異世界へ転移する
王道ファンタジーに挑戦してみました。
つたない文章かと思いますが、ぜひ最後までおつきあい下さい。
俺は今、久々に全力でダッシュしている。
別に陸上競技をしているわけではない。
服は私服だし、ここは街中だ。
なぜダッシュしているのかというと、簡単に言えば子供が車に轢かれそうになっているからだ。
―――時間はちょっと遡る―――
俺、本郷悠紀が横断歩道で信号待ちをしていると、向かいに散歩中?の幼稚園児集団がいた。
引率の女性(先生だろう)が『信号が青になってから渡りましょう』と言っている様子が見て取れた。
そうこうしているうちに歩行者用信号が青になった。
「・・・ん?」
すると、信号が赤になったにも関わらずスピードを上げて駆け抜けようとする一台の車がいた。
「危ないなぁ。赤なんだから諦めろよ」
信号待ちしていた人達は皆一様にそう思いながら、車が通りすぎるのを待つ。
だが――――――。
「ダメよ! 戻ってらっしゃい!」
大きな女性の声が聞こえ視線を向けると、幼稚園児の男の子が横断歩道の中程まで来ていた。
きっと青になったら渡るという言いつけ通りに、信号が青になったのを見て渡ったのだろう。
だがそこは一台の車が猛スピードで通る場所で・・・・・・。
「くっ!」
気が付いたら俺は駆け出していた。
通常の人間が出せる駆け足の速さを軽く越えた速度を出して。
男の子は迫り来る車に気が付いたようだが、固まったようにその場を動けずにいた。
車の運転手も男の子に気が付いて急ブレーキを踏むが、明らかにスピードが出すぎていたし距離も近すぎた。
誰もが『もうダメだ』と思い目を逸らす中、俺はあり得ない速度で男の子の元に着いた。
直ぐさま男の子を抱き上げようとしたが、車はもう目の前だった。
「せいっ!」
抱き上げて脱出するのが無理だと感じた瞬間、俺は男の子を突き飛ばすことにした。
その時に男の子が壊れてしまわないように手加減することも忘れない。
突き飛ばし俺だけが横断歩道に取り残されたところで『ドンッ』という音が響き、俺は横合いからの衝撃で飛ばされた。
だがぶつかった瞬間俺には分かった。
このくらいの衝撃なら最悪でも骨にヒビくらいで済むな、と。
飛ばされ、さらに道路を転がり暫くして止まった。
「きゃー!?」「事故だぞ!」「誰か救急車呼んで!」「うわぁぁん」「おい君! 大丈夫か!?」などなど、悲鳴や泣き声、俺の安否を確認する声などが聞こえる。
「(大丈夫です・・・あれ?)」
声を出そうとしたのだがなぜか口から声が出なかった。
それどころか、立ち上がろうにも体に力が入らず指一本動かすことが出来ない。
「(どうなってるんだ?)」
『お答えしよう!』
「(うお!?)」
頭の中の独白に突然誰かが割り込んできた。
『確かに悠紀君の体は無傷だが、僕が仮死状態にしたので声を出すことも、体を動かすことも出来ないのだ!』
「(へぇー、・・・というかどちら様?)」
『おっといけない、忘れていたよ。僕は地球を見守る神様さ。悠紀君が命に関わる出来事に遭遇するのをずっと待ち焦がれていたよ!』
やけにテンションが高い声がそういった。
中性的な声色で男か女か分からないが。
「(神様? なんで神様が? それに俺の命に関わるうんたらかんたらって)」
『それには深ーーい事情があるんだよ。長い話になるから場所を変えようか』
次の瞬間、俺は野点の席に立っていた。
「ここは? ―――あれ、体が動くぞ」
「あーその体は現実の体じゃないよ。ここは精神のみが存在出来る空間だからね。その体は君がイメージした物を元に僕が再現したにすぎないよ」
声の主は小柄な女の子だった。
しかも一人称が『僕』の『僕っ娘』だ。
『僕っ娘』だった!
