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続編?知りません。―身代わり令嬢と覇王陛下の話―

作者: cfmoka

久々の短編です。

ゆるりと楽しんで頂けましたら幸いです。


※誤字報告有難うございます!

通された玉座の間は、驚くほど静かだった。

あるのは、玉座と――数名の騎士と侍従、


覇王ウラド・ザルツェフ


噂に聞く暴君は、数えきれない程の血を吸った黒剣を帯剣し、肘を玉座の肘掛けに預け首を傾けていた。

鋭い視線が、ゆっくりとアーシュを下から舐めるように見る。


「……お前がエリシアか?」


一言。


アーシュは王女として一礼した。

完璧な角度。完璧な所作。


「かくも尊き時を賜り、恐悦至極に存じます」

カーテシーを優雅に保ったまま。

「我が身は陛下の御威光のもとにあり、御国の安寧を支えること、微力ながら、我が身を捧げてお仕えいたします」


アーシュはこの日、『王女エリシア』として覇王ウラドの元に嫁いだ。

弱小国家が連合国家に対し、命運を賭けた瞬間だった。



◇◇◇



アーシュ・レイフェルトはその日、国王の執務室を訪れていた。


「アーシュ。どうした?お前がエリシアの側を離れるとは珍しいな」

「は。お時間を頂き申し訳ございません。国王陛下」


国王はいそいそと引き出しからチェス盤を出すと、テーブルに静かに置いた。

「さしながら聞こうか」

王の相変わらずの気安さに、アーシュは苦笑いを浮かべながら、女性でありながら初の近衛騎士となった彼女らしく、きっちり一礼し席につく。


「陛下、エリシア王女に輿入れの要請があったと伺いました」

アーシュが問いかけると同時に、国王はポーンを一つ前へ進めた。

否定も肯定もせず、ただアーシュに次の一手を促す。

アーシュも盤面を見ながら、静かにナイトを手に取った。


「でしたら、私が――エリシア王女として身代わりで嫁ぎます」


駒が盤に置かれる音が、やけに大きく響いた。

国王の手が止まる。


「かの国の、覇王の目的は、“癒しの聖女の力”です」

アーシュは続けた。

「王女殿下には、その力がありません。それが露見すれば……」


国王は眉間に軽く皺をよせ、守るようにポーンを一つ進めた。


「この国そのものが、危うくなります」

アーシュは視線を盤に落とし、更にナイトを一つ、まるで差し出すように進めた。


「ですから――私が参ります」




アーシュは、レイフェルト公爵家の長女として生まれた。

王家の血を引き、膨大な魔力を持ち、将来を期待され、幸せな未来を約束されたような少女だった。


だがある日、唐突に、違和感が押し寄せる。

魔法のある世界。豪奢なドレス。自分は、こんな場所で生きていた人間だっただろうか。

頭の中から溢れ出す、知らないはずの記憶。


(……あれ?)


