追及は実力行使で【3】
まだまだ終わらない。
「く、来るな! フェ、フェルがどうなってもいいのか!?」
「んー! んむー!」
ジョウンはフェルの首に短刀を近づけて脅してくる。
フェルは簀巻きにされた上、口を布で縛られていて喋れないようだ。
だが、部屋に入ってきた俺を見て何かを伝えようと『んー!』としきりに言っている。
「本当に、どうしようもないバカ貴族だな。フェルを攫い、そして今は人質か」
「だ、黙れ! 僕は『ジョウン・ラッセナー・グインタビュー』だぞ! ここで僕に逆らってただで済むと思ってるのか!?」
◇◇◇◇◇
『姓名について』
平民は名前のみで姓を持たない。
貴族は二通り有り、領地を持つ貴族は『名・姓・領地名』となる。
領地を待たない貴族は『名・姓』となる。
例外として、国王は『名・国名・何世』となる。
◇◇◇◇◇
「『ただで済むと思ってるか』だと?」
「ひっ」
俺はジョウンの言葉に怒りが湧いた。
どうやらそれは顔に出ていたらしく、ジョウンは情けないほど及び腰になっていた。
「逆にお前こそ、フェルにこんな事して『ただで済むと思ってるのか?』」
「ち、近づくな! こっちに来るんじゃない! これが見えないのか!?」
「んっ!?」
「フェル!?」
ジョウンはフェルの首筋に短刀を押しつけた。
短刀が触れているところから、一筋の血が流れる。
「この野郎っ―――ん?」
俺は身体強化の魔法を使おうとしたが、何故か魔力が霧散してしまい発動出来なかった。
「は、はは、あはははっ、無駄だ! この部屋には魔封じが施されている。この中で魔法は使えないぞ!」
どうやら俺が魔法の発動に失敗したのに気が付いたようだ。
さっきまでとは違い、強気に出るジョウン。
「魔封じ、か。―――どれ、むんっ!」
バギィッ!
「・・・へ?」
部屋の四隅から、空き缶を潰すような音が聞こえてきた。
音のした方を見てみると、粉々になった白い物が散乱していた。
部屋の四隅にそれぞれあることから、さっきの音は俺が割れた?音だろう。
「なぜ、どうして魔封じが」
「うん。予想以上だったな。まさか壊せるとは思わなかった」
「貴様、なにを、した」
「単純に『思いっきり魔力を込めた』だけだよ。本当は燃費が悪くても良いから、魔法が使えないか試したんだけどな」
「(ぱくぱく)」
ジョウンは開いた口が塞がらないようだ。
俺としてもこの結果は出来すぎていた。
これはあれかな?
電気を使いすぎてブレーカーが落ちたみたいに、魔力を込めすぎて魔封じが処理しきれなかった、みたいな?
「何にしても、これで魔法が使えるな」
「た、たとえ魔法が使えたとしても、こっちにはフェルがいるんだぞ!」
「往生際がわる―――!?」
「ジョウン! 無事か!?」
背後から嫌な気配を感じて、俺は横に転がった。
俺が先ほどまでいた場所を、炎を纏った鞭が一閃し、俺の持っていた盾をはじき飛ばす。
「父上!」
「おぉジョウン、無事だったか。愚弟にはさっき増援を送るように言ってきた。もうすぐ駆けつけるぞ」
「父上・・・だと?」
俺は部屋の入口から角へと移動して、今来た人物を見た。
確かに、どことなくジョウンの顔立ちと似た男だった。
男はジョウンの脇に立ち、俺に対して鞭を構える。
「貴様、こんな事をして生きて帰れると思うな。愚弟に言って捕らえさせたら私自ら直々に殺してくれる」
「あんたがコイツの父親か。俺はあんたの息子が拉致した仲間を取り返しに来ただけだ」
「なに?」
男はジョウンと、その隣に立つフェル、そして首に添えられた短刀に目をやる。
「ふん・・・だから言ったのだ、平民の女なんぞに構うなと」
「申し訳ありません、父上」
「まったく、愚弟にわざわざ『ギルド不干渉』を通達させたのにこの有様とは」
「・・・なに?」
いまこの男なんと言った?
