危険の後には注意が必要
トール&マギー回。
盗賊との戦闘以外、魔物も出てこないまま街に到着した。
既に日が傾き、オレンジ色に街が染まっている。
「―――ん? あっ! フェルさ~ん!」
出る時はニック爺が立っていたが、今度はトールが門番として立っていた。
俺たちの姿を見つけると、『お~い』と手を振ってくる。
「なにかしら? あなたの名前を呼んでるみたいよ?」
「自警団の知り合いよ。見知った顔だから挨拶してるんでしょ」
「・・・」
哀れトール。
お前の気持ちはかけらもフェルに伝わってないぞ。
ニコニコしながら手を振っていたトールだが、俺たちが近づくにつれて振るスピードが落ちていき、最後にはダランと下がってしまった。
顔も笑顔だったのが、今は・・・あれだムンク作の『叫び』みたいな顔をしている。
「なにか面白い顔をしているわね」
「どうしたのかしら?」
不思議がっている二人。
だが、俺は理由を何となく知っている。
ドドドドドッ!
門から駆け寄ってくるトール。
「走ってきたわね」
ドドドドドッ!
全力疾走のトール。
「真っ直ぐこっちに来るわ」
ズザザァッ。
俺たちの前で足を滑らせながら急停止するトール。
「ちょ、ちょっと! な、なんで、う、腕なんか、組んでるんですか!?」
はい。
俺の両腕には前と同じく、右腕にフェルが抱きつき、左腕にマギーがしな垂れかかっている。
―――だからマギー、密着しすぎだってば。
「トール。これには深~い訳が――」
「それは私がユーキさんのパートナーだからよ」
『『『えぇ!?』』』
見事にマギーを除く三人の声がシンクロしました。
「これがその証、ふふ」
「それ魔力を込めた指輪だから! 別に婚約指輪とかじゃないから!」
「でも、左手の薬指にはめる時何も言わなかったわよね」
「この世界でもその指は特別なんですね!?」
ちょいちょい地球の文化が混ざってるな。
偶然か?
「マギー! 出鱈目言うんじゃないわよ!」
「あら? 羨ましいの? だったらあなたもユーキさんから貰うと良いわ」
『『『なっ!?』』』
シンクロパートツー。
「ダ、ダメです! フェルさんには自分がっ」
「へ? トール?」
「はうわっ!?」
つい口走ってしまった言葉にトールは真っ赤になり、フェルはトールの方をただただ見ているだけだった。
「えぇと! その! ですから―――」
しどろもどろになるトール。
その目にはうっすらと涙が貯まっているようだ。
「―――もう、トールったら。マギーの悪ふざけに乗り過ぎよ」
「ですから――――――はい?」
「まったく。悪乗りした後に困っちゃうくらいなら、最初からやらなければいいのに」
「え? え?」
「私なんかじゃなくて、ちゃんと好きな人にそういうことは言いなさいよ。私なんかに言うなんて―――ありえないわよね」
「 」
おぉう。
フェルさん、そこまで言いますか。
トールのやつ真っ白に燃え尽きちゃってるぞ。
「そうだトール。ふざけてないでオリオさんかニック爺を呼んでくれない? ちょっと用事があるのよ」
「ハイ。ワカリマシタ。フェルサン」
トールはそのまま回れ右して、門近くにある自警団宿舎に入っていった。
その背中はまるで疲れ切ったサラリーマンのようだった。
「・・・・・・ねぇユーキさん。彼ってフェルのこと」
「マギー。世の中にはそっとしておいた方がいいことがたくさんあるんだよ」
「・・・そうね」
「何の話よ」
俺とマギーはもう見えないが、トールの背中を思い浮かべて祈りを捧げる。
『ドンマイ』と。
「ねぇ、仲間外れにしないでよ」
抱きついたままだった腕を揺さぶるフェルだった。
~~~~~
「はぁ~。異世界人の次は古代人ってか」
結局、ニック爺は団員の訓練指導で都合が付かず、街の巡回をしていたオリオさんと連絡を付けて貰った。
トールはオリオさんの代理で巡回に行った。
その時に『トールのやつ、何か生気が感じられないんだが』とオリオさんに言われたが、『そっとしてやって下さい』と言うと『何か分からんが、そうした方が良さそうだな』と言って追求はしてこなかった。
それよりも今は目の前の問題である。
「古代人は無いのではないかしら。たかが200年前よ」
「いやいや。アンタみたいなエルフとか、ドワーフとかの長寿な種族ならそうかもしれんがな」
そう、先ほど分かったのだがマギーは『エルフ』だった。
長い髪に隠れていて気が付かなかったのだが、ちゃんと長く尖った耳もあった。
「お前さんもつくづく厄介事に巻き込まれるな。・・・いや、お前さんが厄介事を招いているのか?」