聞き覚えのある単語が、一瞬よぎる。

悪役令嬢レイフェルト。

ここはもしかして『乙女ゲームの世界』?と疑問を持つ。


だからと言って、このゲームをやりこんでいた訳ではない。

何故なら前世の自分は社畜OLで、ブラック企業で必死に毎日デスクへ噛り付いていたからだ。

とてもゲームなどする余裕はなかった。

けれど、流しっぱなしにしたTVから流れてきたCMで、聞き覚えのある単語があった。

癒しの聖女セイラ、攻略対象の皇太子、悪役令嬢レイフェルト……。


そして、物心が着くころにはある程度把握できていた。

亡き王妃が癒しの聖女セイラ。

国王陛下が、かつて攻略された皇太子。

そして――自分の母が、婚約を破棄された悪役令嬢レイフェルト。



「ここもう本編終わってるし。え?私の役割って何?」



ちょっとやる気が削がれてしまった頃、王宮で運命と出会う。

それがエリシアだった。


自分とよく似た王家の色を纏った可憐な姫。

ただ、彼女は亡き王妃の“力”を引き継いでおらず、魔力そのものが全く無かった。

そして王家はその事実をひた隠しにしていた。


いつも悲嘆にくれ涙をこぼす王女に、気づけばアーシュは毎回手を差し伸べていた。

私が守らねばと共に時間を過ごす内に、アーシュはより身近で堅実に守れるようにと、剣術を学び、見事エリシアの騎士となる。


そして昨日、エリシアの私室で二人っきりのタイミングで、彼女が()()泣き始めた。


「王女殿下?どうされました?」

「アーシュッ……」



暴虐の限りを尽くすあの覇王ウラドに、わたくしが嫁ぐと決まったの……。

噂で聞いたわ!後宮の妃たちは少しでも気に入らないと剣の錆にされると。

きっと自分も……!アーシュ、わたくし凄く怖いの……!!



怯えて腕の中で泣き続ける王女の言葉に、アーシュは思い出していた。


(ここ『続編』だ)


だとすると、“このエリシア”では国が亡ぶ――。


そしてアーシュは速やかに国王に直談判に行く。

エリシアとして自分が嫁ぐと。




輿入れの日は、驚くほど静かだった。


アーシュは、王女の正装に身を包み、馬車へ向かう。

騎士服を脱ぎ、化粧を施した彼女は王女と良く似通っていた。誰が見てもエリシア王女そのもの――


見送りに立つのは、国王と数名の重臣だけ。


「……この身をもって、国の盾となりましょう」


それは王女としての言葉であり、同時に、アーシュ自身の決意だった。


馬車の扉が閉まる。

王都が、ゆっくりと遠ざかっていく。

アーシュは膝の上で、そっと指を握りしめていた。



◇◇◇



(とりあえず、無事に入国、後宮に入れたけれど……)


アーシュは自分に与えられた部屋を見渡す。

ドアの付近には侍女がいるが、部屋に入室した自分に対してお茶の一つも出す気配がない。


(これは歓迎されていないのか……所詮弱小国家の人質姫とバカにされているのか……)


「あなた達、もういいわ」

アーシュの声に、侍女たちは「?」を浮かべて顔をあげる。

「休みたいの。用があったら呼びますから。廊下で待機してもらって結構よ」

暗に出ていけ、と命じた王女の言葉に、剣呑な眼差しを浮かべ退出する侍女たち。


(素晴らしい歓迎っぷり)


思わず薄く笑う。これはエリシアだったら初日から泣いてただろう。

自分で良かった。心から安堵する。これぐらいは想定内だ。



数日過ごして分かった事がある。

この後宮は、諸国から送り込まれた“妃”という名の人質たちがひしめく、陰謀と嫉妬の坩堝だった。

互いの足を引きずり落とし、掴んでは沈め合う――その光景は、後宮という天上の楽園を装った地獄そのものだった。



「本日はお招きいただき、ありがとうございます。こちらの庭は、どのお部屋から見ても美しく整えられておりますのね」

「ようこそいらっしゃいました。エリシアさま。この国にはもう慣れまして?」

後宮一番の古株、この国の公爵令嬢が自身主催のお茶会で柔らかく声をかける。


「皆さん良くして頂いて。何不自由なく過ごさせて頂いておりますわ」

扇を口元に添え、微笑を絶やさずに返す。

(……表向きはね。皆さん、きちんとお仕事している風を装うの、大変お上手ですから)


周囲の妃たちが、扇の陰でわずかに表情を動かした。


「それはようございました。……けれど、生国を遠く離れての暮らしは何かと気苦労も多いでしょう。どうか無理をなさらずに。――この後宮は、慣れるまでが本当に大変ですもの」


(言うことは柔らかいけど、つまり『外様は早く出ていけ』ね)


「お気遣い、痛み入りますわ。陛下から()()()()お望み頂いての輿入れでしたので、緊張しておりましたが…皆さまが温かく迎えてくださったおかげで、心細さも薄れてまいりました」


