5 魔物を瞬殺してみた
アモンの部屋に侵入した俺たち。目的は奴の暗殺。そんな俺たちを待っていたのは、アモンの死という不可解な謎だった。
「死因は背中と喉の傷みたいだね」
ラストはアモンの死体をくまなく調べている。
「自殺の線は?」
「ないと思う。凶器が見当たらないし」
「魔術で自殺したとかは?」
「それもないよ。魔術の痕跡がないもん」
となると他殺か。俺たち以外の第三者が先に進入。アモンの命を奪ったと。めんどくせえ。この屋敷に来たのが無駄足になった。
それならば、こちらに一報をいれて殺害を実行してほしかった。
「なんで死んでるのかはわからん。けど、依頼は完了だ。すぐティアに報告を、あん?」
「グルルルル……」
「「!」」
鋭い殺気。この部屋内から。正面には死体だけ。それ以外には見当たらない。となると
「後ろか」
「グオオオオオ!」
即座に振り返る。そこには全長三メートルくらいの獣。涎を滴しながら、床で鋭い爪を研いでいる。
「ルシファーさん! これ、魔物だよ!」
魔物か。確かこの世界に巣食う怪物。正体は魔王の使い魔、異界からの侵略者、人間の成れ果て等と囁かれている。どうでもいいけど。
「なんでこんな場所に魔物が!?」
「さあな。それより」
俺は魔物の爪を見る。そこには血が付着していた。状況から言って、こいつがアモンを殺した可能性が高い。
「ゴギャアアア!」
魔物が口を開け、俺たちに襲いかかってくる。
「ルシファーさん気を付けて! この力、この前のSランク冒険者たちよりも強い」
「え? 強い?」
「ゴギャアアア!?」
俺は魔物を蹴り飛ばす。
「ご、ギャン……」
魔物は壁に激突。小さな呻き声をあげた後、動かなくなる。呼吸が聞こえてこない。絶命したみたいだ。
「え? なんだって?」
「あーいや。無駄な忠告だったね」
ラストは頬をかきながら苦笑い。Sランク冒険者よりも強いとか言ってたか? よくわからんな。
『今の音! なんだ!』
廊下から慌ただしい足音。騒ぎを聞きつけた屋敷の人間の者と思われる。
「あーあ。バレちゃったみたいだね」
「ラスト、防音魔術は張ってなかったのか?」
「張ってたよ。けど、ルシファーさんの力が強すぎて」
「効果なしか」
仕方ない。これはたまにあることだ。ラストが無力とかそういう問題ではない。
「いたぞ! 侵入者だ!」
複数の武装した騎士たち。次々と部屋の中に押し入り、俺たちを囲む。
「アモン様! しかも魔物!? 貴様ら、ここで一体何をしていた!」
「何と言われても。俺たちは、ただ振りかかってきた火の粉を落としただけだ」
「ふざけるな! こんな火事みたいな状況を作っておいて!」
騎士達が鞘から剣を抜き、それをこちらに突き出す。話し合いは無理そうだな。まあ、仮に話ができたとしてだ。俺たちが侵入した件は見逃されない。
「どうするの?」
「そうだな」
できればターゲット以外とは戦いたくない。無駄な殺しで恨みは抱かれたくないから。とはいえ、この状況では話は変わる。
こいつら、俺たちを殺す気だな。長年戦ってきた勘から予想できる。
向こうから殺意を向けられた以上、無抵抗というわけにいかない。対抗しなければ、俺たちに明日はない。
「戦うしかないだろうな」
「だよね」
俺とラストは構えの姿勢。ある程度、数を減らしたら突破する方針だ。加減はする。死んだらすまん。
「とりゃあああ!」
「「「どおおおおお!?」」」
突如として、入り口から掛け声。その直後、騎士の何人かが吹き飛ぶ。
「とお!」
俺たちの前に何かが落下。
「お待たせしました」
それは仮面をつけた正体不明の存在。
「お前は?」
「依頼人兼ファン、と言えばおわかりですか?」
この口調。その名乗り。なるほど。この仮面の人物はティアか。
「ずいぶんタイミング良く来たな」
「影から観察していましたので」
「なら、アモンの件は説明しなくても」
「ええ。後ろから全て見てました」
「話が早くて助かる。それよりなんで出てきた?」
「そうですねぇ。良い修行になりそうだなと」
「「は?」」
ティアは両拳をぶつけ合う。その声音はどこか嬉しそうだ。
「いけませんか? 目的の為に強くなる手段をとることは」
「お前バカだろ。これを修行って」
「いえいえ。人はこういう積み重ねを経て、強くなっていくのです」
「それに自分から突っ込むのは身にならん。無謀ってんだ」
「二人とも呑気に会話しないで!? 敵!
敵が来てるから!」
「「「ウオオオオオオ!」」」
「るせ」
「邪魔です」
「「「ぶほっ!?」」」
俺とティアは周囲の兵士たちを殴り飛ばす。
「あ。手加減しないで殴っちまった」
全ての兵士たちが、ぐったりと床に横たわっている。
「ご心配なく。彼らはアモン様のおこぼれに預かっていた方々。加減する必要はございません」
ティアは倒れていた兵士を持ち上げ
「ふん!」
それを軽々と殴る。おいおい容赦なしかよ。 この国の姫様はどうなってんだよ。Sランク冒険者が霞むレベルで強いぞ。ゴリラかよ。
「この二人、敵を見ないで全滅させちゃったよ……あっ!」
ラストからすっとんきょうな声。
「二人とも、油断しないで! 探知で調べたけど、援軍が向かって来てるよ!」
「まだいるのか」
「この程度の相手では修行になりませんね」
「油断しないでって言ったそばから、やる気を失くさないでよ!?」
「めんどくせえ。もういいか」
俺は部屋の壁に向かう。
「バレてるなら仕方ない。ごり押しで脱出するか」
俺は部屋の壁に拳をぶつける。外に繋がる大きな穴を作った。
「ん?」
同時に屋敷が振動。
「ヤバい。加減をミスったな」
「「ゑ?」」
「多分だけど、もうすぐこの屋敷は崩れる」
感覚でわかる。このままここにいたら録なことにならないと。
「どうするの!? ねえ!?」
「逃げるしかないだろ」
「ルシファー様がそういうなら」
俺とティアは外に向けて足並みを揃える。
「お前ら行くぞ?」
「あの? 私、二人に追い付けるほど足に自信がないんだけど」
ラストが申し訳なさそうに手をあげる。そうだった。彼女はサポート専門。身体能力は並み。一緒に足を並べるほどの力を持っていない。
「しょうがねえな」
俺はラストを抱き抱える。
「えっ」
「しっかり捕まってろ」
「えっ!? キャアアアア!」
俺たちは外へと脱出する。その数秒後、屋敷は激しく崩壊した。




