森から街へ
時間があったので筆がよく進みました。
「先ほどは大変申し訳ありませんでしたっ!」
只今絶賛『DO・GE・ZA(土下座)』中の本郷悠紀です。
俺の前には腕を組んで仁王立ちしている女の子がいます。
「信じらんないっ、こんなところで、は、は裸になって! あまつさえ私に見せつけてっ」
「いやいや説明したでしょ!? あれは事故なんだって!」
「信じられるわけ無いでしょ! 違う世界から来たなんて!」
俺は森の中でスッポンポンだった理由を女の子に話した。
神様にも秘密にしろとは言われてなかったし、多分問題はないはずだ。
「でも本当なんだって。それにこれだって見せただろ?」
地球の物は一切持ってこれなかったので、唯一神様に出して貰った日本刀――刀を見せたのだが・・・・・・。
「だからそれはアースト剣じゃない。確かにこの国では珍しいけど、『ニホントー』とか『カタナ』なんて名前じゃないわよ」
そうなのだ。
実はこの世界に刀とほぼ同じ『アースト剣』という刀剣があったのだ。
アーストという国が独自に作った剣だからアースト剣。
名前の付け方まで日本刀と似ている。
「とにかく! アンタは怪しいから一緒に来て貰うわ。もし抵抗するなら―――」
そういうと手に持っていた杖(杖と言ってもマラソンのバトン程しかない)を俺に向ける。
その先端は赤く輝いていた。
「わかった、わかったから。大人しく君の言う事を聞くから、もう『魔法』は勘弁してくれ」
「ふんっ、まぁいいわ。剣は私が預かるから、アンタは他の荷物を持ちなさい」
「へいへい」
そう。
彼女は魔術師だったのだ。
最初に遭遇した時も、悲鳴を上げながら俺に向かって魔法で火炎弾を撃ってきた。
裸の俺が必死に逃げて、叫びながら魔法を放つ女の子の絵図等は端から見たら嘸かし滑稽だっただろう。
~~~~~
「ほらさっさと歩きなさい」
「そう言うなら手と足の拘束を解いてくれよ」
「ダメに決まってるでしょ。誰がアンタみたいな変態を自由にするもんですか」
「・・・はぁ~」
俺は現在両腕を後ろ手に縛られ、両足首を一本のロープで繋がれている。
『荷物どうやって持つんだよ』と言ったら『背負えばいいじゃない』と返された。
『小股歩きになって転びそう』と言ったら『私は転びそうじゃない』と返された。
実際には引き千切れない訳ではないのだが、そんなことをしたら余計に話しが拗れそうだからやらない。
なので俺は今、大きな袋をオンブしてチョコチョコ小股歩きで歩いてます。
―――あ、服はDO・GE・ZAの前にもうちゃんと着てるよ。
~~~~~
「なあ、そろそろ君の名前を教えてくれても良いんじゃないか」
「嫌よ」
「俺は教えただろ」
「アンタが勝手に言ったんでしょ」
歩き続けて三時間くらい経っただろうか。
途中で休憩を挟んだり、相変わらず小股歩きなので森を抜けるのにも時間が掛かる。
女の子が言うには、もうすぐ街が見えてくるそうだ。
『アンタ』呼ばわりをやめて貰うために色々手を打ってみたのだが・・・。
「別に良いだろ名前くらい」
「変態に教える名前なんか持ってない」
「だからそれは、」
「はいはい、異世界からやって来たんでしょ? 詳しくは街に着いてから聞くから」
こんな感じてとりつく島もない。
しかたなく、もう何度目かわからない溜息を吐きつつ歩く。
「―――ん? なんだ」
「どうしたの。早く歩きなさい」
なんだか誰かに見られているような感覚が頭の警鐘を鳴らす。
気配、とでも言うのだろうか。
これもなんとなくだが、魔力によって感覚が研ぎ澄まされたとかそんなチート感がする。
「何かいるみたいだ。でも何処にいるかが分からない」
「なに言ってるの。ご託は良いからさっさと―――」
「WOOOOON!」
突然、犬の遠吠えに似た動物の鳴き声が木霊した。