公爵令嬢は、獲物を定めた猫のようにふっと目を細めた。

「まあ……それは何より。陛下も、エリシアさまが“こちらの生活に馴染んでくださること”をお喜びでしょう」

「陛下のお心に沿えるよう、妃として真摯に努めてまいりますわ」

「ええ、どうぞそのまま……“慎ましく”お過ごしくださいませ。後宮は、陛下のためにあるのですから」


エリシアは微笑みを崩さず、茶器をそっと持ち傾け一口含むと、


「ではどうぞ皆様も――変わらず“慎ましく”お過ごし下さいませ。陛下の御御世のためにも」


招待されていた妃たちからの視線が突き刺った。




◇◇◇




「エリシア王女はどうだ?」

その日、ウラドは報告書を興味深そうに読みながら、側に控える護衛騎士と侍従に先日後宮入りした妃について尋ねていた。


「あの癒しの聖女の娘ですか?」護衛騎士が首を傾げながら確認する。

「侍女長からは特に。日々静かにお部屋で過ごしていらっしゃるとの事ですが……何か?」

「ふ。静かにか……」

「陛下?」

ウラドは面白そうに眼を細めると、手元の報告書を侍従に手渡す。


「案外強かかもしれんぞ?」

「“泣き虫王女”がですか?」

侍従が驚いたように渡された報告書に目を通す。そこには先日のお茶会の様子が綴られていた。


「“お前も慎ましく過ごせ”、は良かったな」

声を押し殺しながら笑うウラドに、侍従も護衛騎士も、おや珍しいと目を見開いた。


「夜、食事を共にしてみるか」


噂の“王女エリシア”は、常に男装の護衛騎士と、従兄にあたる筆頭公爵家の嫡男が脇を固め、亡き王妃が残したという形見の魔石を固く握り締めながら、人々に“癒しの力”を施す――、傷ついた人々を想い、王宮の奥でいつも涙を流している……と、聞いていたのだが。


「噂通りの“か弱い王女”なら、すぐに泣きごとを訴えてくると思っていたのだがな」


面白い――ウラドはゆっくりと目を細め、窓の外をじっと見つめていた。




◇◇◇




陛下との夕食のため、支度をするように――との侍女長の言葉を聞いた時、正直目を見開いた。


(は?)


心の声を出さなかっただけ、褒めて欲しい。

いつもの何もしない侍女たちではなく、侍女長直下の見たことがない侍女が私の身支度をはじめた。

手際が素晴らしい。

あっと言う間にドレスを着替え、煌びやかな燭台が並ぶ晩餐の間へと案内される。

間もなく、扉が静かに開かれ、覇王ウラド・ザルツェフが現れた。


間近で見る覇王は、彫像のようにひどく整った顔立ちをしていた。

額から頬へと流れる線は鋭く、どこか冷たさを感じさせるのに、その美しさは目を離せないほど強烈だった。髪は深い夜の色をしており、光を受けると青く輝いて揺れる。無造作に流しているのに、それがとても似合っていた。


「待たせたな」

短く告げられ、アーシュは居住まいを正す。

彼がゆっくりと席につくと、料理が静かに並べられ始めた。


「陛下と食事を共にできるなど、夢にも思いませんでした。同じ卓を囲む栄誉を賜り、大変恐れ多く存じます」

暗に、これ一度きりでお願いします、という本音を奥に押し込めて目を細めると、ウラドはアーシュからの言葉に軽く眉を上げた。


「問題なく過ごせているか?」

「つつがなく……」

「この国の食は、口に合うか?」

「恐れながら……馴染みのない味もございます。ですが、この国の食文化は実に興味深うございますわ」

「……そうか」ウラドが、ほんのわずかに口角を上げた――気がした。

(……ん?)

