注意していても奴等はやってくる
簡単な世界情勢説明回です。
「ユーキ、おはよう」
「おはようございます、ユーキさん」
「二人ともおはよう」
遺跡から帰ってきた翌朝。
ちょうど朝食を食べ終わったところにフェルとマギーが揃ってやって来た。
「・・・マギーはやっぱりその服なんだね」
「えぇ、私はこれが気に入っていますから」
そう言って笑うマギーの服は、相変わらず随分と肌色が多めです。
でも、そんな格好をしてたら男達にちょっかいを出されそうだな。
「男達がちょっかい出して来ちゃうぞ」
「はぁ。昨日のうちに、もう出されたわよ」
「え?」
フェルが言うには、あの別れた後に酔っ払い数人に絡まれたらしい。
だが、マギーの体に触れようとした途端、男は吹っ飛んだそうだ。
・・・・・・。
「その人は無事だった?」
「えぇ・・・多分二、三日は寝たきりでしょうけど」
「ユーキさんの物である、私の体に触れようとしたのだから当然の報いよ」
どこか誇らしげに胸を張るマギーを、俺とフェルはもう諦めたという目で見ていた。
「ところで、今日はどうするの? また依頼でも受けましょうか?」
「それなんだけど。俺はこの世界のことを知らなすぎると気付いたんだ。だから、一般常識というか、そういう事を教えてもらいたいんだ」
昨日初めてこの世界の名前が『ファンタピア』だと知ったばかりだ。
この世界で生きていくのなら、もっと知らなければなるまい。
「そうね。私が教えても良いけど、せっかくなら神父様に教えてもらえば?」
「神父? 神父ってあの教会の神父だよな?」
「そうよ。モリア神父って街の人からは呼ばれてるわ。街の学舎で教壇に立ったりしてるから、人に教えるのは上手いはずよ」
「今の神父はそんなことまでしてるのね。200年前は金儲けを考えている輩しかいなかったわ」
マギーの過去話はともかく、学舎――つまり塾とか学校のことだろう。
そこで教師をしているなら打って付けかもしれないな。
「じゃあ、俺はそのモリア神父に会いに行ってくるよ。二人はどうする」
「う~ん、どうしようかな」
「私はギルドで登録してこようかと」
「あ、じゃあ私が付いていくわ」
「お願いするわ、フェル」
これで今日の三人の予定は決まった。
俺はフェルに教会の場所を教えてもらい、身だしなみを整えてから向かった。
~~~~~
「おはようございま~す」
俺は扉を開けつつ中に向けて挨拶する。
道に迷うこともなく、俺は協会へと着いた。
想像していた白くてこぢんまりした建物を想像していたが、実物は大きい建物であった。
が、イメージしていた『鐘楼』と『屋根の上の十字架』があったのでちょっと安心した。
「すみませ~ん」
「はい、少々お待ちを」
もう一度声を掛けると、奥の通路から男の声が聞こえてきた。
「いや、お待たせした申し訳ない。私はこのグインタビューで神父をしております、モリアと言います。以後お見知りおきを」
「ご丁寧にありがとうございます。私は本郷悠紀と申します。冒険者です」
「ホンゴーユーキ殿ですか。随分と長くて珍しい名前ですね」
「あ、ユーキが名前です。本郷は名字なんで」
モリア神父は『名字?』と首を傾げていた。
「名字というのは、そうですね・・・家名と言えば分かりますかね?」
「ほほぅ。家名をお持ちという事は、ユーキ殿は貴族様でいらっしゃるのでしょうか?」
「いえ? 違いますが・・・家名を持っていると貴族になるんですか?」
モリアさんが言うには、家名は貴族が持つ物で間違いないらしい。
逆に平民は名前のみだ。
ただ例外的に、没落貴族やお家取り潰しとなった元貴族とでも言う人達は家名を持っている場合があるのだそうだ。
これは一般知識で、小さな子供でも知っていることだそうだ。
「・・・もしかして、ユーキ殿は『あの噂』の方でしょうかな?」
「噂って、もしかして『違う世界からやって来た』というのですか?」
「そうそう、それです。半信半疑でしたが、どうやら本当のようですね」
「えぇ、まぁ」
オリオさんとニック爺が話した内容は、以外と広まっているみたいだな。
「それでですね。今日はモリア神父にお願いしたいことがありまして」
「お願いですか。どういったものでしょうか?」
俺はモリア神父に話した。
この世界のことや一般知識などを、この世界で生きていくために教えて欲しいと。
「そういうことなら構いませんよ。ちょうど礼拝の時間も大分先ですから、今からでも始められますがどうしますか?」
「ぜひお願いします」
ということで、とんとん拍子に俺の個人学習が始まった。
◇◇◇◇◇
この世界の名前は『ファンタピア』。
世界の創造主たる神が名付けたらしい。
