国王に信頼されし者
ちょうどいい時間に書き終わったので投稿!
「おじゃまします」
「はいよ」
酔っ払いの男を片付けて(あの後穴から引っ張り出されどこぞへと連れて行かれた)あらためて『宿屋三日月』へと入る。
「さてと、宿泊だったね」
「あ、はい。出来れば一ヶ月ほど泊まりたいんですけど」
『一ヶ月で何とかしてみせる』とガーフィさんは言っていた。
その間俺が拠点とする場所を決めたら、手紙で所在をフェルに教える事になっていて、解決したら連絡をもらうことになっている。
解決が早まったり、逆に遅くなることもあるだろうからその対策だ。
そして『帰れる』ようになったら『転移魔法』でグインタビューに戻る寸法だ。
「ふむ・・・一つ提案があるんだけどね」
「なんですか?」
「一月分の宿代を無料にしてあげるよ。あ、でも部屋は一番ランクが低いのになるけどね」
「え!?」
突然の申し出に頭の中が『?』で一杯になる。
「いやね、どうやらさっきは迷惑を掛けちまったみたいだし、何より『その子』がそんなに懐いているからね。一ヶ月の間その子の相手をしてもらいたいんだよ」
女将――パーラさんが指さす先には、俺の服の裾をギュッと掴んで並び立つマヤの姿があった。
パーラさんが言うように、あの後から妙に懐かれていて今の状況に至っている。
「・・・泊まる?」
「あ、あぁ。そのつもりだけど」
「・・・(フリフリフリ)」
下から見上げてくるマヤに答えると、尻尾がまた犬が喜ぶみたいに振られる。
その顔は少しだけ笑っているように見えた。
「おや、これは予想以上に気に入られたみたいだね。マヤがこんなに早く笑顔を見せるなんて。やるねぇ、えっと―――」
「あ、申し遅れました。旅をしているユーキと言います」
「ユーキか。わたしゃパーラだよ。『女将』でも『バーちゃん』でも『パーラ』でも好きに呼んでおくれ」
「じゃあパーラさんで」
パーラさんと自己紹介が済むとマヤに裾をクイクイと引かれた。
「ん? なんだい」
「マヤ」
マヤは自分の事を指さして言う。
「おう、よろしくな、マヤ」
「んっ」
ちょっとだけ声のトーンが上がった返事をしてくれた。
「それでどうだろうね? こっちとしては迷惑料ってことも踏まえて、提案を受けてもらえたらありがたいんだがね」
「そうですね・・・」
ちょっと考えてみたが、今のところ不都合は見当たらないと思う。
もし『宿代だけで飯代は別』と言われても大丈夫だ。
神様にもらったお金と、依頼をこなして稼いだ分がまだたっぷりとある。
「パーラ」
「なんだい、マヤ?」
「ロイの、足音。帰って、くる」
「相変わらず良い耳してるね。でも、ロイもちょうどいいタイミングだったね」
「『ロイ』さん? それってだれ―――」
「がっかかかっ! 今帰ったぞ~! なんだなんだぁ~、扉が壊れてるじゃねぇかよ~。おっ! マヤ~! 相変わらず可愛いな~! うりうりっ」
まさしく『嵐のような』という印象を受ける初老の男性が、独特な笑い声と共に宿に入ってきて、マヤを抱き上げて頬摺りし始める。
「・・・ロイ、髭、痛い」
「おっと! ごめんな~。でも、もうちょっとだけ」
「いい加減におし、アンタ」
「もぺっ!?」
嫌がるマヤに更に頬摺りしようとする老人、この人がロイさんのようだが・・・・・・パーラさんは容赦ない拳骨を脳天に喰らわせてた。
「この人が『ロイさん』ですか?」
「そうだよ。あと、あたしの旦那でもあるんだよ」
「・・・料理、人」
多分マヤは宿の料理を作っているから、ロイさんを料理人と言ったのだろう。
「がっかかっ! 痛いじゃないか婆さん。俺の頭は繊細なんだぞ~」
「お黙り。いっつもいっつも懲りずにマヤに髭なんか擦りつけて。この変態爺」
「がっかかかっ!」
「変態、じじい」
「っ!?」
パーラさんに言われても笑っていたロイさんだったが、マヤの発言を聞いたとたん、壁際に体育座りで座り込んでシクシクと泣いてしまった。
「えっと、元気出して下さいよ」
何だかいたたまれない気持ちになった俺は、ロイさんの傍らにしゃがんでその肩にポン、と手を乗せた。
「ありがとうよ兄ちゃん・・・・・・ところで兄ちゃんは誰だい?」
「はじめまして。旅をしているユーキと言います。今日はこの宿に泊めてもらおうと思って」
「何だ! お客人だったのかい! いや~、情けないところを見せちまって」
元気になったロイさんは、恥ずかしそうに後頭部を手でかきながら立ち上がる。
「それなんだけどねアンタ」
「ん? どうしたよ」
「ユーキにはさっき迷惑を掛けちまってね。だからあたしゃ宿代をタダにしてあげようと思うんだけど、どうだろうね?」
「おう! お前がそう決めたなら好きにしろい! がっかかか!」
まだ正式に提案を受けるとは行ってないんだがな・・・。
まぁいいか。
どのみち最後には受けてたと思うし。
「今日からよろしくお願いします。パーラさん、ロイさん」
「はいよ」
「おう! 美味い飯食わしてやるよ!」
ロイさんは上着の袖を捲って、力こぶを見せながら『がっかかかっ!』と笑う。
年齢にそぐわぬ力こぶの持ち主だった。
「(なんか、この独特な笑い声聞いた気がするんだけど・・・いつどこで聞いたのかな?―――クイクイ)―――ん? どうしたんだ?」
「私も、お世話、する」
ロイさんを真似たのか、俺の服を握る手と反対の手でガッツポーズ?をしているマヤ。
小さな体と俺に似た黒髪のため、なんだか妹が出来たみたいだ。
「そっか。じゃあマヤもよろしくな(ナデナデ)」
「んっ(フリフリ)」
マヤはやっぱり尻尾を振って喜びを表現する。
相変わらずマヤの髪はさらさらで、それに何だかひんやりとしていて撫でている俺も気持ちいい。
ドバアァンッ!