・・・・・・二度もごめんなさい。
「さて、僕の一人称が『僕』で『僕っ娘』なのは放っておいて」
「心が読まれてる!?」
「そりゃ僕は神様だからね! えっへん」
「神様凄いな」
もう疑う余地もなくこの子は神様だろう。
心が読めるし、この変な空間に呼ばれたし。
「さてと。本題に移るけどいいかい?」
「あ、はい」
いちおう敬語を使ったりしておく。
「別に普通に喋ってくれて良いよ~」
「あ、はい」
「・・・・・・・・・」
「・・・わかった」
「よろしい!」
神様はコホンと言って(咳をしたのではなく口で言った)から話し始める。
「まず、君は自分の体が他の人と違うよね」
「・・・あぁ。神様は何でもお見通しだな」
さっき横断歩道でダッシュしたように、俺は異常なまでに力が強い。
本気を出せば100mを2秒掛からず走れるし、アスファルトの地面を殴れば陥没する。
小さい頃からこの力は出せ、自分でも異常だと分かっていた。
だからさっきみたいな緊急時以外は使わないように日々生活している。
「実はその体はね、本当は違う世界の人の物なんだよ。それがあっちの世界の神様のミスで、この世界の地球で生まれちゃったんだ」
「―――は?」
「さらにそれが原因でこの世界に歪みが生まれちゃったから、君をなんとかしないと世界が崩壊しちゃうかもしれないんだよ」
「・・・パードゥン?」
「だ~か~ら~」
~10分後~
「と言う訳なんだ。ドゥーユーアンダスタン?」
「イ、イエース」
思わず返事してしまった。
神様のいう事にはつまりこうだ。
この体は本来違う世界の住人として生まれる人の物だった。
その世界はゲームみたいに魔法やら魔物やらが存在する世界で、その世界の人用の体だから魔力が備わっている。
この世界では魔法は使えないから体内の魔力は放出されず、代わりに身体強化に回されているため異常な力が出るようになった。
本来存在しない人間がいるせいでこの世界が崩壊するかもしれない。
防ぐ方法は俺がこの世界からいなくなること、つまり『死ぬ』こと。
「・・・・・・・・・・・・」
あまりのことに言葉が出ない。
自分が死ぬしかないなんて。
「・・・なぁ神様」
「ん? なんだい」
「俺が死ななくて、それでも世界が崩壊しなくなる方法ってないのか」
「あるよ」
「あるんかい!」
さっきまでのちょっとシリアスな空気は何だったんだ!
「死ななくても良い方法は、悠紀君があっちの世界に転移することだよ」
「転移?」
「そう。それなら死ななくて良いし。第一! 僕はその転移することを提案するためにこの空間に悠紀君を呼んだんだよ!」
「今初めて聞いたが?」
「あれ? さっきの説明で言わなかったっけ」
「聞いてないぞ」
「・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・どんまい!」
「なにがだ!」
~閑話休題~
「さて、それじゃあ悠紀君。どうする?」
「ちなみに転移しないって言ったらどうなるんだ」
「その場合はあの事故では死なないけど、今後さらに酷い目に遭う。それでも死ななかったら更に酷い目にって永遠に続くよ」
うわぁ・・・。
あんまり想像したくない未来だな。
「転移した場合この世界での扱いはどうなるんだ? 失踪、行方不明ってことになるのか?」
「その場合はそもそもこの世界に存在しなかったことになるよ」
ふむ。
その方が断然良いな。
「よし。じゃあ俺は違う世界に転移する」
「ずいぶんあっさり決めるね。まぁこっちとしては都合が良いけどね」
「まぁこっちの世界にいても良いこと無いからな。親も俺のこと気味悪がってるし、友達も作らないようにしてたからな」
「・・・ぼっち?」
「ちがうよ! 俺の力のせいで何かあったら大変だから俺が遠ざけてたんだよ!」
「冗談だよ、冗談」
昔からの知り合いみたいなやりとりをしている。
目の前の女の子が神様だって忘れてしまいそうだ。
「じゃあすぐに転移させちゃうね」
「え、もうか。いろいろ準備したいんだが」
「あーごめん。こっちの世界の物はあっちの世界に持っていけないんだ。だから今着てる服もあっちには持って行けないんだ」
「俺に素っ裸で行けと!?」
「大丈夫だよ! 服は転移してから少しして消えるようにしてもらったから。それでもってこれ! 転移用にあっちの神様からいろいろもらっておいたから」
そういうと何もない空間から荷物が出てきた。
神様のすることだからということで納得しておく。
「はいこれ。着替えとかあっちの世界のお金とかいろいろあるから。あれだよ、ゲームのチュートリアル後にもらえるアイテムみたいな物だよ!」
大きな袋に入ったそれらを両手で受け取る。
「それでは。一名様ごあんな~い」
「へ?」
神様のその台詞を最後に俺の意識は暗闇に落ちた。
「(前振りも何もなしかよぉぉぉぉぉ!?)」
こうして俺、本郷悠紀は異世界へと旅だった。
果たして俺は異世界でやっていけるのだろうか?
~次回~
転移した悠紀は魔物に襲われる。そして第一異世界人とのファーストコンタクト。
誤字脱字指摘、評価、感想、お待ちしています。
次話もよろしくお願いします。
※誤字修正しました8/28