転移した先は森でした
お読み頂きありがとうございます。
「へー。ここが異世界か」
前振りも無く神様に転移され、俺は森の中に一人立っていた。
「確かに、地球ではないな。・・・・・・何だこの生き物は」
転移された俺目の前にはイノシシみたいな生き物がいた。
突然現れて驚いたのか、『じぃぃぃ』とう音が聞こえそうなくらい凝視してくる。
「牙とか凄いな。図体も有り得ない位デカイし。こいつが魔物ってやつか?」
神様も魔物がいる世界だって言ってたし、多分当たりだろう。
『イノシシみたい』と言うのは、こいつにはマンモスみたいな牙が四本あって、体長が軽自動車くらいあるからだ。
牙が四本ある『ドスファ○ゴ』を想像してもらえば大体合ってる。
『もしもし? 悠紀君聞こえる~?』
「? 神様か? どこにいるんだ」
『あーこれは声だけそっちに届けてるんだ。そっちは僕の世界じゃないから違う世界の神は入れないんだよ』
そんなルールがあるのか。
「んで、用件は何だ? 今ドス○ァンゴっぽい魔物が目の前にいて忙しいんだが」
『それそれ! それの件で話しがあるんだ』
「ん? なんだ」
神様は『コホン』と咳ではなく口で言ってから話を進める。
『その魔物の名前はド○ファンゴじゃなくてキングボアって言って、これから悠紀君にはそれと戦ってもらいます!』
「いきなりだな。何でだ?」
『まずは体を慣らすのが目的。今まで抑えてた力をそっちの世界では使うことになるからね。その状態に慣れないと』
「なるほどな」
つまりチュートリアル後、アイテムを貰って次は戦闘訓練フェーズってことか。
「でも俺素手で戦うのか?」
『渡した袋の中に剣が入ってるよ。素手か剣を使うかは悠紀君が決めて良いからね』
「じゃあ、試しに最初は剣を使ってみるか」
貰った袋(まるでサンタの袋みたい)の中を漁ると、確かに鞘に入った一振りの剣があった。
それを手に取り鞘から抜いてみる。
「(シャラン)おぉ~。・・・凄いな」
『悠紀君も男の子だね~(ニヤニヤ)』
「否定はしない!」
初めて手にする真剣に見入っていると、神様にからかわれた。
ちょっと照れるが、でも男だったらこれは仕方がないことだと思うんだ。
ブンッ!ブンッ!ブンッ!
試しに少し剣を振ってみる。
「・・・何だか軽いな。剣ってこんなもんなのかな」
『それは悠紀君の魔力のせいだよ。さっき言ったと思うけど、ここだと本来の力が出るからね』
「へぇ。じゃあこっちの世界の人はみんなそうなのか」
『いや~。それがそうでもないんだよね』
「そうなのか?」
神様が言うのは、この世界においても俺の力は異常らしい。
なんでも魔力がない地球では魔力の回復が出来ないので、俺の体は知らないうちに体内の魔力を増幅、生成出来るようになっていたのだそうだ。
そして、ごく稀に俺は魔力を使う(子供を助けた時のような)ので無くなった分を補おうとさらに体内で魔力を生成する。
つまり筋トレと同じ要領(壊して再生成長=筋肉、使って増幅生成=魔力)でどんどん俺の魔力は膨大になり、それに伴って力も強くなっていったらしい。
『だから悠紀君はほぼ無尽蔵の魔力を持ってるよ~。よっ! このチート野郎!』
「チート言うな」
でも有って困るでもないし、ここは喜んでおこう。
『さてそれではそろそろ戦闘開始と行きますか!』
「そういえばコイツ全然襲ってこないな。いくらでもチャンスはあっただろうに」
『今回は悠紀君の訓練も兼ねてるからね。特別にそっちの神様にお願いしておいたんだ。訓練開始までは攻撃しないようにって』
「そうだったのか。色々サンキューな」
俺は軽く準備運動して剣を構える。
ちゃんとした構えなんか知らないから、剣道みたいに構えてみた。
『準備はいい?』
「あぁ」
『―――ちなみにこの訓練で死んじゃう可能性もあるからね。―――本気でやらないとダメだよ』
「・・・わかった」
真剣な声で神様が言ったことを噛み締める。
これから命を取り合うというのに、不思議と心が乱れると言ったことは起きなかった。
こっちの世界に来てから心とか考え方とか、その辺りも魔力で変化したのかな。
『じゃあ―――――戦闘開始!』
「BWOOOO!」
合図が出た途端にキングボアは俺に向かって突進してきた。
俺は回避するために右にステップした。
「よっと」
「BOO?」
キングボアからしたら俺が突然消えたかのように見えただろう。
「遅いな! 踏切内で転んだお婆さんを、特急列車から助けた時の方がヒヤッとしたぜ!」
剣を上段に振り上げ勢いよくキングボアの脇腹目掛けて振り下ろした。
「せいやっ!」
「GOOO!?」
若干の抵抗を感じたが、そのままの勢いで振り抜いた。
見事キングボアの脇腹にはパクッと一筋の切り傷が付き、血が溢れ出てきた。
「WOOOOO!」
「まだまだっ」
次に四本ある牙に向けて剣を振るう―――――が。
パキィィィンッ!
