死後
病気の痛みはなく、宙に浮けるようになった。
そんな不可解な出来事の中に一つのリアリティがあった。
喪服姿の知人やお経を詠むお坊さん。そして棺に入っている自分の姿があった。
それを見て初めて私が死んだことを理解した。
夫は泣いてなかった。
私の病気のせいでたくさん迷惑をかけたのだ。きっと夫は私が死んで清々したのだろう。
夫は何があっても涙なんか流したことがない。
泣かれなくて当たり前だ。だけど…それでも……死んだ時ぐらい泣いてほしかった。
悔し涙が溢れ落ちる中、夫は何も言わずに花を手向けた。
何も言ってくれないんだ。そう思った。
夫に続いて知人の一人一人が私に花を手向けては私の近くでさめざめと泣きながら声をかける。
「私もすぐにそっちに行くからね」
「来なくていいよ。長生きしてや」
声が届かないことは頭では分かっている。けれど言わずにはいられない。
全員が花を手向け終わり、霊柩車に私の入った棺が乗せられる。
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自分の体が燃やされた。
痛みはないが、自分だったものが火葬場の火葬炉に入れられる所はなんとも複雑な気分になった。
夫はまだ泣いていない。
結果的に言うと精進落としの場で私の遺言を読み上げた時も泣かなかった。
葬式も終わって、家に着いた時、夫は自分に塩をまいた。この塩は葬式でもらったやつだ。
「痛ッ!」
夫に触れようとした直後だったので、私は夫から拒絶されているんじゃないかと錯覚してしまう。彼が私のことを見えているはずないのに。
けれど、私は真に受けた。
嫌われているのなら夫から離れよう。私が居ても重荷になるだけだから。
夫に背を向け、家から出ていこうとした時、むせび泣く声が聞こえてきた。
思わず振り返った。
夫が泣いている。私が居なくなって一人だけになった家で。
「もっと…長生きしてほしかったのに……何でだよッ! 病気なんかクソくらえ!!」
私のために夫が泣いて怒っている。
この瞬間、私の存在が夫に認められた気がした。
決めた。私は一生、夫を見守り続ける。死んでこちら側に来る日まで。