「そなたの国の亡き王妃の力を、継承していると聞いているが?」

アーシュの手が、皿の上で静止する。

「それは――いつでも発動できるものか?」

「……この力は、あくまで祖国を守るためのもの。遠く離れたこの地では、容易に行使できるとは申し上げられません」

「ほう。使えないと?」

「いえ」アーシュは静かに視線を上げる。

「そう断じられるほど、単純な力ではございません。ただ……“簡単ではない”とだけ、お答えいたします」

ウラドから探るような視線を感じる。

「ですが、陛下がどうしても、と仰るのであれば」

アーシュはゆるやかに首を傾げ、にこやかに微笑む。

「しかるべき時に、しかるべき準備を整え、陛下の御前にて、お目にかけましょう」

ウラドの指が、杯の縁を一度だけ軽く叩いた。

そんな簡単にホイホイ使う力じゃないですよ?分かってます?と言わんばかりの彼女の態度に。

ウラドは報告書を読んだときと同じ、説明のつかない面白さを覚えていた。


銀の蓋が静かに開かれる音が響く。アーシュはその音を聞きながら、真正面の覇王を見つめた。

癒しの聖女の力はもはやこの世界にはない。

それを悟られるわけにはいかない。

だが、覇王ウラドの視線が何かを探るかのようにこちらに向けられたままだった。


アーシュは微笑みを浮かべ、ゆっくりとフォークを取り、次の料理を口に運ぶ。

ひと口。

舌に触れた瞬間、わずかな違和感が走る。

(……これは)

反射的にウラドへ視線を向ける。その瞬間、彼もまた同じ料理を口に含んでいた。


「陛下!!」

椅子を弾くように立ち上がったアーシュの声に、ウラドはわずかに目を見開く。

そして――己の身体に起きた異変を、はっきりと自覚した。

「……毒、か?」

ウラドの呼吸がわずかに乱れ、その強靭な身体が、ほんの一瞬だけ揺らいだ。

その異変は、普段の彼を知る者なら誰もが息を呑むほどの“異常”だった。護衛騎士と侍従がすぐさま駆け寄る。


アーシュは側に近寄ると、ウラドが一口食べた料理を口に含む。

自分が食べた時に感じた違和感と同じ。

それなら――

アーシュはウラドの背を支えるよう護衛騎士に指示をすると、テーブルの杯を手に取った。

「陛下、しっかり……!沢山の水を飲んで下さい!」

侍従が慌てて追加の水を用意する。

その傍らで、アーシュはウラドに無理やり水を飲ませ続ける。

「陛下、前を向いて!」

侍従たちが悲鳴を上げるより早く、アーシュはウラドの顎をぐいっと掴み、その口を強引に開かせた。

「エリシアさま!?な、何を――」

アーシュはためらいもなく手を伸ばし、

ウラドの口元へ――思い切ってその美しい口の中に指をつっこんだ。


「「!!」」

護衛騎士と侍従は蒼ざめ、現在苦しいはずのウラドも目を見開く。


「陛下、吐き出して!胃の中の物全部、今すぐ!!」


ウラドは思った。

報告書と違いすぎないか――?

その日、覇王ウラドは妃エリシアの前で、生涯で二度と語りたくないほど情けない姿を晒すことになった。




◇◇◇




翌日、アーシュの部屋に訪れたのは、昨晩毒を盛られた覇王ウラドだった。

嫁いでから初訪問である。当然アーシュは驚いた。

「……陛下?もう大丈夫なのですか?」

ウラドはアーシュをちらりと見ただけで、当然のようにソファへ腰を下ろした。

仕方なくアーシュも、その向かいに座る。


「昨晩は世話になった」

「……いえ。大事に至らなくて良かったですわ」

「あの後、癒しの力も使ったと聞いたが」

「はい。念のため…。許しなく、お身体に触れ治癒いたしました。ご容赦を――」

そう言ってアーシュは頭を下げる。

「……その、何だ。感謝している」

「!」

「力を使って、お前は身体は大丈夫なのか?容易ではないのだろう?」

「……毒は早めに処置しなくては、後遺症が残ることもございますので」

「そうか」

ウラドはアーシュをじっと見つめながら、何か考えているようだった。

「陛下?」

「お前の側仕えの侍女を変える」

「え?」

「今日はそれだけを言いに来た」

ウラドは立ち上がる。

その動きはいつもの覇王らしい威圧感を取り戻しているはずなのに、何となくぎこちなさが残っていた。

アーシュは思わず問いかける。


「……陛下。侍女を変えるとは、どういう……?」

ウラドは振り返らない。

「昨夜の件、放置するわけにはいかん。二度と起こさない為に信を置く者に変える」

短く、冷静な言葉。けれどその奥には――


(……私のため?)