「げ!? 折れた!?」
当て方が悪かったのか牙が硬すぎたのか、剣は真っ二つに折れてしまった。
キングボアはその隙を見逃さず、牙を振り回してきた。
ステップして躱すが、当たったら相当な威力だろう。
振り回す牙が森の木々に当たる度に、その木は轟音と共に折れていく。
「剣がダメなら今度は素手だ!」
「BWOOOO!」
後方へジャンプし距離を取ると、キングボアは懲りずにまた突進してきた。
今度は左にステップする。
さっきので学習したのか、自分から見て左側、俺から見て右に勢いよく牙を振るった。
けれどそこの俺は当然いない。
「残念だったな。俺は反対側にいるんだ、よっ!」
「VWOO!?」
腕を振りかぶり、全力で今度は反対側の脇腹を狙ってパンチを繰り出す。
「くらえぇぇ!」
「―――!?」
俺が放ったパンチはキングボアを殴りつけるどころか、『ボッ!』と貫通してそのまま吹き飛ばしてしまった。
「うえぇ、手が血だらけだ」
随分とグロテスクな事になってしまった。
飛ばされたキングボアは既に息絶えており、切った跡と殴って出来た穴から血や臓物を垂れ流している。
『お疲れ様。たった二撃で倒すなんて凄いね!』
「あぁ、ありがとう」
お礼を言いつつ袋の中にあったタオルで手に着いた血を拭き取る。
「あ。そういえば剣が折れちゃったんだけど」
『そういえばそうだね。どうする? 新しく出してあげようか』
「出せるのか?」
『出せるよ~。でも一本だけね。折れちゃうくらい脆い剣を渡しちゃったお詫びって事で』
・・・・・・じゃあアレしかないな。
「それじゃあ神様、日本刀を出してくれるか?」
『はいよ~了解~』
次の瞬間空中に刀が現れ、俺は手にとって鞘から抜いてみた。
「おー! やっぱり日本刀かっけー!」
『男の子だね~』
「それさっきやったぞ」
『あははっ! ちなみに銘は烈光丸だよ! 僕が名付けた!』
「烈光丸か。いいね」
『でしょ!』
~~~~~
しばらく神様と他愛もない話しをしていたが、そろそろ時間だそうだ。
『じゃあそろそろお別れだね。僕の地球のために転移してくれてありがとな』
「礼なんかいいさ。俺は何だかこっちの世界の方が合ってるみたいだしな」
『そっか・・・でも、このお礼は素直に受けて貰いたい、かな』
「・・・あぁ」
神様には俺も感謝している。
この世界なら、俺はありのままの俺でいられるだろうから。
『よし! シリアスなのはここまで! さらばだ! 悠紀君、君の今後に幸多からんことを!』
「おう! じゃあな神様!」
最後はテンションが高い神様らしく終わった。
「・・・さて、とりあえずこの森を出よ、うおっ!?」
いきなりで申し訳ないですが。
俺は全裸になりました。
「なんだ!? いったい何が―――あ」
そういえば『地球の物は持って行けなくて、着てる服も後で消える』って神様言ってたな。
「でもこんな唐突じゃなくても良いだろ。ったくもー」
誰もいない森の中で良かった。
もし誰かに見られでもしたら間違いなく『変態』のレッテルを貼られるだろう。
「確か袋の中に服があるって言ってたよな―――」
「―――(ガサガサ)ふう。ようやく抜けられたわ~」
「・・・・・・(絶句)」
突然近くの草むらから音がしたかと思ったら、そこから女の子が出てきた。
「この辺だったわよね。異常な魔力を感じ、た、の・・・は――――――」
「・・・・・・(裸の俺)」
「・・・・・・(女の子)」
「・・・」
「きっ・・・」
辺りを静けさが覆う。
だがそれもすぐに破られることになった。
「キャアァァァァァァ! へ、変態ーーーー!」
「ご、誤解だあぁぁぁぁぁぁ!」
―――異世界人とのファーストコンタクトは最悪の状況でした。
こんなんでやっていけるのか俺。
~次回~
異世界人とのコミュニケーション
誤字脱字指摘、評価、感想お待ちしています。
最後までお読み頂きありがとうございました。
次話は29日の0時(28日の24時)に予約投稿します。
※誤字訂正8/28