「「―――OOOON」」
それも一つや二つではなく複数もだ。
森のあちこちに反響してどこから聞こえるのかは見当が付かない。
「まさかデスドッグ!? 何でこんな街の近くにっ!」
「デスドッグ? 魔物か?」
ドッグと付くくらいだから犬の魔物なのだろう。
そして、女の子が狼狽していることから、強い魔物かここには普段いない魔物なのであろう。
「デスドッグは一匹ならまだ良いけど、群れならキングボアと互角にやり合えるのよ! でも普段はお互いに警戒し合ってるから、森の奥から出てくることなんて無いのに」
「・・・・・・(汗)」
やばい。
心当たりがありすぎる。
きっと俺が倒したキングボアが話に出てきたやつだろう。
そして、俺が倒したことによりデスドッグ達が動き出した・・・と。
「(あれ? これって俺のせいだよな)」
神様が用意したとは言え、俺が倒したことに変わりはないのだから。
女の子の慌てている様子から、デスドッグは彼女にとって格上の相手なのだろう。
でも俺は一人で、しかも二撃でデスドッグと互角のキングボア倒してるし・・・・・・よし。
「(ここはきちんと責任とりますか)」
俺は手足を拘束していたロープを力任せに引きちぎった。
「ちょ、ちょっとアンタ! なにしてるの!」
「いや、そのデスドッグとやらを倒してこようかと思って」
「何考えてるの!? というかそのロープどうやって、それ魔法で強化されてたのに」
「多分楽勝だよ。ロープは無理やり力任せで」
「・・・・・・」
何も言えず口をパクパクさせ、腰が抜けたかのように地べたに座ってしまった女の子。
俺はその脇に袋に入った荷物を置き、女の子が持っていた刀を返して貰ってから、女の子の前に一人立った。
「―――どっか等でも掛かってこい!」
そう言うやいなや、前後左右から合計四匹の犬っぽい魔物が飛びかかってきた。
デスドッグはポニーくらいの大きさで、第三の目みたいに額にもうひとつ目があった。
「漠然と飛びかかってくるだけじゃだめだな!」
俺はほぼ同時に仕掛けてきた四匹に対して、刀を横にして水平に突きだし、その場で駒のように回転した。
結果『スパッ』や『スポーン』と言った風に、四匹の顔や首を切り裂いた。
「―――予想以上に弱かったな」
先ほどの一撃で四匹全てが息絶えてしまった。
首が飛んだヤツはいいとして、顔を斬ったやつも死んだのには驚いた。
俺は刀を振って血振りしてから鞘へと戻す。
「さてと、大丈夫かい? 立てる?」
「ぇ?」
「ほら座ったままだと服が汚れるよ。さあ立って立って」
「ぁ」
俺は女の子の手を引いて立たせてあげた。
この世界に来て力が増しているという事もあるだろうが、女の子はまさに羽のように軽かった。
「な、楽勝だっただろう? それと―――はいこれ、預けるよ」
「・・・・・・」
女の子は心ここにあらずといった感じに惚けており、刀も預けようとしたのだが受け取らない。
「もしも~し? 君? 大丈夫?」
「―――フェル」
「?」
「私の名前・・・フェルって言うの」
「そうか」
名前を教えてくれた女の子――フェルは真っ直ぐに俺を見て聞いてきた。
「もう一度、あなたの名前を聞いても良い?」
「もちろん」
フェルは刀を押し返してきたので、俺はそれを腰に差して向き直る。
「俺の名前は本郷悠紀。悠紀と呼んでくれ」
フェルに笑いながら自己紹介した。
「―――うん。ありがとう、ユーキ」
フェルも俺に笑いかけてくれた。
今度は二人で並んで街へと歩く。
出会いは最悪だったけど、今となってはもう過去の話だ。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
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※誤字修正9/8