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ノーブレス・オブリージュ

新作を書こうと思いこちらを疎かにしていたら、自分で何を書いていたのかよく分からなくなりました><。

 

 

 

「あらためて、私はソプレゼの統治を王より承っている、ナダン・ホーネットだ。貴族としては伯爵の位にいる」



 あの後、魔物と化したロイさんは、マヤの『落ち着いて』という一言で正気に戻った。

 そして、いつの間にか居た伯爵に遅ればせながら気が付き、三日月のお客用ではない来客用の部屋で向かい合って座り今に至る。



「はじめまして、ホーネット様。私は旅をしております、ユーキという者です。今日からこちらの宿に泊めてもらうつもりでして」

「そうか、この宿はオススメだよ。私自身、今の立場になる前は何度か利用していたからね」

「えぇ、その節はありがとうございましたホーネット様」

「女将さん。今は私たちしか居ないから敬語はいらんよ」

「そうだぞ。まっ俺はナダンに敬語なんて最初から使わなかったがな! がっかかかっ」

「こら! あんたっ」

「いてぇぇっ!?」



 パーラさんがロイさんの太もも(内側)を抓っているのを眺めつつ、伯爵と俺はパーラさんに出してもらった紅茶を傾ける。



「ところでユーキ君。君は随分と珍しい剣を持っているようだね? それはアースト剣、でいいのかな?」

「あ、はい。その通りです」

「ふむ・・・」



 伯爵は顎に手を当てて何やら思案している。

 続いて俺の体を上から下へと舐めるように見つめる。



「(まさか、そっちの人(・・・・・)じゃないよな)」



 お尻がモゾモゾする。



「時に、君はソプレゼに来る前はどこの街(・・・)に立ち寄ったのかね? 私は昔から旅人の話を聞くのが好きでね。ぜひ君の武勇伝(・・・)を聞いてみたいね」

「あれ? そうでしたかい? 俺は記憶に―――はうっ!?」

「しー!(アンタは黙ってなっ)」



 痛みから復活したロイさんは、今度はパーラさんに脇腹肘鉄を食らってプルプルし出した。



「(・・・完全に手配のこと知ってる(・・・・・・・・・)、よな?)」



 言葉の節々からこちらを探っている様子が覗える。

 きっと俺が街を出たという情報を元に、グインタビューの領主が近隣へと触れ回ったのだろう。

 人が多いこの街なら紛れ込めると思ってたが・・・まさかしょっぱなから領主とご対面、なんて予測出来なかった。



「え~っとですね、私は、どこにも寄らず、ずっと野宿をしてて」

「それにしては身につけている物もあまり汚れていないようだが? それに私には随分と真新しく見えるがね」

「・・・・・・」



『ぐうの音も出ない』とはこのことか。



「・・・・・・」

「どうしたよユーキ? ナダンに話してやれよ」

「ユーキ?」



 頭の中では『ヤバイヤバイ』『どうしようどうしよう』という言葉ばかりが渦巻いている。

 そんな俺の様子を訝しんで、二人が顔を覗き込もうとする。



『(コンコン)ご主人、様。お客が、勘定、呼んで、る。あと、料理、注文』

「おや、ちょっと失礼しますよ」

「俺も。すぐ戻ってくるからよ!」



 タイミング良くマヤが二人を部屋の外へと連れ出してくれた。

 いや、この場合はマヤではなくお客さんが、かな。



「・・・」

「・・・・・・」



 だが、まだ目の前には最大の脅威が腰掛けている。

 伯爵は俺のことを瞬きもしないで見続けていた。



「ふぅ・・・やめだやめだ」

「え?」

「どうにもこういった回りくどいやり方は苦手でね。腹の探り合いなんて、貴族同士のパーティでもお腹いっぱいなんだ。こんな場所でまでなんてゴメン被る」



 伯爵は襟元を開けて今までよりも深く腰掛ける。

 雰囲気が変わった。



「実は先程、私の元にある人物の手配書が届けられた」

「・・・」

「私は兵に調べさせるのと並行して、この街で顔の広いこの三日月の夫婦にも協力してもらおうとここへやって来て・・・君を見つけた」

「―――」

「単刀直入に聞こう。君は『グインタビューで暴れた犯人』かい?」



 やはり伯爵にまで手配は及んでいたようだ。

 ここで俺の取れる行動は何があるだろう?

 逃げる?

 本当のことを話す?

 


 ――――――伯爵の口をふさぐ?