「!?」
「おい・・・兄ちゃん。・・・今・・・何したよ?」
「え? えっと? マヤの頭を撫でて、ました、け、ど?」
大きな音がして体が『ビクッ!』とした。
音の発生源はロイさんが平手で叩いた壁のようだが・・・見事に『手の平型に陥没』していた。
ちょうど壁の模様の上だったので、芸能人とかがしている手形のオブジェみたいに見える。
「あの」
「(くわっ!)今日会ったばっかのポッと出の奴に! マヤの頭ナデナデの権利はやらぁん!」
「何ですかいきなり!?」
「あー、やっぱりこうなったかい」
「パーラさん! 見てないでロイさんを止めて下さいよ!?」
「UOOOOOOOO!」
「ちょっ、なんか魔物みたいになってますけど!?」
今俺はロイさんと両手の平を掴み合って、力比べをしているところだ。
実は俺の体は身体強化の魔法を使わなくても世界トップクラスの身体能力を発揮出来る。
それなのに、ロイさんも負けず劣らずの力を持ってして俺を潰しに掛かってくる。
「簡単に説明すると、ユーキが早々にマヤの頭を撫でることが出来ているのに嫉妬してるんだよ」
「はぁ!?」
要約するとこうだ。
パーラさんとロイさん夫婦は宿の手伝いとして奴隷を購入することにした。
◇◇◇◇◇
この世界では奴隷は大きな街や、ちょっと裕福な家なら居て当たり前の存在。
だが奴隷にも人権はあり、大抵は借金の形に奴隷になるため、肩代わりしている奴隷商に全額返済が終われば一般市民へと戻る。
この時、奴隷を示す手の甲の焼き印は主(雇い主)の魔法によって消される。
だが、やはり世の中には悪い奴等は居て、『違法奴隷(人権を無視された奴隷)』も存在する。
国はいろいろ対策を取っているが、なかなか根絶することは出来ないでいる。
◇◇◇◇◇
二人が奴隷商の元を尋ねると、そこにはまだ幼いマヤがいて、二人とも思うところがあったのか、即決でマヤを購入した。
それからというもの、コミュニケーションをとろうと四苦八苦する日々で、当初は頭を撫でることも叶わなかったらしい。
それでもめげることなく、二人は時間を掛けて今の関係を気付き上げたのだそうだ。
「(そんな苦労して手に入れた『ナデナデ権利』を、俺が出会ってすぐに手に入れたら・・・そりゃ怒るか)」
つまりはそういうことだ。
「KEKEKEKEKE!」
「うわこわっ! ロイさん! 戻ってきて下さいよ!」
「まったく、しかたない人だね。ほらアンタ! いつまでやってんだい!?」
「?」
俺とパーラさん二人がかりでロイさんをなだめている中、マヤは『何が起きてるの?』という感じで所在なさげに立っていた。
『お邪魔するよ――って、なんだねこの扉は? 随分と風通しが良くなったものだね。それに・・・いったいこれはどういった状況なのかな?』
ギャーギャー騒いでいる俺たちは、たった今はいってきた男性に気付かなかった。
だが、一人騒動の蚊帳の外だったマヤは男性に気が付いて、パーラ仕込みのお辞儀で対応する。
「いらっしゃい、ませ。ホーネット、伯爵、さま」
宿屋に入って来た男性は、このソプレゼの領主『ナダン・ホーネット伯爵』だった。
タイトルの『~者』はナダン・ホーネット伯爵です。
ラストの数行しか出てきませんでしたが・・・・・・。
ちなみに正式には『ナダン・ホーネット・ソプレゼ』になります。
ですが、ある程度品格があり、なおかつ領地を持つ貴族は式典などの場以外では姓名のみを名乗ります。
これは『私は領地を持ってるんだぞ』とアピールするのは品位に欠けるという考えがあるからです。
(なのでジョウンは・・・うん。まぁあんな奴ですから)
【次回】主人公、絵に描いたような『良い』貴族と話す!
※誤字修正、加筆10/1




