ももとアヤメ
「…わりぃ、もう俺、付き合ってるやつがいるんだ」
「………そ、そうなんだ…」
彼はもう一度頭を下げた後、静かに私の横を通って自分の教室がある校舎へと歩いて行った。
私は一度も振り向かずただじっと立っていたが、下校のチャイムが鳴ると同時にわんわんと泣いた。
…なんて醜い女だろう。私は。
『えーっ、何それサイッテー!! ももちゃん、それフって正解だったって!』
ケータイの液晶に、アヤメからのメールが映る。
告白したら結果を一番に伝えると言ったのは私だけど、電話じゃ泣いてしまうのでメールで済ます。
『「友達になってください」って言っただけなんでしょ?! それを断るとは、あの薄情者…っ』
『いいの、私はこれで。知らない女の子にいきなり放課後体育館裏に呼び出されて「友達になって」って、もう「付き合って」って言われてるようなもんだよね』
そうだ、彼が悪いんじゃない。私が悪いんだ。
その後も2時間近く、アヤメからは私に対しての慰めと、彼に対しての怒りのメールが続いた。
アヤメは優しくてみんなからもとっても信頼されてる、こんな内気な私のたった一人の友達だ。
……たった一人の友達だ。
「…これでいいのかよ」彼は言った。
「……うん、ありがと。大丈夫よ」私は言った。
「……あいつ、お前のちっせぇころからの親友なんじゃねぇの?」彼はたずねた。
「……じゃ、私と別れてももちゃんと付き合う?」私もたずねた。
「別に、友達になってって言われただけだぜ?」
「………あの子の「友達」は、私一人で十分よ……」
ももちゃんは泣き虫で、だけど私に優しくしてくれる、こんな私のたった一人の親友。
…だれにも渡したくない。
告白の結果報告がメールでよかった。
ももちゃんの泣き声を聞かずに済む。
…ももちゃんは勘のいい子だから、彼が私と付き合ってることなんてお見通しだろう。
ももちゃんに、彼に告白するよう仕向けたのは私だ。彼に、ももちゃんを振るよう仕向けたのも私だ。
早く彼をあきらめてほしかった。
私だけを見ていてほしかった。
私だけを、必要としてほしかった。
私だけを、私だけを、私だけを……
また明日からは、いつもの二人でいられる。
どちらも互いを必要としていられる。
ももにとってもアヤメにとっても、たった一人の親友なのだから。
ももにとってアヤメは大切なたった一人の親友で、それはアヤメも同じです。
アヤメは友達はたくさんいますが、ももほど大切には思っていません。
ももは友達がいないので、アヤメだけを大切にできます。
「自分だけを大切に思われている」っていうのも、アヤメにとって、ももが大切だと思う要因なのかもしれません。