怪しげな勧誘
屋台の親父からお礼としてもらった串焼きをお昼代わりに食べ、親父に別れを告げると俺とマヤは街の散策へと戻った。
「疲れてないか?」
「大丈、夫」
俺の右手を掴んでいるマヤに話しかける。
結構な距離を歩いたと思うが、マヤは疲れた様子もない。
やはり竜人という種族の恩恵でスタミナがあるのかもしれないな。
「あ、マヤ。口の周りがタレでベタベタになってるぞ」
「? ・・・ん~」
「あ! こらっ袖で拭こうとしないっ」
服が汚れるのもお構いなしなマヤに代わって、俺は自前のタオル(地球で言う手拭いに近い物)で口元を拭ってやる。
マヤは『んん~ん』と眉間に皺を寄せている。
マヤは時々こういった子供っぽい反応や行動をするので、俺は大体身長から見ても十歳前後だと思っていたのだが、マヤに『いくつ?』と聞いたら『十四。もうすぐ、十五』と答えられて仰天した。
竜人は長寿ゆえ、年齢と外見が伴わないのだが、それは一定以上年を取ってからの話だ。
大体の竜人は『四十~五十位』を目安に外見の老いが止まる。
それまでは人間同様の成長を見せるそうだ。
◇◇◇◇◇
ちなみにエルフは二十~三十位、ドワーフは六十~七十位で止まる。
それまでは人間と同じ成長速度で、唯一獣人のみが人間と同じように老いていく。
各種族の寿命は、『人、約九十年』『エルフ、約五百年』『獣人、約百年』『ドワーフ、約三百年』『竜人、約千年』『妖精、???』である。
ハーフの場合は、より長寿な親の種族の半分程の寿命になる。
グインタビューにいた自警団副団長のニックを例に挙げると、彼は人とエルフのハーフなので大体『二百五十年』程になる。
ただし!
突然変異とでも言うべきか、中にはほぼ寿命がない、不老不死に近い者もいるらしい。
らしい、というのは各種族の間でしか知られていなかったりして、詳細が分からないためである。
◇◇◇◇◇
「ん。取れた?」
舌足らずな言葉、小柄な体格、そしてこの上目遣い。
「これでフェル(十六)と一つ違いだなんて、信じられん」
「なに? ふぇる?」
「何でもないよ」
「・・・(フンス)」
頭を撫でるだけでは芸がないので、今度はマヤの頬をプニプニしてみた。
摘んでみたり、指で突いてみたりしたが、とても肌触りが良かった。
マヤも悪い気はしていないらしく、鼻から息が漏れだしている。
肌触りと言えば、この前マヤの『角』と『尻尾』に触らせてもらった。
いきなりこんなお願いされて、嫌がってしまうかと思ったのだが『いい、よ』とあっさり承諾してくれた。
―――この時またロイさんが暴れそうになったのは言うまでもない―――
まず『角』だが、色はちょっと黒を混ぜた赤って感じで、つやつやしているのにちょうどいいざらざら感があったという、何とも不思議な手触りだった。
マヤの角は耳(人と同じ場所、形)の少し上部分から生えていて、二等辺三角形が三つ束になったような物が天目掛けて生えている。
次に『尻尾』だ。
一言で言うと『物凄くスベスベなクッション』のようだった。
尻尾には鱗はなく、果物の桃のように産毛が生えていて、筋肉もあることにはあるが、まだ幼いからか低反発材みたいな弾力を持っていた。
「さてと、今度はどこに行こうかな」
「あっち」
「あっち? あっちに行きたいのか?」
「ん」
マヤがあっちと言った方向は『4の門』がある方向だ。
「あっちには何があるんだ?」
「・・・」
「マヤ?」
「・・・食べ物、とか、服、とか、何でも、ある」
「ふ~ん、そうなのか」
三日月がある2の門みたいなマーケット(商店街ではなかった)があるということかな。
まだ4の門方面には行ったこともなかったし、散策には丁度いいかな。
「じゃああっちに行ってみようか。ほら、マヤ、手」
「んっ!」
今日一番の『ん』と元気な頷きをして、俺が差し出した手に飛びつく。