「安心したまえ。私は君が犯人だとは思っていないよ」

「―――へ?」

「いや、正確には手配通りの犯人だとは思っていない、かな。グインタビューの使いから聞いた人物像とも君の印象は違いすぎるよ」



 伯爵は苦笑いしながら手をパタパタと振る。



「・・・ちなみに、手配内容はどういった?」

「ん? あぁ・・・『黒髪、十代半ば、アースト剣を持つ、冒険者風の男が、グインタビュー領主の身内と、大勢の兵を惨殺して逃走した』というものだった」



 一部事実も混ざっているが、それも致し方ないことだったし、大半が冤罪だ。



「だが私はこの手配を聞いた時、もう嫌気が差したね。もともとグインタビューの領主やその身内は嫌いだったからな」



 伯爵はカップに残っていた紅茶を一気にあおってマシンガンのように捲し立ててきた。



「だいたいグインタビューの領主は貴族としての使命を忘れてしまっている。前領主の方は領民からも慕われていて、私自身も貴族の鏡のようなお方だと思っていた。だがその息子に領主の座を譲ってみたらさあどうだい。圧政こそしていないが、アレでは実の兄の操り人形ではないか。それと兄と・・・その息子だったか? 彼等自身も貴族でありながら領民相手に好き放題していたと言うではないか。いったい領民を何だと思っているのか。何でもかんでも自分の都合の良いようにしてしまう、そんことは領主である前に、貴族である前に、人として程度が低い。しかも私の独自の情報によると、最近も何やらやらかしたそうで、自体を治めるどころかその隠蔽に手を貸すという始末。きっと今回の手配はそれに関連した物に違いない。そう思って使いの者に問いかけてみても曖昧な答えしか返ってこなかった。つまりグインタビューの領主はろくな調査もしないで犯人を指名手配し、挙げ句の果てにそれを近隣にばらまいているんだよ。まったく、呆れて果てたね」



 どうやら随分と鬱憤がたまっていたようだ。

 伯爵自身がノーブレス・オブリージュ(貴族の責任)をきちんとこなそうとしているからだろう。



「―――っと。済まなかったね。つい熱が入ってしまった」 

「いえ、大丈夫です」



 ―――この人になら言っても大丈夫だよな?



「あの、さっきの答えなんですが」

「ん? あぁ君が犯人かどうか、という話だったね」

「はい・・・率直に申し上げると、領主の屋敷で暴れはしましたが、惨殺なんてしてないです」

「詳しく着させて貰えるかな?」



 フェルの誘拐、ギルドへの圧力、魔呪具、そして『仮面の人』について俺は伯爵に話した。



「―――そうか。そんなことが」



 伯爵はカップを手に持ち――中身がないことに気付いて元の場所へと置いた。



「いくつか気になる事があったが、まず、君は何故そんなに強いのかね? 見たところまだ若い。とても修練を積んで強くなれる次元の話ではないと思うのだが」

「それは私が異世界からやって来たからです。そのせいでこの世界では強くなったんです」

「?」



 次に俺の事についても話した。

 一通り話し終わると『この話はあまり他人にしない方がいい』と忠告を受けた。

 グインタビューで知り合った人達に話しても『自分の知らない、どこか遠い場所』くらいにしか理解出来なかったようだったが、伯爵は正しく理解出来たようだ。


 

「この話は、今後はなるべく控えて、必要な時と信頼出来る人にだけ話すことにします」

「それがいいだろう」



 お互いに頷き合う。

 すると伯爵は唐突に席を立った。



「どうしましたか?」

「なに、ちょっと君の話を聞いてやるべき事が出来たのでね。屋敷へと戻ることにするよ」

「やるべき事? ですか」

「そうだ」



 伯爵は急いでいるのか、足早に部屋の扉を開けて出て行ってしまう。



「おや、もうお帰りで?」

「えぇ女将さん。ちょっと急用が入りまして」

「なんだ、ナダン、もう帰るのか。料理でもご馳走しようと思ってたんだがな」

「すみません。またの機会という事で」



 仕事の手を休めてパーラさん、ロイさん、俺、あとマヤも伯爵を見送るために壊れた入口の外へ出る。

 すると、宿の前の通りには一台の馬車が駐まっていた。

 伯爵はその馬車に乗って行ってしまう。



「忙しそうだったね。あんまりおもてなし出来なかったよ」

「そうだなぁ。次来た時は今日の分も接待してやらんとな!」



 二人は仕事に戻っていった。

 だが、マヤだけは未だに俺と一緒に通りに出ていた。

 しかも、何だかちょっと悲しそうな顔をしている?



「どうしたんだマヤ?」

「伯爵様、に」

「うん」

「ありがとう、ございました、って、言えなかった・・・」

「・・・そっか」



 俺はマヤの頭を撫でてやりながら、軽く背中を押して宿へと戻った。



 そして、悲しそうな顔をしているマヤを見たロイさんが、また魔物みたいになって俺を襲うまで、あと五秒――――




 ~~~~~




 馬車の中にて、伯爵はひとり思案していた。



「(やはり、グインタビューに『仮面』がいたか。情報は間違っていなかった)」



 服の胸ポケットに指を入れると、ビー玉のような青い物を取り出す。



「――私だ。グインタビューには着いたか? そうか、事情が変わった。二人ともすぐに帰還するように。以上だ」



 ビー玉に話かけ終わると再びポケットへとしまい込む。



「(さて、あとはグインタビューの領主に責任追及しないとな)」



 追及のネタはユーキがいろいろ話してくれたおかげで事欠かずに済む。

 ずっと貴族として目に余っていた者を、ようやく掃除することが出来る。



「ホーネット様。到着致しました」



 馬車が止ると、すかさず外から扉が開かれる。

 伯爵は傍らに置かれていた、深緑のローブ(・・・・・・)を羽織り、自分の屋敷へと入っていった。




ソプレゼ領主は、グインタビュー領主が嫌いです。

理由は『貴族なのにその責任を果たしていない』からです。

タイトルのノーブレス・オブリージュですね。


ノーブレス・オブリージュには『ノブレス・オブリージュ』『ノーブル・オブリゲーション』『ノブレッソブリージュ』など、他にも複数の呼び方があります。



【次回】ソプレゼでの日常


※ちなみに前書きに書いた『新作』について活動報告で触れています。

あらすじ(仮)を書いてあるのでよろしかったらご覧下さい^^

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