4 姫の依頼を受けてみた
「では、依頼の話をする前に改めて自己紹介を。私はティア=フィクサー。この国で王女をしております」
ティアがペコリと一礼。
「お久しぶりです。ティア様」
ラストは深々とお辞儀をする。
「勇者ラスト=サタナエル様。お久しぶりですね」
「勇者はお辞めください。私たちはパーティーを追放された身。それを名乗る資格はないので」
「でしたら、私に敬語や様はなしで。気安く話しかけてもらえれば」
「は、はあ。じゃあ、ティアさんで」
「はい。それと」
ティアが俺の方に体を向ける。
「ルシファー様もお元気そうで」
「ああ。しっかし、あんたが俺たちの依頼人だったとはな」
「驚きました?」
「まあ。それより俺たちに関わるのは、これが最初で最後にしておけ」
ここは闇の世界。光の象徴たる姫様が来るとこじゃない。痛い目を見る前に、とっとと立ち去ってもらう。
「ん? 別にお二人との接触は、今回が初めてではありませんよ?」
「「は?」」
「この事務所の隠蔽、情報の遮断、仕事の斡旋」
「おい。まさかそれ全部」
「全てとは言いません。しかし、出来る限りのサポートはしてきました」
「まじかよ」
不自然だとは思っていた。俺たちがこの仕事を初めてはや一年。いくら慎重に動いているとはいえ、周りに気づかれないのは順調すぎだと。
まさか、俺たちの成功にそんなカラクリがあったとは。
「本当は直接サポートしたかったのですが、周りを誤魔化すのに時間を要してしまいました」
「ふーん。で? なんで俺たちのサポートを?」
「私、ルシファー様のファンですので」
「ファン?」
「城で初めてあなた様を見た時から、惚れ込んでしまったのです」
ティアは目を輝かせ、鼻息を荒くする。
初めてというと、俺たちが勇者パーティーだった頃。この国の城に行った時か。確か城の兵士相手に力を出したような。
「よくわからんが、それなら他の奴に執着すればいいだろ? 俺みたいな闇に固執しないで」
「他の方々は語るに値しません。実力、人柄、将来性、内心、過去。全てが腐りきってます」
「そこまで言うか」
「挙げ句の果てには、お二人を追放する始末。正直、彼らに勇者を名乗る資格はないと思っています」
「ずいぶんと口が回るな」
「ええ。私にとっての勇者様は、ここにいるお二人だけですので」
「言いすぎだろ」
「そんなことはないかなー」
「ご謙遜しなくても。お二人が凄いのはよーく知ってますので」
この勢い。嘘を言ってるようには見えないな。
「で? そんな勇者オタクなお前が何の用だ?」
姫様がわざわざ出向いてくるんだ。きっと録な内容でないことは間違いない。
「差し詰め、お茶会の誘いか?」
「いえ。これからお二人には私の依頼、勇者パーティー七人の殺害を受けて貰いたいのです」
「「ぶほっ!?」」
すごいこと言ってきたなこいつ。いくらあいつらが嫌いだからって、殺す騒動まで発展するのかよ。さすがに冗談だよな?
「一年前。お二人が追放されたあと、彼らは悪事に荷担し始めました。例えば、昨日の奴隷売買」
「あいつらが昨日の依頼に関わっていた、ね。証拠は?」
「こちらです」
ティアは資料をテーブルに広げる。そこには、目を覆いたくなる事柄が列挙。どれも死罪に該当するものばかり。
これが勇者パーティーの悪事ね。噂には聞いていた。手段を選ばないやり方を実行していると。実際、仕事の関係で奴らの所業を目にしたことがある。
だから、この証拠は本物だろう。
「彼らは裁かれるべき悪。野放しにしては、世に負をもたらします。ですので、この依頼を」
「ちょっ!? ちょっと待って!?」
勢いよく立ち上がるラスト。
「ティアさんの言ってることはわかったよ?
彼らがあれなのも理解した」
「話が早くて助かります」
「けど、勇者パーティーは世界を救う役目、魔王を倒す使命を持ってるんだよ!?」
魔王ってのは、この世界を支配する闇。勇者と敵対している存在だったな。
「ですね」
「そんな彼らを殺す!? これがどういうことかわかってるの!?」
「どうともなりませんよ? 彼らでは使命を果たすことはできませんので」
「いやいや!? それだと誰が魔王を」
「ご心配なさらずとも」
ティアは俺にゆっくりとウインクをする。
「最も確実で、最高の代案を用意していますので」
なんで俺の方を見た。すごく嫌な予感がするぞ。
「とにかく魔王の件はご心配なさらず。お二人はこの依頼を受けてもらえたら」
「そーは言われても」
「もしや未練がありますか? 同郷かつ元パーティーメンバーたちを手にかけることに」
「あー、いやそれは」
「あなた方を追放した彼らに同情する必要はありますか?」
「えーと」
ラストは俺の方に一瞬だけ目線を送る。自分じゃ決められない。最終決断を俺に委ねたいか。
「おいティア」
「ルシファー様、なんでしょう?」
「俺たちは闇側の人間。つまり、勇者パーティーと同類。裁かれるべき悪って奴だ」
「お二人は悪とはいえ、ある程度の良心は線引きしているでしょう?」
「一応。けど、それで正義になるわけじゃない」
罪の大小は関係ない。俺も向こうも悪だ。
「わかっています。ですが、お二人は勇者パーティーよりも信頼に値する方々です」
「ずいぶんと買ってくれるんだな?」
「もちろんです。ルシファー様のファンですから」
こいつ。何を言っても聞かなそうだな。やれやれ。とんだ依頼人が来ちまったもんだ。
「わかった。そこまで言うなら、お前の依頼を引き受けてやる」
「ありがとうございます」
「ただし、わかるな? 引き受けたら最後、お前も罪の共犯者だ」
「もちろんです」
「依頼中の裏切りとかはなしな?」
「私が裏切った時は、容赦なく切り捨てて下さい」
この目。本気だ。命を捨てる覚悟。それを真っ直ぐと示している。やれやれ。ここまで言わせた以上、受けない選択肢はないか。
「そういうことだ。この依頼を受ける。ラスト、かまわないか?」
迷いの意思を見せていたラストに同意を求める。
「はぁ……いいよ。ルシファーさんが決めたなら、それに従うだけだし」
「悪いな」
「でしたらさっそく仕事を。今夜、勇者アモン様の屋敷に向かって下さい」
アモン。俺の元パーティーメンバーだな。
「なんのために?」
「アモン様を殺害するためです」
いきなり今日かよ。ティア様はせっかちなようで。
「奴はこの国に帰ってきているのか?」
「アモン様及び勇者パーティーは、このエリゴスに帰郷しております」
「ちょうど良いタイミングってやつか」
「ええ。ですので今夜、アモン様の殺害をお願いします」
◇
夜中。俺とラストはアモンの屋敷に潜入していた。
「ここか」
現在、ターゲットのいる部屋前に到着。
「やるんだよね?」
「まあな」
「未練とかは」
「ねえな。それに、あいつらとは仲が良かった訳じゃないし」
「そっか」
「もういいか? さっさと終わらせたい」
俺はゆっくりと部屋の扉を開く。
「ん?」
扉の先。アモンの部屋内。視界にあるものが映る。中央の床。やや大きな影。正体不明のそれが横向きで倒れている。
「なんだ? あー、まじか」
「うそ……」
俺たちはそれを間近で確認。なんなのか一発で理解した。影の正体。それはアモンの死体だった。




