実力行使の終わり
物語進行の都合上、ご質問に答えられない場合がありますが、ご了承下さい。
(ネタバレになってしまうなど)
あ、あと戦闘回の終わりでもあります。
門のところまで来てみると、仮面の人がキョロキョロと辺りをうかがっていた。
「おや、もう追いつかれてしまいましたか。あの男では足止めもほとんど出来なかったようで」
やれやれ、といった具合に首を振る。
「その様子だと、フェルは捕まらなかったようだな?」
「えぇ、困ったものです。まだ敷地内に彼女の魔力を感じるので、外には出てないようですが」
『精密な魔力探知は苦手なんですよね』と笑う仮面の人。
(ちなみに仮面は映画『マスク』に出てくるロキのマスク風)
「仕方ありませんね。まずあなたを始末してから、ゆっくりと捜すとしますよ」
そう言って再び魔呪具を取り出す。
そしてそのままユラユラと揺らし始める。
「? おや、おかしいですね」
いつまで経っても俺の様子が変わらないことに、首を傾げて不審がる。
俺は相手の事などお構いなしに、刀を鞘から抜き、鞘を腰に差し直して斬り掛かる。
「せあっ」
「うわっ!」
更に身体強化もしていたため、まさに一瞬で間合いを詰めて魔呪具を持つ腕に斬り掛かった。
だが仮面の人は間一髪でそれを躱す。
その際に斬られたローブの袖がひらひらと舞う。
「驚きました。身体強化の魔法?ですか。ここまで強力なのは初めて見ますね」
「随分と余裕だな。俺にはその魔呪具が効かないというのに」
「あぁ、やはり対策をしてましたか。・・・・・・そうか、あの女エルフの入れ知恵ですね?」
魔呪具を懐にしまう仮面の人。
「あぁ、あいつは俺の仲間だからな。教えてもらったんだ」
「・・・魔呪具への対策を知っているとなると、やはりあの遺跡には人工魔物の―――(ブツブツ)」
俺という敵を目の前にしているのに、ブツブツと何かを呟いて自分の世界に入っている仮面の男。
――――――隙有り!
「いけっ!」
俺は『戦隊ヒーローの変身中でも攻撃しちゃえよ』を推す派閥なので、攻撃だ!
イメージしたのは銃弾に似せた『石つぶての射撃』。
土属性でその辺の小石の強度を上げ、風魔法で発射した。
「―――遺跡は空振りだったが、あの女エルフを捕らえれば、おっと」
命中する瞬間、つぶては金属に当たる音と共に見当違いの方向へ跳んで行ってしまった。
どうやらローブの下に鎧か何かを着込んでいるようだ。
今即興で考えた魔法だったので、威力の調整が上手く行かず弱すぎたようだ。
「危ないですね。人が考えている隙を突くなんて」
「この状況でそんな隙を作る方が悪い」
「ごもっともで」
すると仮面の人は、懐から忍者が使うような『かぎ爪』を両手に装備して出した。
「・・・そのローブの中どうなってんの? 明らかに容量オーバーだろう」
「禁則事項で―――すっ!」
「っこの!」
仮面の人も身体強化の魔法を使ったのだろう。
俺に向かって一足飛びに飛びかかってきた。
「はぁっ!」
「くそっ」
流れが相手のペースになってしまい、どうにもやりにくい。
何とが刀一本で捌いているが、守るので精一杯で反撃まで手が及ばない。
そう、刀一本なら―――。
「だったら、こうすればいいっ!」
「!?」
俺は腰に戻していた鞘を抜いた。
右手に刀、左手に鞘の変則二刀流の完成だ。
「おらぁ!」
「ぐうっ、このっ」
「ぐえっ!」
左から迫ってきたかぎ爪を、爪の間に鞘を差し込んで防ぐ。
そのまま捻り、爪を割る。
次いで迫り来る右からの攻撃は刀で防ぐ。
この時に鞘で相手に殴りかかろうとしたが、腹を蹴られて距離を取られてしまう。
「くは~、いてぇ」
「やはり、私程度の武力では敵わないようですね。なんですか? 身体強化した私の蹴りを受けて、膝を付かない所か『痛い』と摩る程度で済むって」
せっかく縮まった間合いが再び空いてしまった。
だが、ここまでの状況は俺の方が有利に動いているだろう。
「おい。大人しく捕まる気はないか」
「・・・なに?」
「お前が使った魔呪具、いわゆる禁忌なんだろ。その出所とか、お前の目的とかを教えるなら、命だけは助けるように取りはからっても良いぞ」
殺すつもりでいたジョウンは死んでしまった。
俺の手で始末は出来なかったのがちょっと心に痼りを残しているが・・・。
だが黒幕のさらに黒幕であるこの仮面の人を今なら捕まえられる。
こいつを捕まえて今回の件にけりを付けよう。
「ふ、ふふ、ふふふふっ! あはははっ!」
突然仮面の人が狂ったように笑い出した。
腹を抱えたり、体を捩ったりするその姿は『異様』の一言に尽きる。
「なんだ。何がおかしいっ」
「ははははっ、これが笑わずにいられますか! そんなことを言っている内はダメですねっ、ダメダメです! あはははっ――――――」
笑っていたかと思ったら、ピタッと止まり仮面で見えない目が俺を捕らえる。
「あなた程の力を持つ人でもそうなんですか。やはり我が主以外にこの世を正しい道へ導くのは不可能のようですね」
「? 何のことだ。いったい何を言っている」
「結局人工魔物はいないし、手に入ったのは資料だけ。あぁ、魔呪具の試験運用も出来てましたっけ。領主はともかく、あの親子は少しだけ役に立ってくれましたね」
こちらの言葉に反応せず、ずっと独り言を言う。
それなのにずっとこっちを見ていて、背筋に嫌な汗をかく。
「・・・・・・興冷めです。あぁぁもう一刻も早く主の元へ行きたい」
「逃げるつもりか、そうはさせないっ」
俺は地面を水魔法で凍らせる。
凍らせる目標は、仮面の人の足下だ。
紙面に縫い付け次に鞘をスタンロッド化して――――。
「それではごきげんよう。また会うことがないことを祈ります」
仮面の人はいつの間にか手に持っていた物を地面に叩きつける。
次の瞬間、仮面の人は紫色の光に包まれ氷もその光の先へは進めなかった。
「なんだ?」
そんな俺の疑問に答えることもなく光と共に消えていった。
「―――終わった、のか」
終わった気がしない終わり方だ。
未だに状況が飲み込めない。
分かっているのは、あいつがとつぜん狂人みたいになり、姿を消したと言うことだ。
「―――キ、ユーキ」
「! フェルか!?」
どこからかフェルの声で俺を呼ぶ声が聞こえた。
すると、フェルがこちらに走ってくるのが見えた。
「フェルっ、無事だったか!」
俺の方からもフェルに駆け寄る。
気になる事も山ほどあるが、今はとにかくフェルと一緒に街へ帰ろう。
これでこの一件もいちおうの終焉を迎えた。
―――だがこのあと、俺はこの街を去らなくてはいけなくなった。
最後までお読み下さってありがとうございます。
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仮面の人は狂信的な『主』信者。
狂いだした原因は主人公の発言にNGワードがあったからです。
外に出られなかったフェルがどこに隠れていたかというと、普通に近くの木や草影に隠れてました。
貴族様の屋敷なので、立派な庭でそういった遮蔽物がたくさんあったという設定。
次回、主人公が街を出る、もしくは出る準備をする!
※誤字訂正11/9




