追及は実力行使で【2】
まだまだ続きます。
「おい来たぞ!」
俺は豪華な絨毯が敷かれた廊下を歩いている。
目の前にはこれで三度目の人間バリケードが陣取っていた。
「くそ、もう俺たちしかいないぞ!? どうすりゃいいんだっ」
「とにかくあいつを斬っちまえば良いんだよ!」
「(・・・全部で六人、それにこれで最後か)」
ここに来るまでにも妨害があったが、俺はその全てを難なく突破してきた。
「・・・もう何度目か覚えてないが、そこをどけ」
「ど、どけと言われて素直にどくわけにはいかないんだよ!」
「待てよ! 隊長が来るまで仕掛けるなっ」
制止する声を無視し、片手に盾、もう片方に大剣をもつ大男(ガンスと良い勝負)が切り込んでくる。
野外では魔法も織り交ぜて来ていたが、屋内に入った途端魔法の攻撃は無くなってしまった。
どうやら領主かジョウンに魔法攻撃を控えさせられているらしい。
「おぉっ!」
盾持ちの兵士は盾をそのまま俺にぶつけようとする。
シールドバニッシュだったか?
走り込むスピードといい、この攻撃といい、恐らくこの大男も俺と同じく身体強化している。
でも、そんなことは関係ない。
「盾ごと吹き飛ばすっ」
刀を持たない左手を男に向け、手の平を開く。
イメージするのは空気砲。
空気の塊は大体バスケットボールくらいにする。
「いけっ!」
空中に小さな竜巻のような物が作り出され、俺はそれを盾を正面に構え突っ込んでくる大男に向け放つ。
だが、想像上ではそのまま後方に吹っ飛ぶはずだった大男は、空気砲が当たったにも関わらずそのまま接近してきた。
「なに?」
「馬鹿め! この盾に魔法はきかんぞ!」
目前に盾が迫る中、俺は蹴りを入れる。
狙いは盾の側面、相手の脇腹辺りだ。
「ふんっ、たかが蹴りごときで俺を止めようだなわばあぁ!?」
「止めるつもりはないよ。言っただろう? 『吹っ飛ばす』って」
壁に半分めり込んでいる大男に言うが、気絶しているので聞こえてはいないようだ。
鎧を着ている成人男性、しかも大柄な奴を吹き飛ばせるとは思っていなかったのだろう。
大男に続くように近づいていた男達が歩みを止める。
「しかし、さっきのはいったい何だったんだ? 魔法が効かなかったが」
他の兵士はまだ再起動まで時間が掛かるようなので、その隙に盾を拝借して調べてみる。
「(コンコン)種類は分からないけど、素材は金属だよな。あとは―――ん? なんだこれ?」
盾の裏面に目を向けると、そこには規則的な模様が描かれていた。
赤いインク?で書かれたそれはゲームなどでよく見かける『魔方陣』にそっくりな物だ。
「・・・もしかして、魔法無力化とかかな?」
試しに盾の表面に軽く雷魔法をぶつける。
だが、盾に雷が触れようとした瞬間、魔法はかき消されたかのように消え、盾には傷はもちろん汚れも付いていなかった。
「なるほど。じゃあこれはどうだ?」
俺は空気中に小さな氷塊を出す。
そして、それを盾にぶつける。
「よし、今度はぶつかったぞ」
思った通り、この魔方陣の効果は『魔法を無効化』するのであって、『魔法で出した物質』までは消せないようだ。
「だから最初に放った空気砲はきかなかったのか」
これだと100%魔力で作った『空気の塊』はもちろん『雷撃』のようなものも効かないだろう。
「―――はっ!? あ、あいつを殺せえぇ!」
『『う、うおぉぉっ』』
ようやく再起動した兵士達が各々の武器を構える。
中には水の塊や、小さな竜巻、火炎弾を準備している者もいる。
「魔法! 合図と共にあいつ目掛けて一斉に放てっ。剣持ってる奴はあいつに魔法が着弾したら突っ込め! 波状攻撃だ!」
今まで見た兵士とは違い、豪華な飾りが付いた鎧を着込んだ男が指示を出している。
どこから出てきた?
さっきまではいなかったはずだが。
「隊長! ジョウン様はいいんですかっ」
「そのジョウン様と領主様直々の命だ。この先の部屋へは一歩も近づけさせるな!」
『『はっ』』
崩壊しかけていた兵達が陣形を整え直す。
隊長と思われる男の指示に従い、動き出す。
「どうやらこの奥がゴールみたいだな。ジョウンが逃げ出すといけないから、そこをどいてくれると嬉しいんだが?」
「賊めが。我々を見くびるなよ」
「最後通告だ。―――そこをどけ! 従えば手は出さないっ」
「くどい! 魔法、放てぇ!」
隊長が掲げた剣を振り下ろし、切っ先を俺に向ける。
その合図と同時に無数の魔法が俺目掛けて飛来する。
魔法がぶつかる衝撃で、建物が揺れる。
「よし、続けて剣―――ギァッ!?」
「忘れてないか? 俺はこの盾を持ってたんだぞ」
飛来してきた魔法は全て大男から拝借していた盾で防いだ。
同時に魔法を放ったとは言え、それぞれの魔法は俺に到達するまでに若干のタイムラグがあった。
俺は身体強化によって強化された反射速度で魔法を順番に盾で防いだのだ。
「でもこの盾本当に凄いな。あの大男が自慢してただけあるな」
魔法を防いだら後は単純にスタンロッド(鞘入り刀)で、先頭で指揮を執っていた隊長を無力化した。
「よくも隊長をっ!」
「剣の振り下ろしが遅い」
「この野郎!」
「突き出した槍先がぶれてるぞ」
「「おらぁ! くらえやぁ!」」
「同時攻撃するなら、別々の場所を狙えよ」
残された兵士達も思い思いに攻撃してくるが、俺には掠りもしない。
それどころか、攻撃する度に兵士達が雷魔法の餌食となり、無力化されていく。
今や離れの通路の床には、うずくまり呻いたり、体を時折ピクピクさせている兵士でいっぱいだった。
「お前で最後だが、どうする? 逃げるなら見逃すけど」
「う、う、あぁぁ」
徐々に俺に押される形で陣形を組んでいた兵士達は後ろへ下がり、最後の一人になる頃には目的地と思われる部屋の扉を背にしていた。
「抵抗するのは勝手だ。ただ、その時は容赦なく寝ていてもらうよ」
刀に纏わせる雷魔法を、わざと放電させる。
『バチッバチッ』と音がする度に一瞬青白く光る。
「ち、ちくしょぉぉぉっ」
半分鳴きながら斬り掛かってきた。
「そんなにこれ怖かったか・・・なら」
「・・・へ? ごはぁぁぁ!?」
刀が怖そうだったので、ジャンピングキック(や○ざキック)をお見舞いする。
刀が来るとばかり思っていた兵士は、俺のキックに反応出来ず、そのまま後方へ転がる。
そのまま後ろにあった扉に衝突し、その勢いで扉が開いた。
「―――よう。あんたがジョウンか?」
中には顔から血の気が引いて真っ青になっている男と、その男に背後から捕らえられ、人質のようにされているフェルがいた。
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次回、ようやくジョウンと直接対決!
※誤字修正9/15




