さらばグインタビュー
アンケートにご協力いただき、誠にありがとうございます^^
(アンケート内容は32話『指名手配された』の後書きに記載しています)
※アンケートの回答は本日9/22の23:59までで締め切らせていただきます。
「・・・よし」
少しだけ扉を開けて、通りの様子を見る。
どうやら通行人も、見回りの兵士もいないようだ。
時刻は・・・時計が分からないから不明だが、月あかりが照らす夜になった。
もう街の人々は大半が夢の中で、極少人数だけが飲み屋でまだ飲んでいる。
俺は昼間の内に宿を引き払い、ガーフィさんが用意してくれた家―――地下通路の出入り口がある家に移っていた。
『安らぎの宿』のミィルさんにはお世話になった。
今度戻ってきたときには何かお土産でも持っていこうかな。
「よっと、おっとっとっ。やっぱり重いな~」
用意しておいた荷物を詰め込んだリュックを背負う。
俺一人分の荷物だが、三日分の旅用荷物と私物が入っているので凄い量になった。
「ま、身体強化すればいいけど」
もうお馴染みとなった身体強化の魔法を使う。
さっきまでバランスを崩すくらい重かった荷物が、今は背負ったまま反復横跳び出来るほど軽くなった。
「さてと、行きますか」
扉を人一人分通れるだけ開けて、その隙間から滑り込むように外に出―――
「ぐえぇ!?」
―――れなかった。
荷物のことを考えてなくてつっかえた・・・・・・。
まるでコントみたいな事をしてしまって恥ずかしい!
もう一度誰にも見られていなかったか確認して、改めて荷物も通れるくらい扉を開けて外に出た。
~~~~~
「待ってましたよ、ユーキさん」
「トールか」
門まで誰にも見つからずに到着出来た。
そこには手筈通り、自警団のトールが待ち構えていた。
「すまないな、こんな茶番に付き合わせて」
「いえいえ、お気になさらずに」
『自警団の人に、黒髪の男が街の外へ出て行った』と証言してもらう、という計画のため、トールはここに居るのだ。
約束通り、ガーフィさんが手を回してくれた。
「短い間だったが、楽しかったよ」
「それじゃあまるで『一生の別れ』みたいじゃないですか。縁起でもない」
「ははっ、そうだな」
本当はすぐにでも門を抜けて、街道沿いに進んでいくべきだが、トールと軽口を交わしてしまう。
「さぁ、早く。後のことは自警団とギルドに任せて下さい」
「あぁ、頼んだぞ」
俺は笑みを浮かべながら、同じように笑みを浮かべるトールの肩を『ポン』と叩く。
「じゃあ、俺は行く―――」
「「待ってっ」」
「? フェルに、マギー?」
さぁ門を出よう、というタイミングでフェルとマギーが姿を現した。
トールにアイコンタクトで『どういうこと?』と聞いたが『知らない』と首を横に振られた。
「どうしたんだ二人とも? あ、俺何か忘れ物でもしたのか」
「いえ、違うわユーキさん」
「そうよ、ただ『見送り』に来ただけよ」
見送りはしなくていいって言ったんだがな。
あんまり大勢でいたら目立ちそうだし。
「言いたいことは分かるわ。しなくていいって言われてたけど・・・やっぱり私たちはしたかったの」
「私たちはパーティ―――仲間だからね」
「二人とも・・・」
トールは空気を察して、少し離れた場所に移動していた。
そして俺たちの代わりに周囲の警戒をしてくれている。
「・・・それで、ユーキに渡したい物があるの」
「渡したい物?」
「えぇ、コレよ」
フェルは肩から提げていたバッグから、一本の棒を取り出す。
「これは、フェルが使ってる『杖』じゃないか」
そう、それはよくフェルが使っていた、マラソンのバトン程の長さの杖だった。
初めて出会った時や、一緒に依頼を受けた時も使っていたのでよく覚えてる。
「ユーキ、ギルド長から『剣術を身につけるまでその剣は抜くな』って言われたんでしょ」
「うっ、よく知ってるな」
実は刀を研ぎ直してもらった時、ガーフィさんに説教され『その剣にふさわしい使い手になれ』とかなんとか言われた。
緊急時は躊躇なく抜くつもりだが、俺もちゃんとした剣術は覚えたいと思う。
なので『刀使用禁止』は遵守するつもりはないが『使い手になれ』は守ろうと考えている。
「だから、これで魔法を使うようにしなさいよ」
「俺は杖なしでも使えるぞ」
「ユーキさん、杖を使うと魔法の精度や威力が上がり、制御しやすくなるんですよ」
「へぇ~」
そんな効果があったのか。
凄いな杖。
「でもいいのか? これ愛用品だろ」
「べ、別に大丈夫よ! もう一本お揃―――予備! 予備があるから」