ウラドは扉に手をかけたまま、ほんの一瞬だけ横目でアーシュを見る。

「それと――」

「?」

「……昨夜のことは、忘れろ」

アーシュは瞬きをした。「……昨夜、とは?」

ウラドの眉がぴくりと動く。

「……お前の前で、アレをさらした事だ」


その言葉には、覇王としてのプライドと、男としての羞恥が入り混じっていた。

アーシュは思わず口元を押さえる。


「……っ」

「笑うな」

「笑っておりませんわ」

「笑っている」

「笑っておりません」


ウラドは舌打ちしそうな気配を残し、そのまま部屋を出ていった。

扉が閉まると、アーシュは小さく息を吐く。


(……力については少しだけ誤魔化せた?かな……)


そのまま脱力したように、ソファに身を沈めると、昨夜の怒涛の処置が脳裏に蘇る。


自分に“癒しの力”が少しでもあって良かったと。

だからこそ、アーシュは何度も影武者として彼女の代わりを務めてきた。それを“重い役目”だと思ったことは、一度もなかった。

どうしても交代できない時は、魔力を蓄える魔石を模した魔道具に、アーシュが“癒しの力”を注ぎ込み、エリシアに持たせていた。


その結果、国内では『エリシア王女は癒しの聖女の力を持つ』と広く信じられている。

変わりに護衛騎士だったアーシュに僅かながらもその力があることは、王家と身内以外知られていない。


アーシュには、もうひとつ特殊な能力がある。

彼女はその膨大な魔力を“絶えず”体内で循環させることができた。――それは、害物を体内に蓄積させないよう、自己防御が常に働いているかのように。柔軟な身体は壊れにくく、回復の早い身体は疲れにくく、体内の抵抗力は常に安定していた。

毒や呪いのような異常も、自然に押し流す――そんな、地味だが護衛騎士としては圧倒的に便利な力。


派手さはない。

だが、その特異さゆえに、アーシュはエリシアの毒見役として、そして盾として、何度も彼女を守ってきた。

昨夜、ウラドの異変に気づいた瞬間、身体が勝手に動いたのは、長年の経験と、この能力があったからこそ。


――『力を使って、お前は身体は大丈夫なのか?』


覇王らしからぬ、あの一瞬の気遣い。

それは今まで誰からも向けられなかった――アーシュ自身への労りの言葉だった。


アーシュは窓際に立ち、ガラスに映る自分の姿を、確かめるように見つめた。


当面の問題がある。

誰が私たちに毒を盛ったのか。


私の侍女を変えると言った。

つまり、ウラド側は犯人像に辿り着いている可能性が高い。

そして恐らくそれは――後宮の中にいる。




◇◇◇




陛下が“エリシア妃”の元に足しげく通っている――そんな噂が後宮にまことしやかに流れた。

とうの“エリシア”本人はそんな噂など気にした様子もなく、陛下から贈られたとみられる淡い色合いの身体にそうような優美なラインを描くドレスを纏い、周囲の視線を一身に集めながら、後宮の庭を散策していた。