『愚弟にギルド不干渉を通達させた』だと。
じゃあなにか。
領主が甥を庇ったのではなく、本当はジョウンの父親が黒幕だったのか。
「・・・随分と領主に色々言えるようだな」
「口の利き方に気をつけろ。平民風情が」
うわー。
ジョウンもそうだが、こいつもよっぽどのダメ貴族だな。
いや、コイツの影響でジョウンもそうなった、が正しいのか?
「弟は兄のいう事を聞けってか?」
「当たり前のことだ。あんな愚弟に領主の座は譲ってやったのだ。弟を立ててやった兄を敬うのは当然のことだ」
・・・・・・胸くそ悪い。
こんな横暴な男を兄に持つ領主さんは苦労しているだろうな。
「ボーっとしていて良いのかっ、隙だらけだぞ!」
ジョウン父は炎の鞭を振る。
鞭の太さ、長さは以前見たフェルの物よりもやや大きかった。
「よっほっ(スカ)」
「ちぃ、ちょこまかと」
「父上! 加勢しますっ」
炎の鞭を振り回す父と、それを回避している俺を見て『押している』と思ったのか、ジョウンはフェルから離れて短刀を構える。
すると短刀の刀身が青く光り、ペットボトル(500ml)くらいの氷柱が空中に数個現れた。
「そらそらそらっ! くらえっ」
ジョウンはその氷柱を俺目掛けて射出する。
それに合わせるように炎の鞭が振るわれ、氷柱を避けようとすれば鞭が当たる軌道を描く。
「あはははっ! これで終わりだなっ」
ジョウンは高笑いし、ジョウン父もニヤリと笑う。
二人に差はあれど、どちらもこれで終わりだと思っているようだ。
「―――温いな」
俺のその一言は、異様なほどその場にいた者たちの耳に響いた。
その直後、俺の体から溢れ出た『何か』が飛来した氷柱を、縦横無尽に振るわれていた炎の鞭をかき消した。
それだけでなく、炎を纏っていた鞭と青く光っていた短刀も、魔法が消えるのと同時に破壊された。
「!? 馬鹿なっ。いったいどうしたというのだ!」
「うぐっ、いたい、いたいぃ」
「ふぅ、試しにやってみたが成功したな」
「貴様、何をしたっ」
「教えてやる義理はないな」
どうやらジョウンは短刀が破壊されたときに破片が顔に当たったようだ。
左目の上辺りを手で押さえているが、隙間から血が流れている。
「フェル!」
「ん!」
意識が俺の方に集中している隙に、フェルを助け出す。
体を縛っていたロープを力任せに引きちぎり、口の布も取ってやる。
「ぷあっ、ユーキ!」
「遅くなって御免な」
首に手を回して抱きついてきたフェルの頭を撫でつつ謝る。
『乱暴されなかったか』と聞いたら小さく『大丈夫』と言ったのでほっとした。
「・・・さてと、じゃあ今度はこっちの番だな。覚悟しろよ」
「ぬ、ぐぅ!」
ジョウンは戦意喪失、ジョウン父は歯ぎしりしながら睨み付けてくる。
だが、その目が俺から視線を外し入口の方に向けられた。
「―――お待たせしました」
「おお! お前が来てくれたかっ」
俺も入口に目をやると、ローブを頭からすっぽりと被り、顔には仮面を付けている人物がいた。
男か女かは見た目では分からない。
「さあ! この平民を片付けてくれ!」
「・・・・・・」
ジョウン父が俺とフェルを指さし、仮面の人はゆっくりとこちらを見る。
そしておもむろにローブの中に手を差し込み、何かを取り出した。
――――それは『鎖の先に宝石が付いたネックレスのような物』だった。
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領主について
領主の弟は、先代(父)の指名で後を継ぎました。
決して『兄(ジョウン父)が弟に譲った』わけではありません。
兄は性格的に問題があったので、やや弱腰が目立つが『良い人』である弟が先代の指名を受け、後を継いだという設定です。
それが面白くない兄は、弟にあれやこれや強要するという・・・。
次回、謎の仮面の人の正体とは!?




