1 Sランク冒険者を瞬殺してみた
「じゃあ、依頼前に改めて自己紹介を行う」
とある一室。ここには俺を含め、三人がソファーに座っていた。
「俺はルシファー。ここ、何でも屋事務所の経営者。で、こっちは助手のラスト」
「どもっ」
俺の隣に座る金髪少女ラスト。彼女は笑顔でお辞儀をする。
「で、あんたは依頼人。職業は冒険者ギルドの新米。間違いはないな?」
俺は対面に座っている女性に確認をとる。
「はい」
「何でも屋のことは、裏側の人間を使って知った」
「はい」
「で、あんたは暗殺を依頼しにきた。間違いないな?」
「はい」
「せっかくだ。もう一度、お前の口から話を聞かせてくれないか?」
「はい。あれは、私たちのパーティーがクエストを受ける前のことでした」
依頼人が辛そうな表情を浮かべる。
「Sランク冒険者、アスタロトが声をかけてきたのです」
「上手い話があると。で、あんたらはそれに乗っちまった」
「迂闊でした。ここ、エリゴス王国で有名なアスタロトが私たちを裏切るとは」
「奴の目的は貴重品の強奪。そのせいで、あんた以外はクエスト中に殺された。だったな?」
「はい」
「この件を周りには?」
「言いました。けど」
依頼人が歯ぎしり。目に涙を浮かべながら。
「誰も信じてくれませんでした。挙げ句の果てには、お前が仲間を殺したんだろ? と」
「仕方ないな。あんたとアスタロトの信用には雲泥の差がある」
「わかってます。私が叫んだところでどうにもならないと」
依頼人は涙を拭き、俺の目を見る。
「ここ、何でも屋はお金を払えば何でもしてくれるんですよね?」
「一応。ある程度線引きはあるが、今回の件は特に問題ない」
「でしたらお願いします。アスタロトを殺してください。仲間の敵を討つために」
「わかった。じゃあ」
俺はある紙をテーブルに置く。
「これから意志の確認を行う。依頼をやめるなら、ここが最後のチャンスだ。それから」
別の用紙をラストに手渡す。
「ラスト。注意事項を読み上げてくれ」
「わかったよ!」
彼女は立ち上がり、口を大きく開く。
「一つ、依頼後の責任は取りません!」
アフターフォローはしない。自己責任です。
「二つ、何でも屋のことは口外禁止!」
俺たちはアウトな職業。ここが国にばれたら死罪だ。だから、依頼人には黙秘するよう約束してもらう。
「三つ、依頼成功は終わりではありません! あなたの人生に影を落とす可能性があります!」
「最後、あなたと私たちは共犯者! この罪は消えず、一生抱えることになります!」
「これが先に待つ現実だ。受け入れる覚悟があるなら、そこにサインしてくれ」
強制はしない。やめたいならやめればいい。
「お願い、します」
依頼人は震える手で紙にサインをする。
「本当にいいんだな?」
「構いません。あの男が地獄に落ちるならば」
「了解。なら、仕事に移らせてもらう」
俺は変装用の仮面を装着。事務所から出ていく。
◇
「あれか」
夜。路地裏にて。俺は一人の男を発見。
「ぐひひ! 今日も新人殺しでたんまり稼いだぜ!」
男は恍惚な目で金品を並べていた。その品々には赤い物がべっとり。どうやら黒みたいだな。
アスタロト。冒険者ギルドのSランク。実力、人柄共に最高と称されている。
が、それは表向き。実態は人殺しで金を稼ぐクズ。俺と同類の存在だ。集めた情報はこんなところか。
「よお」
「!? なんだ貴様!?」
アスタロトが金品を床に落とす。
「そんなに慌てるな。要件はすぐに済む」
「ぐひひ! お前、何者だ? 仮面をつけてるみたいだが」
「さあ? 答える義理はない」
俺は鞘に納めていた剣を抜刀。
「ぐひひ! 命知らずのチンピラか! 俺が誰かも知らずに喧嘩を売ってくるとは!」
アスタロトが突進。この距離なら後二秒でぶつかる。
「喧嘩? 違うな」
俺は刃を前方に。奴の体を捉える。
「殺しだ。そんなお遊びと一緒にするな」
「命をかけるか! いいぜ! だったら、お前の身ぐるみをはがして」
「悪い。もう斬った」
「は!? ぼ!? ごげっ!?」
アスタロトの体が崩れ落ちていく。生死の確認は、するまでもないな。というか、今の状態を直視したくない。見たら胃酸が這い出てきそう。
「依頼完了。簡単な仕事だったな」
◇
翌日。何でも屋。
「おはよー! ルシファーさん!」
俺がソファーでお茶を嗜んでいると、ラストの元気な声が飛び込んでくる。
「うっす。お前は朝から元気だな」
「それが取り柄みたいなものだからね!」
「へーへー。すごいすごい」
「あー! 今、ただうるさいだけだろとか思ったよね?」
「うん」
「酷い! そういうのはオブラートに包みなよ!」
俺たちは嘘つく間柄じゃないからな。正直に言いたいことを言った。それだけだ。
「あ、そうだ。昨日の依頼人さん、違う国に行くんだって」
「会ったのか?」
「さっきね! 挨拶を交わしてきたところ!」
「ふーん」
「もうちょっと興味を持ってよ!」
「知らん。俺からかける言葉はない」
今さら言って変わるものはない。依頼人のその後は本人次第。破滅、幸せ、平凡。どうぞご自由に。
「それより次の依頼だ。情報を調べといてくれ」
俺は一枚の紙をラストに渡す。
「依頼人は?」
「手紙と依頼料だけ送られてきた。どうやら、今回の依頼人は対面したくないみたいだな」
「ふーん。あれ? 今回の報酬って高額、え!? これが今回の仕事!?」
「ああ。冒険者ギルド。そこのSランク冒険者たち、及びギルドマスターを殺す」




