邂逅と希望
夢を見ている。
何故そう言えるのかと言われればそうだな、7、8回も同じ夢を見れば誰だってわかるとしか言えない。
俺は暗い闇の中で這いつくばっている。頭にはいってくる感覚はとても重々しい。後悔、懺悔…そして聞きあきた爺の一言…
「おまえの力では開けぬ」
何が開けんのか分からないがこんな訳わからん悪夢にうなされる俺はさぞかし前世でとんでもない悪事を働いていたのかもしれないな。と、頭(?)の中で物思いに耽っていると闇の淵でなにもないこの空間から一人の女性が音(?)もなく現れた。
「こんにちは、坊や。」
俺はその女性を観察してみた。身長は俺よりも少し低い位、端整な顔立ちで黒髪黒目のモデルと言われても十分通じるレベルだろう。だが、明らかに普通ではないところがある。目は紫がかった神秘的な雰囲気を感じさせ、黒のゴスロリ服は日本人の風貌をもつ彼女には不可思議な感覚を覚えさせられる。何よりも夢の中にこの女が現れたことはこれまで一度もなかったはず…
「おまえ、誰だ。」
俺は彼女にそう問いかけた。彼女は微笑して答えた。
「やはり私の事も覚えてない、か。やれやれ、この様子だと未だに[力]に気づいてないみたいね」
「[力]?なんのことだ。」「まあ、いいわ。時が来ればわかる事。急ぐ必要はないわね。」
「無視か?お前が何しにここに来たかくらい教えてくれてもいいだろ。」
「ああ、そうね。そろそろ邪魔が入るみたいだし貴方に伝えるわ。」
<運命の序章 廻る時 最愛と観測者が貴方を待つ 運命を歪めし力 逆らえぬ力 汝を縛り 黄昏の館に招かん>
「予言か?俺は無神論者なんだ悪いな。」
「ふふっ。これは予言ではなく予知。貴方が辿る運命なの。」
こいつ何なんだ。さっきから俺の問いには答えないし、意味深な予知(本人が言うにはだが…)を言い出すし…それに最愛?年齢=彼女いない歴の俺への当てつけか?
「そろそろ時間ね。また会える時を楽しみにしているわ、東雲 洸也」
「っ!?おい待て、あんた一体―――」
俺は彼女を止めようするが全身に衝撃が襲い、夢が一気に覚めた。
――黄昏の館――
常に夕暮れ時を見せるとある観測者が造り出した小さな世界の一部、広葉樹の木々に囲まれて大きい屋敷がある以外に特長の無い場所であるがその屋敷から少し離れた場所で少女は日頃から行っている修練に励んでいた。
少女の14、5メートル先には彼女の師が造ったガーゴイルが2体少女の準備を待つかのように待機している。
『霊力の収束を確認、意志の制御も問題なし、と。』
少女が集中すると周りに微かにライトグリーンのもやがかかり、少女の銀髪と白のローブも合わさり幻想的な空気を醸し出している。しかし、周囲の空間は張り付き、重圧が支配しているかのようだ。ガーゴイルたちも臨戦態勢を整えつつ少女の出方を伺っている。
『属性は風、イメージは槍、数は6。』
少女が念じると少女を中心に左右に3対の槍の形をした圧縮された大気が展開した。そして少女は槍を前方のガーゴイルに射出、石を貫く程の勢いで放たれた6つの槍は2体の内右側を集中砲火。2本は両腕でなぎはらい、1本は身をひるがえしてかわすも残りが胴体に着弾、余波で数メートル飛ばされる。
「キイィィ!!」
もう片方のガーゴイルが金切り声をあげつつ少女に接近、石の爪をその小柄な体に向けて放つ。が…
「ハァッ!!」
すでに来ることを予測していた少女は右手を纏う黒いもやを棒状に伸ばし、ガーゴイルを迎え撃つ。石の爪ごとガーゴイルの胴を切断。いや、正確には黒いもやが触れた瞬間に消失した。ガーゴイルは切断されつつも翼を羽ばたかせ空へ逃げる。どうやら弱点は切れなかったらしい。見ると先程飛ばされたガーゴイルも貫通した槍によって木に張り付けられいるが引き抜こうともがいている最中のようだ。
「成る程、今回は[頭]か。師匠らしい。」
そう言うと少女は磔のガーゴイルの頭部に槍を射つ。頭部に着弾した後ガーゴイルは動かなくなり砂に還った。上空に逃げた方にも数発飛ばすが空での機動力を活かしながらかわして再び間合いを詰めてくる。少女は黒いもやをクロスボウに変化させ新たに念じる。ガーゴイルは構わずに少女めがけて突っ込む。
ダァン!!
土埃が舞う中、ガーゴイルは完全に仕留めたと思い勝利を確信した。
ドスッ
勝利の美酒に酔いしれていたのはほんの一瞬だった。少女は気配を消し、土埃に紛れつつガーゴイルの頭部にクロスボウを突きつけ撃ち抜いた。
「終了」
最後に響いたのは少女の無感情な一言であった。
パチパチパチパチ
少女が修練を終えると共に後ろの木陰から黒ゴスロリを着た女性が現れた。
「お帰りなさい、師匠。見ていらしたのですか?」
「ええ、お疲れ様、境華。中々の手際だったわね。」「師匠が誉めるということは何かあったんですか?」「そこは素直に喜びなさい。私が誰かを本当に誉めるなんてあり得ないことなのよ?」
「知ってます。それよりも、私に内緒で何処にいってらしたのです?」
「………ふぅ、さすがに貴方には隠せないわね。」
そう言うと師匠と呼ばれた女性は静かに語る。
「洸也に会って来たの」
「洸也が見つかったのですか!?」
「夢までにしか干渉出来なかったけれど、ね」
「そう…ですか。」
境華は驚いた顏をするも直ぐに落ち着きを取り戻した。
「やっと…会えるのですね。」
「ええ、あの坊やも今はまだ[力]を自覚してないでしょうけどここに来れば記憶とともに目覚めるでしょう。」
「では、私は準備に取りかかります。師匠は―――をお願いします。」
そう言うと境華はまっすぐ屋敷へと足を進めた。
「もう少しで、あの人に会える!」