背後からしっかりと付いてくる、新しい侍女を視界の端に収めつつ、アーシュは何かが『かかる』のをここ連日待っていた。

まず散策初日、最初に現れたのは後宮の古株の公爵令嬢。次の日は連合国家の一国から輿入れした金髪美女、そして――


「エリシアさま」

今日お茶でもどうかと声をかけてきたのは、地図上ではすでに無い小国から嫁いできた元王女。

後ろ盾もなく、帰る国もない。

下手すると自分もそうなる…アーシュが、何としても避けたい未来を、すでに歩いてしまった国家の王女だった。


白い日傘をさした侍女を付き従えながら、元王女が静かに振り返った。その微笑みは柔らかく、どこか儚い。

「あちらにお茶の席をご用意いたしました。どうぞ」



「エリシアさま、この国に来られて、ご不安はありませんか?」

香り高い茶葉の湯気がふわりと立ちのぼり、静かな午後の光がテーブルを柔らかく照らしていた。

アーシュはカップをそっと置き、微笑みを返す。


「不安、でございますか?」


元王女は一瞬だけ瞳を揺らし、淡い琥珀色の揺らぎに視線を落とした。

その仕草は優雅で、長い時間を耐えてきた静けさがあった。


「こちらの茶葉は、とても優しい味がするんです。香りも柔らかくて」

彼女はカップを両手で包み込み、静かに続けた。

「心がとても落ち着きます……」


アーシュはゆっくりと待って、香り豊なお茶を口に含む。

「本当に。沢山の温かい光と豊かな土壌がなければ、このような奥ゆかしいお味は出ませんね」

「……ありがとうございます。祖国のお茶なんです」

彼女はカップをそっと置き、アーシュを見つめる。


「エリシアさまは……とても美しくて、お優しくて、話しやすい方ですね」

「まあ。ありがとうございます」

アーシュは微笑みを返す。

「陛下が足しげく通うのも良く分かります」

「まあ。ふふふ」

「いつも陛下とはどのようなお話を?」

「他愛もないお話でしてよ。とてもお聞かせできるような、面白いお話はございませんわ」

「そうなんですね」

元王女はほんの少しだけ視線を動かす。


「後宮は名ばかりで。陛下が今まで足を向けられた事はありませんでした」

「まあ?」

「エリシアさまがいらっしゃってから、変わりました」


視線がアーシュを捉えた気がした。


「何故でしょう……エリシアさまには、不思議と親近感がございます」

「親近感ですか?」

「ええ。小国の王女――という立場でしょうか」

彼女は静かに息を吸い、その瞳にほんの少しだけ強さを込めた。、

「仲良くして頂けると――嬉しいのですが」

「……もちろんですわ」

「私の戻る国は、消えました。でもこうして生きているだけで、十分です」

元王女は笑っている。でもどこか深い影を落としていた。

「こうしてお茶をご一緒できるだけで」



そのお茶会からの帰り道、アーシュは――刺客に襲われた。




◇◇◇




お茶会を終え、アーシュは侍女とともに回廊を歩いていた。

夕刻の光が石畳に長い影を落とし、後宮は静けさに包まれている。

――ふと。空気にわずかな違和感を感じた。


(……何かいる)


アーシュの足が自然と止まる。

侍女が不思議そうに振り返るより早く、背後の植え込みから黒い影が飛び出した。


「お妃さまっ!」侍女の悲鳴。


影が腕を振り上げた瞬間、アーシュは髪を留めていた簪を素早く抜いた。

裾を払って簪で光る短剣を受け流す。


「下がって!」鋭い声に、侍女が慌てて後退した。


何度も短剣を構えては左右に鋭く繰り出す暗殺者に、アーシュは冷静に対処する。

次第に焦りが濃くなったのか暗殺者が一度距離をとった瞬間、足元の石畳を蹴り、影の懐に滑り込むように踏み込む。目の前で、簪を一閃。

相手がのけ反るようにかわしたその隙に――低く屈んで足元を素早く払った。

体勢を崩した影を押さえ込み、腕を封じる。そのまま、簪を首元へ。


「……誰の差し金?」


アーシュの声は静かだった。影は答えない。


「護衛騎士を呼んでちょうだい」


侍女が駆け出す。

アーシュは影を押さえつけたまま、ふと自分の手元を見下ろした。


(……本当にここに来たのが私で良かった)


