3 貴族が瞬殺された
「これでおっけー」
あの戦いから少し後。俺たちは奴隷の鎖を解錠していった。こいつらの解放は仕事ではない。
けど、放置して勘違いされたら困る。俺たちが奴隷を弄んでいるのではないかと。だから、仕方なくやってるだけ。サービスだ。
「さて、奴隷の件はいいとして」
「「「ひぃ!」」」
「お前ら、この取引の買い手だな?」
俺は、壁に張り付いている男たちを問い詰める。
「なにもんだ?」
「わ、我々は怪しいものではない! ただの貴族だ!」
貴族? ってことは国の上層部か。特に驚きはないな。しかし、奴隷売買は禁止だというのに悠々と違反とは。お気楽なもので。
「お前ら、これがどういうことかわかってんのか?」
「ち、違う!」
「違う?」
「我々は脅されていたのだ! ここに来いとあの男に!」
「あの男? 誰だ?」
「言えない! 言えるわけがない!」
「なぜ?」
「我々が始末されるからだ! これから起こるであろう、あの勇者パーティーの男のように!」
何をいってんだこいつら。話が全く見えてこない。いくら誤魔化したいからって、勇者パーティーの話を持ち出すなよ。めちゃくちゃだな。
「この状況で後の心配とは。お前ら呑気だな」
「ひぃ! 命だけ! どうか命だけは!」
「安心しろ。お前らに手は出さない」
俺は横目で転がる死体を一瞥。
「ターゲットはそこで転がってる奴ら。それ以外は興味ない」
「なら、我々は」
「怪我なく退出できるな」
「ほっ」
「ただし」
俺は足で壁を叩く。
「ここでのことは口外するな。話せば、わかるな?」
「「「コクコク」」」
「よろしい」
俺は貴族たちから背を向け、歩き出す。その後ろをラストが付き添う。
「いいの? 見逃しても?」
「目的は冒険者どもの暗殺。あいつらはターゲットじゃない」
「けど」
「あの肥え金貴族どもじゃ、これ以上はどうにもできないだろうよ」
「んー」
「心配なのはわかる。けど、理由なく貴族に手を出してみろ? この国の警戒が厳しくなる」
そうなれば俺たちの罪が明るみに出る可能性がある。依頼ならまだしも、無駄な殺しで立場を脅かされたくない。
「行くぞ。こんな奴らは放置して、さっさと」
「依頼完了、お疲れ様です」
「「ゑ?」」
入り口から服を切り裂く勢いの風。なにかがこの部屋に侵入してきたようだ。人? 敵襲か?
俺は構えの姿勢を取る。向こうが攻撃してきた時、こちらが反撃する為に。
「心配しないでください。ただ、残りの方々を片付けたいだけですので」
侵入してきた人影は俺たちを素通り。敵じゃない? だとすると狙いは。
「「「ごっ!?」」」
貴族たちの首が折れていく。一目でわかる。全員死亡。どうやら侵入者の狙いはこっちだったみたいだ。
「ふぅ。なんとか始末できましたね」
人影の正体。それは淑やかな銀髪少女。
「大変なことをしてくれたな。部外者さんよ?」
「部外者? 私がですか?」
少女はわざとらしく自身を指す。
「誰か知らんが、とんでもないことをしてくれたな? わかってるのか?」
「はい! もちろん!」
なんだこいつ? 意志疎通が出来ないのか?
「この程度のことは揉み消せますので」
「は? お前は一体」
「申し遅れました」
少女はスカートの裾をつまみ、一礼。
「私はエリゴス国の王女、ティアと申します」
「王女? そんなのどこにでもいるありふれた存在じゃねえか。ゑ?」
王女? ってことはこの国のトップ層? まさか。あり得ない。こいつは王女を語る不届き者だ。
「バカも休み休み言え。お前みたいな奴が王女なわけ」
「あの、おそらく本人だと思うよ?」
ラストが俺の裾を二度引っ張る。
「ゑ? どうして?」
「ほら? 私たち、過去にいたパーティーで何度か顔合わせをしてる」
「………………あ」
そうだ。俺たちはとある事情で、彼女に何度か謁見している。あの時の記憶、気配。間違いない。こいつは本物だ。
「ちっ。王女相手じゃ貴族よりもやばい。撤収するぞ」
俺たちは入り口に向かって駆け足を
「お待ちください」
ティアから呼び止め。無視だ。
「あなた方とお話がしたいのですが」
「悪いな。構ってる暇は」
「元勇者パーティー所属。ルシファー様、ラスト様」
「「!」」
足がピタリと止まる。俺たちの実名。並びに過去を暴かれてしまったからだ。
「生まれも育ちも、ここエリゴス」
「「!」」
「魔王討伐を果たすため、勇者パーティーに加入。この国を出て旅に」
おいおい。何でばれたんだ? 見た目も気配も完璧に誤魔化せてるはずだろ?
「そんなあなた方は一年前、勇者パーティーから追放。以来、この国で何でも屋を運営している。ですよね?」
「さて、なんのことやら?」
「全てわかっています」
「全て?」
「あなた方がやってきたこと全てです。例えば」
「はあ」
俺は早足でティアの元へ。彼女の肩に手を添える。
「それ以上は辞めとけ。姫様が裏世界に首をツッコむのは危険だぞ?」
「いえいえ。もう手遅れです」
「は? まさか、興味本意で俺たちを追いかけるつもりか? 悪いが、そんな遊びに付き合うつもりは」
「いいえ?」
ティアが一枚の紙を広げる。俺たちの手配書でも作ったのか?
「脅しか? ……………は?」
「理解していただけたようですね」
ティアの持つ紙。そこに記されていたのは、今回俺たちが受けた仕事。その依頼書だった。
「念のため、控えを用意しておいて良かったです」
「お前、なんでそれを?」
「それはもちろん。あなた方に依頼を出したのは私なのですから」
◇
数日後。何でも屋。
「さてと、奴隷だった方々をきちんと送り帰したところで」
俺とラストは隣合わせでソファーに座っている。その向かい側には、笑顔で手を組むティア。
「これからのお話をしましょうか?」
「お姫様が俺たちになんの用だよ?」
「単刀直入に申し上げます。お二人とも、私の仕事を受けて貰えませんか?」
「貰えませんねぇ」
「な、るほど」
「「……」」
俺とティアは気まずい空気に。回答を間違えたな。
「と、とりあえずさ? 話が進まなそうだし、ひとまず了承しよう? ね?」




