二人組が入って来た。
二人とも揃いの緑色のローブを羽織っている。
「・・・いかにも。儂がガーフィじゃ。して、何用かの?」
儂は座っていた椅子から立ち上がり警戒姿勢を取る。
その様子を見て、エルフの方の少女が敵意はないと両手を挙げる。
「私たちはソプレゼより、領主ホーネット様の命により参りました」
「なに?」
「私たちの他にも三〇〇名の騎士がここグインタビューを取り囲んでいます。我々の目的は『グインタビュー領主の身柄の確保』です」
「! なんとっ」
「これは事実です。・・・実は―――」
少女の説明によると、今回ここの領主がしでかしたことはソプレゼの領主様もの知るところとなったそうだ。
なんでも善良な市民からの垂れ込みがあったとか?
そして今回、正式に宰相の許可の下この捕り物へと発展したそうな。
「こちらが今回の命令書です。つきましては、ガーフィ殿達『ギルド』はこれへの介入はご遠慮頂きたく思います」
命令書を手に取りざっと目を通してみた。
今回の捕り物は、全てソプレゼ領主であるホーネット伯爵が用意した騎士達の手によって行われ、儂らギルドは直接捕り物への参加は認められていなかった。
恐らくだが、貴族の面子の言うやつであろう。
貴族が犯した罪は同じ貴族が粛正する、と。
「・・・・・・わかった。だがもしもの場合のために、冒険者達には街に散ってもらう。これは介入するのではなく、街の警備が目的じゃ。追い詰められた領主達が何をするか分からんからの」
「・・・了解しました。直接介入するわけではないので大丈夫でしょう」
「感謝する・・・ミラー!」
「はい、ここに」
いつの間にかギルド職員のミラーが傍らに現れていた。
その姿はいつものギルドの制服ではなく、黒を基調とした動きやすく機能的―――まるで暗殺者のような格好だった。
「今起きている事は把握しているな?」
「子細に渡って」
「よし。ギルドに加入している冒険者に通達。全員街の警備にあたるように、と。ただし、☆1から☆3までの者たちは最低でも三人で行動。それ以外の者はペアで事にあたるように」
「わかりました」
その言葉を最後に、ミラーの体は左半身から透明になっていく。
そしてあっという間に彼女の姿は部屋からなくなった。
「驚きました。あれほどまでに見事な光魔法を見たのは久方ぶりです。彼女はいったい?」
「詳しくはお教えできんが、まぁ『影』とだけ言っておこうかの」
「優秀な影ですね」
「ほっほっほ。では、儂はこれからギルド長としての仕事がある。お主等も油断するでないぞ」
「はい、では・・・・・・こら! 起きなさい!」
エルフの少女が隣の獣人の子の頭を叩いた。
すると、獣人の子は体をビクッとさせた。
「ふわ~、寝てないよ~」
「嘘つきなさいっ、アンタって子はこんな時まで」
「あ~、ローブ引っ張らないで~。仕方ないじゃん、二人して難しい話するんだもん~。あんなの聞かされたら寝ちゃっても仕方ないよ~」
「認めたわね!」
「あ~、うっかり~」
そのままドタバタと部屋を出て行く二人。
「本当にあの子達で大丈夫なんじゃろうか・・・」
そういえばあの二人の名前を聞き忘れていた。
手元にある命令書に書いてあるかと思い、視線を落と――――――
「ギルド長! 領主召し捕りって本当!?」
――――――そうとしたところ、フェルが部屋へと飛び込んできた。
「うがっ」
ついでに伸びていた兵士を踏んづけた、が、気が付いていないようだ。
「ねぇギルド長! どうなの! 本当なの!? さっきミラーから直接そう聞いていてもたってもいられなくてっ。もし本当にそうならこれでユーキは帰ってこられるの!? ねぇ! ねぇ!」
「ちょっと落ち着くんじゃ。今説明するわい」
興奮するフェルと一緒にいったんギルドのロビーへと向かう。