だが俺とマヤでは身長差があるので、結局は普通に手を繋ぐという形に落ち着いた。
――――この時の選択がのちのち、俺に大きな転機を呼び込む事になる――――
~~~~~
マヤのリクエスト通りに4の門前広場にやって来た。
これであと行ってない門は『1』と『5』だけだ。
三日月で聞いた他の客の話によると、1の門には領主やら上流階級の方やらの家が建ってる住宅街があり、5の門には1の門に住んでいるセレブな方達の仕事場が建っているらしい。
「マヤは何が目当てだったんだ?」
「・・・(フイ)」
上半身を屈ませてマヤと視線を同じくする。
心なしか挙動不審になっているような気がする。
「別に何が目当てでも怒ったりしないぞ。もちろん、笑うこともしない」
「・・・・・・ほんと?」
「あぁもちろんだ。何だったら『ゆびきり』しようか?」
「? 指を、切る?」
「『指切り』じゃないよ。えっとな―――」
~簡単な説明をしています~
「つまり、約束を絶対守りますって誓い合うことなんだよ」
「わかった。ゆびきり、したら、話す」
「うんうん」
俺は手を繋いでいない方の左手、マヤは右手を出す。
小指を絡ませて定番の歌を歌う。
『ゆ~びき~りげんまん。う~そついたら針千本飲~ます。ゆびきった!』
「・・・」
「さてと、じゃあ話してくれるかな」
「・・・あそこ、行きた、かった」
「あそこ?」
マヤが一軒の店を指さす。
その店は『女の子向けの服屋』だった。
「あの服屋?」
「ん」
「なんだ、全然普通じゃないか。別に内緒にしなくても良かったのに」
これがお年頃ということなのだろうか?
「・・・私、奴隷、だから。お金、ない。見る、だけ」
お年頃とかじゃなくて、もっと重い理由でした。
そっか。
マヤは借金返済の為に働いてるから、自由に使えるお金が少ないか、言ってたみたいに本当にないのだろう。
「よし! マヤ、俺が服を買ってあげるよ」
「え?」
マヤのポカーンとした顔。
なかなかにレアだと思う。
「今日は散策に付き合ってくれたしね。そのお礼ってことで」
「でも」
「まぁまぁいいからいいから」
今度は俺がマヤを引っ張るように服屋の前まで来る。
「ほら、選んできていいよ。俺はちょっとこの場の空気に溶け込めないから、入口で待ってるよ。服を決めたら声を掛けてね。会計しちゃうから」
「え、っと」
俺と店を交互に見て『どうしよう!?』感を醸し出しているマヤだった。
「・・・いい、の?」
「もちろんいいよ。マヤはもっと甘えてもいいんだよ」
「っ・・・・・・あり、がとう」
「どういたしまして」
マヤはようやく店内へと入っていった。
すると、店員の女性がマヤに話し掛けて来た。
その女性は俺の方もみて笑いかけてきたので、会釈しておく。
マヤと女性は更に奥へと入っていき、視界から消えた。
「さて、待ってる間だ何しようかな」
手持ち無沙汰な俺は店の壁に寄りかかり、ぼーっと道行く人の流れを眺めたり、空を見上げたりした。
そんな時―――、
「やっと見つけた。そこの君。もっと強くなりたくないか?」
「・・・え? 俺?」
「そうだ。君だ」
道行く人の中から現れた女性に、突然話しかけられて混乱する俺。
「君は他人とは違う魔力を持っている。その力をもっと研ぎ澄まし、最強になりたくはないか? 男ならなりたいだろう? それなら私と一緒に来いっ、それを叶えてくれる人が君を待っている!」
「・・・・・・」
どうしよう。
なにやらとっても怪しい勧誘?されてるぞ。
お読み頂きありがとうございます。
マヤは自分が奴隷だからという理由で、いろいろ我慢していました。
そんな自分に甘えていいよ、と言ってくれる主人公は・・・
【次回】怪しい勧誘・・・とりあえずマヤに相談しよう
※誤字訂正10/10