その思いが胸をよぎった時、遠くから駆けつける足音が聞こえてきた。


アーシュは静かに息を吐く。

「……陛下には、どう説明しましょうか」

夕暮れの風が、彼女の髪を揺らしていた。




◇◇◇




「おい!」

焦りを隠しきれない声でウラドが部屋へ踏み込んできたのは、アーシュが“先ほどの対処”でついた汗を洗い流し、湯あみを終えた直後だった。

「あら。陛下?」

さすがのアーシュも侍女たちも、怒りのオーラを全く抑えずに、何の前触れもなく現れた覇王の姿に目を剥く。


ウラドは乱暴にソファへ腰を下ろした。

怒りの意味がまったく分からないまま、仕方なく、アーシュもその向かいに静かに座る。


「陛下、いきなりは困ります」

アーシュが眉を下げながらウラドに言葉をかけると、その切れ長の瞳をこれでもかと鋭くして睨みつけてきた。


「お前は馬鹿か。刺客に襲われただと?それを――助けも呼ばずに自分で対処しただと?」

「ええ…」

「お前は俺の妃だぞ?何かあったらどうするつもりだった!」

「ええ……?」

「か弱い女の身で。何故逃げなかった!?」

「……」

「お前に護衛騎士をつけるからな!!」

「……はい……」


なぜ私が怒られるのか?

正直、一人が楽だし、ずっと自分の周囲に人がいるのは落ち着かない。

でも――


「……陛下。ご心配おかけして申し訳ございませんでした。軽率でしたわ」

アーシュが少しだけ肩を落として、ウラドに謝ると、彼はちょっとだけ気まずそうに眼をそらした。


「……お前が襲われたと聞いて、息が止まった」

「陛下」

「これ以上は動くな。頼むから」


(連日“鴨”を待ってウロウロしていたのがバレてる……)


「後宮は俺が整理する」


(――整理?膿を出すってこと?)


「お前は俺の相手だけをしていろ」


(……あら?)


「良いな?」


言い終えたウラドはため息をはきながらも、アーシュを気にするようにちらりと視線を向け、それから静かに部屋を後にした。




◇◇◇




「何やってんですか、陛下」

侍従の呆れた声に、ウラドは両手を目の前に組んで項垂れていた。

「え?エリシア様の所に心配で駆け付けたんじゃ?」

護衛騎士が不思議そうに自分の主に声をかける。


「見事に怒鳴り込んでいきましたよ。この方は」

侍従は報告書を手にしたまま、ウラドの側に立つ。

「頼まれていたエリシア様の追加の報告書です」

そう言って執務室の机に、バサッと分厚い書類の束を置いた。


「……ああ。何かわかったか?」

「エリシア様付だった護衛騎士が職を辞し、社交界からも姿を消しております」

「男装の護衛騎士……。王家の血をひく、公爵令嬢だったな」

「はい。幼い頃はエリシア様とうり二つだったそうです。十二歳頃から騎士を志し、その後、女性として初めて近衛騎士となっております」

「影武者か?」

「はい。おそらく」

「面白いのが、あちらの国王とチェス仲間だったそうで」

「チェス?」

「はい。頭も回り、王家の血を引き魔力も相当あったのでしょう」

「……どこかの誰かのようだな」


「そして、その護衛騎士の婚約者が、エリシアさまの従兄です」





◇◇◇





アーシュはこの『続編』ゲームの内容を知らない。


『“暴虐の限りを尽くす覇王ウラド”によってこの世界は戦乱に突入していた。そんな中、聖女の娘、エリシアは癒しの聖女の力を独占しようと企むウラドによって、妃として差し出すように国に圧力をかけられる――。エリシアは味方と共にウラドに立ち向かい、世界を平和に導けるのか?』