そこには多数の冒険者達がいた。
そんな彼等、彼女等も儂の姿を見ると『説明を!』という訴えを乗せた視線を向けてくる。
「―――では皆の者。今回のことについて説明する」
~~~~~
「ほら、こっちよ」
「待ってよ~。足速いよ~」
私は今回のグインタビュー領主の件以外にも、ホーネット様から密命を受けていた。
どうやら『仮面』関係の要件らしい。
「ねぇまだ~。伯爵様の『協力者』に会う場所って~」
「もうそろそろよ」
そう。
今回は『協力者』なる人物と接触せよと命令されていた。
何でも仮面についていろいろ知っているらしい。
「・・・着いたわ。この家よ」
あらかじめ用意してもらっていた鍵を使って家の中へと入る。
もちろん入る瞬間を誰かに見られないように、周囲を警戒することを忘れずにだ。
そのまま音もなく扉を閉める。
「待ちくたびれたわ」
「!? 誰だ!」
「誰だ、とはご挨拶ね。私はあなた達の協力者よ」
「お~。お待たせ~」
暗がりからの女性の声に警戒する。
どうやら件の『協力者』のようだが・・・・・・。
「その証拠を見せなさい」
「・・・いいわ。これよ」
あらかじめ確認し合うための割り符を協力者には送ってあった。
私もホーネット様から預かった割り符と取り出し照らし合わせる。
「どう~?」
「・・・どうやら本物で間違いないみたい」
「そっか~。よかった~」
「えぇ。これで一安心だわ」
「気を悪くしたのなら謝ります」
「いえ。むしろその用心深さは信用出来るわ」
私と協力者の女性は互いに笑みを浮かべ、どちらともなく差し出した手を握った。
「この度はご協力ありがとうございます。ホーネット様も喜んでいます」
「いいのよ。これも私の大切なパートナーと、友人の為だもの」
一通り言葉を交わした後、私たちは用意されていた席に着いた。
席に着くと同時に、協力者の女性が紅茶を入れてくれる。
「すみません」
「ありがと~」
「いえいえ」
協力者の女性も席に着く。
「ではまず自己紹介でもしましょうか。私はシェスカ。エルフよ」
「私は~フィーネだよ~。猫の獣人~」
「そうよろしくね、シェスカ、フィーネ」
女性はそう言って微笑む。
改めてみると綺麗な人だ。
私と同じエルフらしいが・・・一部の膨らみが桁違いに発達していた。
それを強調するかのように露出の多い服を着ているが、それも女性の魅力を引き立てるアクセントとなっている。
「最後は私ね。私はマギー。いちおうエルフよ。よろしくね」
~~~~~
この後、ソプレゼから遠征してきた騎士達の手によって、グインタビューの領主は拘束された。
空いてしまうグインタビュー領主には、ソプレゼ領主のホーネット伯爵が自ら選んだ者が代理としてやってくることとなる。
そして、フェルはその知らせを聞いて早速ユーキに帰ってきても大丈夫だという手紙を出そうとする―――――が、
「行商人がいない!?」
運悪くソプレゼに向かう行商人がグインタビューにはいなかった。
これでは手紙を出せない。
そう悩んだフェルはあっさりと打開策を考えた。
「なら私が直接ユーキを呼びに行くわ!」
マギーにも声を掛けたがどうやら都合が悪いらしい。
なので一人で行こうとしたが『一人では危ない』と母親に言われ、しかたなく自警団の一人と一緒に行くこととなる。
―――が、これはまだ先の話。
お読み頂きありがとうございます!
今回の幕間劇は、ガーフィ・シェスカ視点でした。
ミラーさんは忍者もどきでした(笑)
彼女の名前は今回のネタをいつか出すために付けていたり^^
マギーはいろいろ動いているみたい?
そしてやっとグインタビュー領主に正義の鉄槌が!
沢山書きたいことがありましたが、そうなるとなかなか物語が進まないのであっさり目で><;
【次回】幕間劇 ~???~




