責任者に追及
今回は戦闘前の話です。
戦闘は次回。
「マギー、魔呪具対策はいったいどんなものなんだ?」
「それ自体は単純よ。簡単に言えば、自分の魔力を卵の殻で覆ってしまうの」
マギーが言うにはこういうことだ。
体をコップ、体内魔力をコップ(体)に入った水に見立てる。
通常なら魔力はどんなに蓄えてもコップの縁ギリギリまでしか貯められない。
逆に減ったとしても空っぽにはならない。(空になると命の危険がある)
魔呪具はそんな魔力にある影響を及ぼす。
それは『貯められる魔力量を限界突破させる』のだ。
今までコップの縁ギリギリまでだった魔力は、魔呪具によって溢れ出てもどんどん増えていく。
増えすぎた魔力に、体は危機反応を起こし無理矢理にでも体外へ放出しようとする。
それでも放出量は足りず、最後にはコップは割れてしまう。
これが魔呪具による暴走、そして自爆の流れだ。
「けれどそのコップを卵の殻の中に隠してしまえば」
「影響を受けないって訳か・・・で? それはどうやるんだ?」
「えぇ、教えるからこっちに来て貰えるかしら」
俺はマギーに手招きされて寝台へと近づく。
すると指を下にしてチョイチョイと動かすので、何だろうと思いつつ身をかがめる。
顔の高さがマギーと同じくらいになったとたん、マギーが突然俺の顔を両手で掴んで引き寄せた。
「な、なにをっ」
「いいから、ちょっと我慢していて」
引き寄せたと思ったら、マギーはオデコとオデコをくっつけてきた。
鼻と鼻は擦れあい、目の前には目を瞑ったマギーの顔がドアップで映っている。
「いったいなにを―――うん?」
「―――どうかしら? ちゃんと伝わったと思うのだけれど」
「いや、うん。なんか頭の中に入ってきたよ」
くっつけていたオデコとオデコが離れる。
時間にして数秒だったが、その間に今知りたかった情報が頭の中に入ってきた。
「それにしても、やっぱりユーキさんは規格外ね。全属性が使えるから、この魔法も大丈夫だとは思ってたけれど・・・普通の人間なら叫び声を上げて疲労困憊になってるところよ」
「まぁ、ちょっと体力が減った気はするけど、問題ないな」
俺は早速たった今伝わってきた対魔呪具魔法をイメージした。
「もしや今のは伝達の魔法ですか? 初めて拝見しました」
「えぇ、私も額と額を合わせないと仕えないのですが、どうやら上手く行ったようで良かったです」
モリア神父は興味津々と言った具合にマギーに言った。
『伝達の魔法』
分かりやすい言い方をするなら『テレパシー』『念話』といった魔法。
無属性で、昔から現在に至るまで使い手は数少ない。
極めていくと離れた場所の人とも話せるが、マギーは額を合わせないと使えない。
また、この魔法は発信者と受信者がお互いに、この魔法を同程度使いこなせていないといけない。
受信者がこの魔法を使えない場合、著しく魔力と体力を消費する。
「(自分の魔力を『さらに魔力で作った殻で覆う』・・・・・・こうか)」
イメージとしては『心臓』『心』のような体の中心を、丸い形で包むように硬く厚い殻で覆う。
試行錯誤の結果、上手くできたと思う。
「これでどうだろう? 出来たと思うんだが」
「ちょっと失礼します・・・・・・えぇ、完璧だわ。私何かよりもずっと、ね」
俺の体に触れながらマギーがOKを出す。
触れていた手と体の境目がポカポカ暖かかった。
「よし、とりあえずこれでいいかな。マギーはまだ横になってるんだぞ」
「ユーキさん?」
俺の雰囲気が変わったことに気付き、首を傾げるマギー。
「モリア神父。ジョウンという人が住んでるところをご存じですか?」
「ジョウンというと、領主様の甥のジョウン様でしょうか?」
「はい、そのジョウンです」
「最近までこの街を出ていましたが、今は領主様の屋敷の離れに戻り、住んでいるはずですが」