今この世界には一つの大陸に五つの国と、一つの島国が存在している。
一つはこのグインタビューがある『セフィニア公国』。
一つは唯一の島国である『アースト国』。
一つは商業大国の『フェミニオ共和国』
一つは聖騎士の国『ルツィアン王国』
そして、魔術の国『イデリア王国』と武の国『ガルシュバ帝国』である。
『イデリア』『ガルシュバ』は大陸を二分していたが、戦争で両者が疲弊しているところを狙い、複数の国が独立したのだ。
二国は独立した国とも戦い、いくつかは滅ぼすか再び吸収したが、最終的には大幅に勢力を減らすことになった。
そのため今も国は存在しているが、力は昔ほどは無いとのことだ。
ただこの二国に限り、たびたび小規模な激突がまだ起きているらしい。
ちなみに各国の位置関係だが、大陸は大雑把に言うとオーストラリアを縦にしたような形で『北東がイデリア』『東がガルシュバ』『南東がルツィアン』『西南がセフィニア』『西がフェミニオ』『北西が海でアースト』となる。
六角形を思い浮かべて貰うといいかもしれない。
次に、この世界には複数の種族が生活している。
数が多い順に『人族』『獣人族』『エルフ族』『ドワーフ族』『竜人族』『妖精族』だ。
現在の各国のトップは全て人族である。
どこの国が、どの種族の国という枠は無く、妖精族を除いた全ての種族が入り乱れて生活している。
妖精族はちょっと特殊で、国を持たず、不可視になって様々な場所にいるらしいが、はっきりした事は分かっていない。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・。
◇◇◇◇◇
「やぁやぁ、いつの間にかもう礼拝の時間だ」
モリア神父に教えてもらっているうちに大分時間が経っていたようだ。
太陽が真上に昇っていた。
「申し訳ありません。ユーキ殿、今日はこのくらいで」
「いえいえ。こちらこそ、お忙しい中お時間頂きありがとうございました」
俺とモリア神父は思わず『日本人かよ』と思ってしまうくらい丁寧に頭を下げ、挨拶してから別れた。
今日一日で大分学ぶことが出来たと思う。
「さてと、お昼時だし何か食べるか」
俺はとりあえず宿の食堂へ向かった。
もしかしたらフェルとマギーもいるかもしれないしね。
「こんにちは~」
「は~い」
食堂にやってくると、フェルの従姉妹のミィルさんが対応に出てきた。
「あらお帰りなさい。フェルとあの色っぽいエルフの人は一緒じゃないの?」
「今日は俺一人だけ別行動でして。あとエルフの女性はマギーです」
「そう、マギーさんって言うの。・・・・・・で? ユーキ君の『コレ』なの?」
ミィルさんは小指を立てて目を輝かせている。
どこの世界も女の人はこういう話題が好きなんだな~。
「違いますよ。ただ今日ギルドに登録に行ってるから、多分これから一緒に行動するとは思いますが」
「ふ~ん。パーティメンバーってこと?」
「多分そうなりますね」
ミィルさんは『本当に~? それだけ~?』と疑っている。
・・・・・・これは、マギーの指輪を見られたら大変だな。
ミィルさんに見られる前に何とかしないと。
「それよりも、昼食お願いしても良いですか? もうぺこぺこで」
「ふふ、は~い。ただいま~」
ミィルさんは厨房の方へ行き、お盆に出来たばかりの料理をのせている。
今日も美味しそうだ。
~~~~~
「遅いな」
昼食も食べ終わり、二人を待っているのだがいっこうに帰ってこない。
「何かあったのかな?」
もしかしてマギーが何かやらかしたんじゃ・・・。
「ギルドに行ってみよう」
俺はガンスの時のような荒事も想定して、刀だけ持ちギルドへと向かった。
そして、ギルドの扉を潜って最初に聞こえたのは怒鳴り声だった。
『ちょっと! 離してよっ!』
聞き慣れた声がする。
声がした方を見ると、受付カウンター付近で揃いの鎧を着た男五人に囲まれ、一人だけ違う格好の男に腕をつかみ取られているフェルの姿と、警戒態勢を取るマギーの姿が見えた。
「これは、どういう状況だ?」
とりあえず、フェル達は嫌がっているようだが、男達はそれを無視しているのだけははっきり分かる。
とにかく二人のところへ行きますか。
俺はフェル達の方へと近づいていく。
――――この行動が後に大きな波を引き起こすことにまだ俺は気付いていない。
その波は、俺を冒険者らしい道へと導く。
最後までお読み頂きありがとうございます。
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主人公がようやくファンタピアについて詳しく知りました。
そして、話しは第二段階?へ・・・
次回は、まだ日常編が続くかな?
※誤字修正9/7