「そうか・・・なら、遠慮なくもらうぞ?」
「えぇ、はい」
フェルから手渡された杖を握る。
重さは見た目通り軽い。
指揮棒とか、ドラムのスティックぽくも見える真っ白な杖だ。
「ありがとうな、フェル」
「ふふ、どう致しまして」
俺はフェルにお礼を言い、腰のベルトに付いてるフック部分の穴に杖を差し込む。
「ユーキさん、あっちの通りで何かが光りました。多分兵士の鎧が月灯りで反射した光です。まだ遠いですが、なるべく早くっ」
離れた場所で警戒していたトールが、小走りに近寄り小声で伝える。
どうやらもうそろそろタイムリミットのようだ。
「もう時間がないみたいね」
「そうみたいだ」
マギーが他の二人より一歩前に出て言う。
「どうせならもっと落ち着いた雰囲気が良かったけど・・・しかたないわよね」
「? マギー?」
さらに一歩、二歩と前に出るマギー。
俺とフェル、マギーは向かい合うように立っていたので、必然的に俺の目の前に歩み出る形になった。
「私からの贈り物よ」
「へ? んっ! んむー!?」
「「あぁっ!?」」
マギーは俺の顔を両手で固定すると、キスをしてきた。
唇と唇が『チョン』とくっつくのではなく、口を開けて俺の唇を『はむっ』っと覆うようなキスだ。
「んっ、っっん」
「$%”&@’!?」
突然のことで体が動かない。
俺はマギーにされるがまま、濃厚なキスをされていた。
「――ん、はぁ・・・これが贈り物よ。しばらく会えないから、ね」
「な、ななっ、な!?」
「「・・・・・・」」
唇を舌でペロリとひと舐めする、頬を染め満足そうに微笑むマギー。
俺は口が回らずオロオロし、残り二人は思考が停止していた。
「―――はっ、マギー!」
「ふふふっ、ごめんなさいフェル。でも、早い者勝ちよ」
「ううううっ」
顔を真っ赤にしたフェルがマギーに詰めかかる。
だが大人の余裕とでも言うのだろうか。
マギーは悪びれることもしなかった。
「っ、ユーキ!」
「はいっ」
今度は俺の方に詰めかかる。
その両手は固く握りしめられて、白くなっている。
「グ、グーパンですか?」
「・・・・・・」
無言で、だけど俺の目をずっと見ながらずんずん歩くフェル。
そして、さっきのマギーと同じくらいの距離まで近づき―――、
「えいっ」
と、小さなかけ声と共に『俺の頬にキスをした』。
・・・・・・・・・・・・え。
「フェ、フェル?」
「これはおまじないよ!」
「えっと」
「旅の幸運を祈るおまじない! おまじないだからね! わかった!? 分かったら返事!」
「イ、イエスマム!」
とっさに敬礼してしまった。
「ふふ、頑張ったわねフェル。さ、ユーキさん。今度こそ早く。ちょっと騒ぎすぎましたわ」
あれだけ大きな声で『あぁっ!?』やら『ななな!?』とか出していたのだ。
トールが言っていた通りの方から『ガチャガチャ』と小さく聞こえてくる。
その時トールはと言うと、地面に両手両膝を付くポーズを取っていた。
例えるなら『orz』だ。
マギーはいつも通りだが、フェルはまだ顔が赤い。
月灯りの夜に見て取れるほどだから、きっと相当真っ赤っかなんだろうな。
「よ、よしっ、じゃあ行くよ。―――またな! 二人とも」
ちょっとおかしな展開になったので気を取り直す。
俺は二人に手を振り門の向こうへ、街の外へと駆けだした。
身体強化のおかげでグングン門から離れていく。
フェルとマギーは『気をつけてねぇー!』『幸運を祈っているわ』を手を振り替えして見送ってくれた。
最初は見送りはいらないと言っていたが・・・・・・やっぱりしてもらって良かった。
こうして俺はグインタビューを旅立った。
近くにある街『ソプレゼ』を目指して。
俺が完全に視界から消えた後、門までやって来た兵士が地面に伏すトールを見て『なにがあった!?』とフェル、マギーに聞いた。
二人は『今外に出て行った、黒髪の男がなにかした』と答え、その結果、目が虚ろになっているトールは、しばらく診療所の厄介になることになるが、これはまた別の話だ。
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『ベルトについて』
多くの冒険者が使う、多機能ベルト。
ベルトと言ってもズボンに使う物ではなく、服の上から巻くある意味腹巻きのような物。
剣をぶら下げるためのフックがあったり、試験管や銃弾を差すような穴が空いてたり、ポケットが付いてたり、バックル部分にワイヤーが仕込んであったりといろんな機能が付いてます。
※前書き追記、加筆、誤字訂正9/22




