6 夕飯前に瞬殺してみた
翌日の夜。エリゴス王国路地裏の飲食店。俺たちは窓際のテーブル席に着席していた。
「なあ? 仕事の話を外でするのはどうかと思うぞ?」
「ご心配なさらず」
ティアは笑顔で周りに手を振る。
「ここは私が贔屓にしているお店。ここの方々が口を割ることはありません。けっ、して」
周りから乾いた笑い。威嚇してるな。余計なことを話せば命はないぞと。ゴリラや。
「ではこちら、アモン様討伐報酬ということで」
ティアが金の入った袋をテーブルに置く。
「いいのか? 殺したのは俺たちじゃないのに」
ティアは影から全てを見ていたと言っていた。今回、俺たちが仕事をしてないのは把握しているはず。
「構いません。今回の不測の事態。それはこちらの調査ミスもありますので」
「迷惑料ってことか?」
「そう捉えて貰えれば」
「ふーん。まあ、依頼人がそういうなら」
俺はそれを手に取り、中身を確認。
「おお、こんなにくれるのか。太っ腹だな」
さすがお姫様。桁違いの財力をお持ちのようで。
「ちょっと、すぐ中身を開けるのは失礼だよ」
俺に注意してくるラスト。目を輝かせながら金を数えている。人のこと言えないだろ。
「ふふっ。これだけあれば、毎日お菓子とか美味しい物が食べ放題だね」
「お前、忘れたのか? この前金が入った時、それで散財したのを」
「こ、今回は気を付けるもん!」
とか言って、何度もうちを財政難に陥らせているくせに。
「次はその倍をお支払いしますね」
これの倍か。それが本当ならしばらく遊んで暮らせるな。なんて、闇の世界の俺たちが金を使う場なんて限られてる。外で遊ぶなんて夢のまた夢だな。
「では、次の話をしてもよろしいでしょうか?」
「ああ。それで? 次の仕事はいつだ?」
「はい。では窓をご覧ください」
「あ」
言われた通り窓に視線。店から少し離れた場所。そこには一人の男が腕を組み佇んでいる。
「あ、あれって勇者パーティーのナベリウスさんだよね!?」
ナベリウス。俺たちの元同僚だ。何でこんなところにいやがる。
「ナベリウス様には今晩、あそこに来るようにお誘いしました。ですので、今からあの方を殺します」
「今!? ずいぶんと急だね!?」
「あのさあ? そういうのは予め言って貰わないと困るぞ?」
早く勇者パーティーを潰したいのはわかる。だが、勝手に動かれるとこちらの段取りが崩れる。
「申し訳ありません。なにぶん、ナベリウス様の説得は先ほど終わったもので」
「はぁ。そういうことなら仕方ねえか」
「お腹すいて力が入らないよー」
俺とラストは、お腹を鳴らしながら席を立つ。
「ん?」
ナベリウスを観察していた俺。ふとある光景が目に入る。それは、奴の元に全身鎧の人物が近づいていた。
「あれ? 誰だろう?」
顔が見えないから正体不明。なにやら話し込んでいるな。見たところ、二人は知り合いだと思われるが。
「なあティア? 呼び出したのは二人か?」
「いえ、ナベリウス様だけです。あの方は知りません」
数秒後。鎧の人物はその場から立ち去る。通りすがりの知り合いだったのだろうか?
「行ったか。よし。他に人が来ると不味いし、早めに行くとするか」
「お二人が行くのですか? 私の加勢は」
「いらね。俺たちだけで充分」
「まあ、流石ルシファー様でございます」
「へーへー」
ティアに軽く手を振った俺たち。渋々店から退出。
「ラスト。魔術のフォローは任せた」
「任された。お腹すいてるから、早めにお願いね?」
「おう」
俺は仮面を装着。ナベリウス目掛け猛ダッシュ。
「なんだ貴様は!?」
こちらの接近に気がついたナベリウス。剣の入った鞘に手をかける。
「それ以上近づくな! 私は勇者パーティーの」
「終わりだ」
ナベリウスが抜刀する直前。奴の首をへし折る。
「がきゃん!?」
「いきなり悪いな。夕飯前で気が立ってるんだ。少々本気でやらせて貰った」
これで勇者の死亡は二人目。残りターゲットは五人だ。かなりハイペースだな。もっと時間がかかるものだと思っていたが。
◇
「ふーう食った食った」
「お腹一杯になったね」
仕事後。何でも屋事務所。俺とラストは食後の休憩中だ。飯がこんなに上手く感じたのは久々だな。
「それでは明日の夜。次の仕事をお願いしますね?」
満腹でソファーに首を預けていたところ、ティアから次なる依頼。
「場所はこの国の広場。ターゲットは勇者パーティーの二名です」
また急だな。昨日今日と、元同僚たちを手にかけることになるとは。人生って急展開でわからんものだな。
「彼らは私の言葉に鼻を伸ばしていました。きっと、何の疑問も抱かずにやって来るでしょう」
おっそろしい女だ。腕力だけが取り柄じゃなく、上手い言い回しで相手を誘惑。敵には回したくねえな。
「ターゲットを発見次第、速やかに戦闘に入ります。準備を」
「うっす」
「わかったよ」
「よろしくお願いします。あ、そうだ。大変失礼なのですが」
ティアが気まずそうに俺たちを見る。
「お二人が勇者パーティーから追放。その時の詳しい話をよく知らないんですよね」
「聞いてないのか? 勇者パーティーの奴らから」
奴らは報告のため、ちょくちょくこの国に帰還。ティアの住む城に行き、俺たちの追放の話をしているはずだ。
「聞いても事務的な回答しか返ってこなかったので」
「「あー」」
あいつららしい。世間体はとことん気にする。都合が悪いことは口を揃えて誤魔化す。変わってねえなあいつら。
「その、差し支えがなければですが。その時の話をしていただけませんか?」
「差し支えがありますねえ。だから話せない」
「な、るほど」
「「……」」
この状況。前にもあったな。気のせい?
「んー、私たちの話を聞いても楽しくないと思うよ?」
ラストが頬に人差し指を当てている。誰だって嫌だろう。過去の下らない話を人様にさらすのは。
「構いません。私、楽しくない話は大好物ですので」
「やんわり断ってるのに、その返しは失礼じゃない!? あと、それ絶対嘘だよね!?」
「ごめんなさい。バレちゃいましたよね? 大好物は嘘で、好物くらいなのが」
「知らないよ!? ティアさんの好きの程度とか!?」
「まあそれは冗談で」
「やっぱり!」
「ダメでしょうか? ビジネスパートナーとして、お二人のご事情を知るのは」
「「……」」
俺とラストは目で合図。こりゃ言っても聞かない。これ以上しつこくされるのは面倒。話してしまった方が楽だ。
「はあ。しょうがねえな。依頼人の小さな頼みを聞くのも仕事の一環か」
「だね。信頼の証として、ティアさんには私たちの過去を知って貰った方がいいよね」
「お話していただけるんですね!」
「おう。言っとくが、つまらないから途中で終わりはなしだぞ?」
「もちろんです。うたた寝ぐらいに留めておきます」
「私たちの決意を枕にしないで!? ちゃんと起きて話を聞いて!?」
「冗談です。ファンとして一言一句、呼吸音から語気まで。聞き逃すつもりはありません」
「気持ち悪いよ……」
「まあまあ。いちいち突っ込んでいたら切りがない。ここは話を進めさせて貰う」
俺は過去の記憶を手繰り寄せる。
「あれはそう一年前、勇者パーティーのリーダーから呼び出されて」




