追及は実力行使で
戦闘回は分けることにしました。
何話分になるかまだ未定です。
「ん?」
領主様の屋敷へと続く道に、いつの間にか一人の男が立っていた。
「おいお前。そこでなにしてる」
男は十五、六くらいだろうか。
黒髪で腰には剣を差し、冒険者風の格好をしている。
「この先は領主様のお屋敷しかないぞ。冒険者がいったいなんの―――」
屋敷の敷地と道の境界にある重厚な門。
その門の前に立っていた門番は、どんどん近づいて来る黒髪の男に声をかける。
「―――ジョウンはいるか」
「はぁ?」
恐れ多くもジョウン様を呼び捨てにする男。
門番は訝しみ男に引き返すように言う。
「ジョウンはいるかと聞いたんだ」
「お前のような不審な奴に教える事は出来ない。早々に立ち去れ」
「―――いや、一応聞いただけだからいい」
「? 何を言って」
門番の男はそこで気を失った。
『バチッ!』という音と共に体中の筋肉が痙攣するのを感じながら。
~~~~~
ダッダッダッダッ!
「フェルっ、今行くぞっ」
俺は門番をスタンガンのようにした雷魔法で昏倒させ、今は屋敷の庭を走っている。
目の前の大きな屋敷ではなく、ちょっと離れた場所に建っている建物(それでも大分大きい)に向けてだ。
「モリア神父は『離れに住んでる』って言ってたもんな。他にめぼしい建物もないし、あれで間違いないはず」
今のところ門番以外の兵士には遭遇していない。
こんなに警備がザルでいいのか?
「―――!? おい貴様! 何者だ!」
「ま、そう都合良く行かないか」
ちょうど考えていたところに、見回りをしていたと思われる鎧姿の兵士が現れた。
男は『侵入者だー!』と大きな声で叫ぶ。
「おいお前! そこで止まれっ」
「断る。押し通らせてもらう」
「侵入者がっ、何を言っている!」
俺は刀の柄に手をかける。
男は俺が刀を抜く前に、自分の腰に下げていた剣を抜き放ち、俺に向かって突きを繰り出してくる。
「はっ! はぁ!」
「遅いっ」
以前自警団で戦った経験が役に立った。
どうやら自警団もこの兵も同じ剣術を使っているようだ。
突きのスピード以外、軌道などがオリオさんと同じだった。
「悪いが、勝負をしている暇はない」
「何をっ」
俺は刀を鞘ごと腰から抜く。
ジョウンは別だが、他のやつらは好きこのんで殺したくはない。
最初の門番だって気絶させただけだしな。
刀を鞘に納刀したまま雷魔法を纏わせる。
これで簡易だがスタンロッドの出来上がりだ。
「くらえっ」
バチバチバチ!
「なんだそれギィッ!?」
隙を見て肌が剥き出しになっていた腕に、剣道で言う小手を喰らわせると兵士は一瞬体を強張らせて崩れ落ちる。
「き、さ、まっ」
「あれ、気絶まではしないのか」
まぁ、下手に気絶して心肺停止とかになられるよりは良いけれど。
もしそうなったら、雷魔法を電気ショック代わりにするしな。
『いたぞ! あそこだっ』『一人やられてるぞ』『槍持ってる奴! あいつを囲め!』『領主様とジョウン様の安全を確保しろっ』
まだ侵入して数分しか経っていないが、兵士達が大勢集まり俺をグルッと取り囲む。
「貴様、その格好は冒険者か? こんな事をして、覚悟は出来てるんだろうな」
「俺はジョウンに連れてかれた仲間を返してもらいに来ただけだ。用事が終わればすぐ出てくよ」
「仲間? お前あの女の仲間か?」
ビンゴ。
どうやらここに居るのは間違いないらしい。
「・・・ついでにジョウンにはきついお仕置きもするがな」
「ほざけ! 槍隊!」
隊長格と思われる男の号令の元、槍を持った兵達が一斉に矛先を俺に向ける。
「無謀だったな。一人で潜入なんぞするからこうなるのだ」
「ご託は良いから、そこをどけよオッサン」
俺の挑発に男は顔を真っ赤にする。
「~っ、構わん! 殺せぇ!」
槍が一斉に俺に向かって伸びてくる。
前後左右、どこにも逃げ場はない。
だから・・・。
「!? なっ、跳んだ!?」
俺は身体強化して真上に跳んだ。
目標を失った槍は、俺がさっきまでいた場所を中心にぶつかり合い絡み合っている。
その中心に俺は着地して、一気に風魔法を放った。
「ふっとべ!」
『『う、うわあぁっ!?』』
放ったのは風魔法で作った空気の塊だ。
火薬はないが爆弾が爆発したかのような衝撃が取り囲んでいた兵達を襲う。
これなら酷くてもむち打ちや骨折程度で済むだろう。
『や、奴は魔法も使うぞ! 気をつけろっ』『なんだよさっきの、あんなにジャンプするなんて』『おい大丈夫か!? しっかりしろ』『いてぇ、いてぇよぉ』
無事だった兵達が警戒を促したり、騒いだり、地面に横たわる仲間の安否を確かめている。
俺はそれらを目の端に捉えつつ離れへと向かう。
『拙いぞ! 奴はジョウン様の元へ行くつもりだ』『行かせるなっ』『離れの中にいる兵は!?』『すでにジョウン様の部屋までの道中に配置済みのはずです』
なるほど、つまり兵隊がいる方へ行けばジョウンの元へいけるのか。
きっとフェルもそこにいるのであろう。
「そこをどけ」
「く、くそぉぉっ」
行く手を遮る兵士は破れかぶれ気味に剣を振り下ろしてきた。
「魔法だ! こちらも魔法を使え!」
「ですが、なるべく敷地内では魔法を使うなとっ―――」
「ちょっと植木が焦げたり庭の形が変わるくらい何だ! そんなこと言っている場合ではないだろ!」
兵士達は武器による攻撃だけでなく、魔法による攻撃も開始した。
だが、――――――身体強化をしている今の俺にはそれでもこの戦いは温すぎる。
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スタンロッド(仮)について
門番には『素手で直接』触れたので威力がそのまま伝わり気絶。
ロッドの時は素手と相手の間に『ロッド』が入り込んだため威力が散ったという設定です。




