10万パワーな女の子
タイトルの元ネタが分かる人はいるかな?
あっちへフラフラ、こっちへフラフラ寄り道しつつ、屋台の親父に教えてもらった宿を目指す。
もう2の門の広場を過ぎて、広い道を歩いている。
「う~ん、広場からどのくらいの距離か聞くの忘れたな」
『青い看板に三日月』が書かれた看板という目印だけしか教えてもらってなかった。
「もしもの場合は誰かに聞けばいいか」
幸いにもこの道には多くの人がいる。
商店街やアーケードと言った雰囲気だ。
そこかしこから、店員の威勢の良い呼び込み、奥様方の井戸端会議の声、飲み屋から『がっかかかっ』と独特な男の笑い声が聞こえてくる。
「(キョロキョロ)―――おっ、これじゃないかな」
暫く歩くと『これじゃないかな?』と思われる建物を見つけた。
「うん、間違いない。親父の言ってたのと同じ看板だし、三日月って書いてある」
ようやくたどり着いた。
グインタビューを出て丸一日経っていないとは言え、初めての野宿と旅(と言って良いか分からないが)で体はもとより精神的にも疲れた。
早くフカフカのベッドで横になりたい。
「ではさっそく」
建物の入口にある扉を開けようと手を伸ばす。
伸ばした手が木製の扉に触れようとした、その時―――、
「―――ぉぉぁぁああっ!?」
「へ? ぶぅっ!?」
扉の向こうから声が聞こえたと思ったら、勢いよく扉が中から開いて、俺は吹き飛ばされてしまった。
ゴロゴロゴロ!
そのまま道の中央程まで後回りで転がる。
俺、後回りなんかしたの小学校時代のマット運動以来じゃないか?
一緒に吹っ飛ばされた扉と、男の人?が、俺よりも後ろの方に転がっているのが視界の端に写る。
この男が宿の中から飛び出してきて、俺はそれに巻き込まれたとみる。
不運としか言いようがない。
「・・・お客でも、礼儀は、必要」
ふと、舌足らずな声が聞こえた。
ちょっとクラクラする頭を抑えつつ上半身を起こし、扉が吹っ飛び風通しが良くなった宿の入口を見る。
そこには女の子が一人立っていた。
少し紫色に見える腰程まである黒髪。
透き通った海のような綺麗な青い瞳。
そして、嫌でも目に止る『頭から生えた二本の短い角』と、着ている青いワンピース(幼稚園や小学校の制服みたいに見える)の下から伸びる『尻尾』。
間違いない。
女の子は俺がこの世界で初めて見る『竜人』だった。
「? ・・・どう、したの?」
その女の子は俺の方を見て首を『コテン』と傾げて聞いてくる。
「あ~、扉を開けようとしたら、いきなり開いて吹っ飛ばされたんだよ」
「そう・・・ごめん、なさい」
どうやらこの女の子はあまり喋らない子のようだ。
一応俺の目を見て話してくれているが、会話が続かない。
というか、何で謝るんだ?
「うぅ、くそっ、この餓鬼がぁ!」
俺の背後からドスの効いた男の声がする。
どうやらさっき飛ばされてきた男のようだが、その顔はどう見ても酔っ払っている顔だった。
ふと近くで『トン』と地面を踏むような音がしたかと思うと、女の子が俺の隣へとやって来ていた。
「ケガ、ない?」
「え? んと、大丈夫だぞ。体は人一倍丈夫なんだ」
「そう。・・・ん」
俺は無事をアピールするため立ち上がり、思わず女の子の頭を撫でてしまう。
女の子の身長は大体140ほどで、ちょうどいい高さにあったからついやってしまった。
「あ、ゴメンな。いきなり撫でたりなんかしちゃって」
「ん、平気・・・(ジー)」
手を退かすと女の子は『ジー』と穴が空くのではないかと言うくらい、俺のことを見てくる。
・・・・・・もしかすると。
「・・・(ナデナデナデ)」
「・・・(フリフリ)」
「(おー、尻尾が揺れてる。まるで犬みたいだな)」
心なしか目も細めているように思う。
どうやら俺の『頭ナデナデ』を気に入ってくれたようだ。
「テメェらぁっ、シカトこいてんじゃねぇぞ!」
男は顔を真っ赤にして、さっきより大きな声で怒鳴る。
『テメェら』と、いつの間にか俺まで対象に入っていた。
「思い知らせてやるっ」
男は懐から包丁くらいの短剣を取り出して『あなたを殺して私も死ぬ!』みたいに、腰溜めに構えて突っ込んできた。
「あぶ―――」
「マヤ。やっておしまい」
「ん」
ドンッ!
「ごふぁっ!?」
「―――ない、ぞって、あれ?」
『危ないぞ!』と言おうとしたら、女の子の小さな拳が酔っ払いの男の腹にめり込んでいた。
その威力は信じられないほど強く、男は通りを挟んだ向かい側まで『水平』にすっ飛んでいった。
しかも狙いすましたかのように、建物と建物の間にあった丸い隙間に入った。
「・・・ホールインワン」
「? なに?」
多分アレは煙突なのかな?
土管はこの世界にないと思うし、何より隣接する建物が『湯屋(銭湯)』で現在建設中だったからおそらくそうだろう。
俺の言葉が理解出来なくて、女の子はまた首を傾げていた。
その背後から一人近づいて来る人物がいた。
「マヤ、ご苦労様だったね」
「ん、大丈夫」
竜人の女の子を『マヤ』と呼んで、先程の俺のように頭を撫でているおばさん。
足が悪いのか杖をついている。
「えっと、失礼ですがあなたは?」
「あんたは冒険者かい? 私はこの宿『三日月』の女将、パーラだよ」
「・・・私の、ご主人様」
「あ、そうですか・・・・・・? 『ご主人様』?」
「マヤ、それは止めなって言ってるだろう。私のことはお婆ちゃんで良いんだよ」
「・・・私は、パーラの、奴隷。だから、ご主人様」
「まったく、この子は」
今度は先程よりも強く『ガシガシ』と竜人―――マヤの頭をなでるパーラさん。
「(初めて竜人を見たと思ったら、奴隷でもあったってか)」
頭を撫でられているマヤの右手の甲には、モリア神父仕込みの知識で知っていた、『奴隷』を示す焼き印が押されているのに今気付く俺だった。
今回『竜人』が初登場、さらにその竜人は『奴隷』でした。
※この作品で出てくる竜人は、竜やドラゴン形態に変身することは出来ません!
タイトルの元ネタは、本当は『パワー』ではなく『馬力』にしようとも思ったのですが、さすがにどうかと考え直してこうなりました(汗)
【次回】竜人の女の子に続き、重要人物初登場!
※一部修正10/1