部屋の窓の外を指さすモリア神父。
その先には他よりも一段高さが高い土地に大きな屋敷が建てられている。
「そうですか。ありがとうございました。―――これで準備が出来たな」
「準備、ですか?」
「えぇ『フェルを取り戻しに行く』準備が、ね」
「「!?」」
俺が笑いながら言うと、マギーとモリア神父が驚いた顔で見てくる。
「ユーキさんっ、マギーさんの話では相手は魔呪具を持っているのですよ! 危険ですっ」
「それは今対策を施したじゃないですか」
「そもそも、なぜジョウン様の所へ行くのですか? そうか、今回の件をお知らせに行くのですね。そうすれば領主様の所の兵が――」
「あれ? 知らなかったんですか、今回の主犯は領主の甥のジョウンなんですよ」
「えっ!?」
「しかも領主はギルドに手紙を送りつけてきて『手出し無用』って言ってきましたよ。ですから領主の兵はおろか、ギルドも今回の件は動けません」
モリア神父は目を見開き、口を開けて絶句している。
そりゃあ自分の所の領主がこんな事を、なんて信じられないか。
モリア『神父』だから尚更。
「ユーキさん。せめて私が回復するまで待って貰えないかしら。私だってフェルを助けたいの」
「すまないが、そんなに待ってられない。それにまた今回みたいに魔呪具を出されたら、マギーはまた倒れてしまうんじゃないか?」
「それは・・・」
ちょっときつい言い方だったかもしれないが、それだけフェルの危機は一刻を争うと思う。
なんたって、ジョウンは以前フェルを襲う前科を持っているんだから。
「と言う訳で、ちょっと行ってくるよ」
片手を上げて、まるで散歩にでも行くかのように軽く言うユーキに一瞬言葉が出ない二人だった。
「ユ、ユーキさんっ! 貴族に手を出したら大変なコトになってしまいますっ。最悪死刑になりますよ!」
「そうよユーキさん。それにギルドに属しているあなたが問題を起こしては、手出し無用と言われたギルドが関与したと思われてしまうわ」
二人とも何とかして俺を止めようとする。
だが俺は何が何でもフェルを助け出すんだ。
「貴族なんか関係ない。俺は、俺の仲間に、フェルに手を出した奴を懲らしめて、フェルを取り返すだけだ」
「しかしっ」
「でも、ギルドはどうするか・・・迷惑は掛けられないし」
少し悩んだが結論はあっさりとした物だった。
ギルドに属していて問題があるなら、やめてしまえば良いんだ。
俺は懐からギルドカードを取り出す。
そして、何の躊躇いもなくそのカードを真っ二つに割る。
「これで俺はギルドに属していない。冒険者でもなくなった」
俺は真っ二つにしたカードをマギーの座る寝台へと放り投げる。
「マギー、もしくはモリア神父。どちらでも良いのでこれをガーフィさん――ギルド長へ渡して下さい。それと『ホンゴーユーキは現時点をもってギルドを抜ける』とも伝えてくれ」
「ちょ、ちょっと待って! ユーキさ―――」
マギーの言葉を最後まで聞くことなく、俺は診察室を後にした。
後ろから何かが落ちる音とモリア神父の声が聞こえる。
マギーが無理して寝台から落ちてしまったのだろうか。
心配だ、だが――――――。
今はフェルを取り戻すことの方が先だ。
「(今行くぞ、フェル)」
俺は身体強化の魔法を発動して文字通り、目にも止らぬ速さで領主の屋敷を目指し走っていった。
お読み頂き誠にありがとうございます。
評価・お気に入り登録して貰えると作者は嬉しいです^^
ちなみにカードを折ったら冒険者じゃない、というのは主人公の暴論です。
実際には必要な手順があります。
今回は決意の表れというか、けじめのような感じで主人公はカードを折りました。
次回は、ついに主人公VS馬鹿野郎。
戦闘シーンは苦手ですが頑張ります。