「そんなつもりはこれっぽっちもないんですがね」
オリオさんの言葉に苦笑いを返す。
「そういえばフェルはまだですかね? お金がたりなかったかな?」
「そんなこたぁねぇだろ。女物の服は確かに俺等男よりは値が張るがよ」
フェルは今この場にはいない。
いったん宿舎に入り、オリオさんが来る前に『マギーの服を買ってくる』と言って街へ繰り出した。
俺も早急に服を着せたかったので『今回の報酬、俺はいらないからその分で買ってきてくれ』と言ってフェルの背中を押した。
フェルは今頃ギルドで報酬を受け取って、その報酬で買い物中だろう。
早く帰ってきてくれ、フェル。
本当に切実なんです。
マギーさん半端ないんです。
「ちょっと熱いわね(胸元パタパタ)」
「そうかな? 俺はそうでもないけど」
「そう? 私だけかしら?(裾バサバサ)」
「・・・はしたないぞ、マギー」
「ん? 何の事かしら(谷間チラ、太ももチラ)」
「お前ら・・・一人もんの俺への当てつけか? あぁ~ん」
マギーの『対男用女性専用兵器』のせいで、オリオさんが物凄くドスの効いた声を出し、俺のことを斜め下から睨んでくる。
俺のせいじゃないよ。
「お待たせ~って、なに? どうしたのオリオさん?」
『『フェル! 早く服を渡してやれ!』』
「え、う、うん?」
フェルは頭に?を浮かべながらマギーを伴って別室へと移動する。
「さてと、本題だが」
「はい」
「遺跡の未確認区域があって、人工魔物がいたってことだが」
「えぇ、それは」
・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・。
・・・・・・。
~~~~~
「そうか、そんなことが」
「えぇ。最後に盗賊まで現れて、本当に色々あった一日でしたよ」
掻い摘んで話したにも関わらず、窓の外はもう薄暗くなってきている。
オレンジ色の割合も減った街は、もうすぐ月あかりが照らし出すことだろう。
「大変だったな・・・・・・ところで、あいつら遅くねぇか」
「そういえばそうですね」
あれかな。
女性の買い物と身支度には、男の想像以上に時間が掛かるというやつ。
「―――おまたせしました」
「マギー、随分と時間、が、かか、った・・・ね」
「ほほぅ」
「私はそんな格好はやめなさいって言ったのよ。」
俺はマギーの格好を見て思考が停止してしまった。
一言で言えば、マギーの格好は『遊女』のそれだった。
遊女で分からなければ『花魁』と言えば分かるだろうか?
着物ような服を着崩していて、お腹と腰辺りを何本かのベルトで止めているだけで、例の兵器が零れてしまいそうだったり、見えてしまいそうだったりする。
ローブを着ていた時よりも、肌色多めになってしまっている。
「マギー・・・その格好は?」
「とても開放感があって良いんですよ」
「いや、いくら何でもそれはありすぎよ」
「ユーキさんはこの格好がお嫌いですか?」
「へ? いや・・・はっ!?」
「ユーウーキー?」
始まってしまった三人のごたごたに、一人蚊帳の外のオリオはどこか遠い目をしていた。
「あー、もういいわお前ら。その女もいいよ。街入っちゃって。俺はこれから一杯引っかけてくるからよ」
そうオリオは言ったが三人は気が付かずギャーギャー騒いでいた。
俺たちが気付いた時にはオリオはいなくなっていて、ただ机の上に『マギーの街への出入りを許可する』と書かれた木版が置かれていた。
「じゃあ、もう遅いし今日は解散にしよう」
「そうね。また明日集まりましょう。また私が安らぎの宿に行くから」
「わかった。じゃあまた明日」
人影は二人と一人の二つに分かれた。
フェルが一人、俺とマギーが二人の方の陰だ。
この後、マギーが俺の部屋に泊まると言いだし、俺は違う部屋を取れと言い、フェルは私の家に来なさいと言い、道端でまた騒ぐことになったのだった。
結局フェルの剣幕にマギーが抑えられる形で、マギーのフェル宅お泊まりが決定した。
『どうして部屋を借りるのじゃダメだったんだ? フェル』
『マギーのことだから、絶対ユーキの部屋に忍び込んでくるわよ』
『チッ(ボソ)』
・・・・・・フェル。
ホントグッジョブ。
そしてマギー。
もう最初の頃のあなたはいないんですね。
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トールの恋路は険しいどころの話しではない!
負けるなトール!
次回はこの世界についてお勉強などなど