こんな感じのあらすじだったと、朧げに記憶している。


攻略方法などもちろん知らない。

ただアーシュとして出来ることを精一杯しようと思っていただけだ。

元ブラック企業の社畜OL魂で。


でも……前世も、今も通して、異性に全く興味がなかった自分にとって、ウラドの態度はちょっと戸惑う。

こんな風に見つめられると、どうして良いのか分からない。


「お前、婚約者がいたのか?」

「……陛下?」

ウラドからの視線が何故か熱い。

「エリシアの従兄がお前の婚約者だったんだろう?」

「……」

“エリシア”と“お前”、明確に呼び分けているように聞こえる。


「お前は慕っていたのではないか?その公爵令息を」


婚約者――いつも泣いていたエリシアを、共に慰め続けた同士。

あの日、王城でアーシュは自分の婚約者とエリシアが抱き合っているのを見てしまった。

その瞬間気づいたのだ。自分は二人の障害なのだと。

そして翌日、タイミング良く、エリシアから輿入れの話を聞かされて。


ならば――

自分がエリシアの身代わりに嫁げば、エリシアはアーシュになって婚約者と一緒になれる。


国の事ももちろんある。

だた、二人の幸せの為にひと肌脱ぐのも悪くないと思ってしまった。

婚約者はアーシュにとって本当にただの同士だったので。



「いいえ、全く」


アーシュの言葉に、ウラドはちょっと猜疑の目を向けた。

「だが――」

「というか陛下?わたくしに婚約者はおりません」

笑顔で遮って、これで終わりかと思ったら、

「あの男に気持ちはなかったのか?」

「あの男?そもそも、そんな相手はおりませんし」

「ではお前が慕っていた相手は?」

エリシアには、いただろう。

けれど、アーシュには――いない。


「わたくしは陛下の妻だと思っていたのですが」

アーシュは下から覗くようにウラドを見上げた。

「陛下?一体何をお聞きになりたいの?」

「……っ」


「陛下?」

「お前を狙った者が分かった」

「まあ」

「毒を盛るよう指示した者も、刺客を雇った者も。関係者まとめて処罰する」

「さようでございますか」

「後宮は解体する」

「解体?先日は整理と……」


ウラドの目が何かを湛えている。それが何なのか――


「俺の妃はお前だけだ」


その言葉の意味するものは――


「わたくしは……」


唐突に、目の前のウラドに隠し事をしている自分に、言い様のない思いが込み上げてきた。

胸の中に何かがモヤモヤと渦巻いている。


国の命運を賭けているというのに。

ウラドの言葉に、真摯に返せるものを――ニセモノの自分は、何一つ持っていなかった。




◇◇◇




後宮から少しずつ、妃たちが離縁され、処遇が決められていった。

その中には部下に下賜されるもの、自国に帰るもの、そして処罰対象として静かに消えたもの。

その処罰対象の中に、亡国の元王女もいた。

彼女は後宮側から揺さぶりをかける役で、その傍ら内乱の準備が進められていたという。


急にやる事がなくなると、社畜OLは戸惑うばかりで。

毎日届くウラドからの花束や華麗なドレス、おしゃれなお菓子など、貰ってもどうしてよいのか分からない日々を過ごしていた。


「何かやることください」


ある日とうとう、ウラドに直談判に行くアーシュ。

ウラドはウラドで、初めてアーシュが自分の執務室を訪ねてくれたことに、少しだけ感動していた。

何せ毎日贈り物をしても、ちっとも嬉しそうな顔をしていないのだ。


「やること?どういうことだ?」


ウラドがソファに座るようにアーシュに指し示すと、ドレスの裾を大事に整えゆったりと座る。


「何もやる事がないのです。何かありませんか?」

「やる事……」

「何か毎日やれる日課が欲しいのです」

「なら俺と剣の手合わせはどうだ?」

「え?」

「身体が鈍っているんじゃないのか?お前」

「でも……」

「通常なら許可できないが。俺と一緒なら構わない」

「……良いのですか?」

「早速行くか」


そう言って立ち上がったウラドに、アーシュは一瞬だけ戸惑った


「……剣は」

「用意させる」


連れて行かれたのは、後宮から離れた訓練場だった。

人気はなく、高い壁に覆われている。


剣を渡された瞬間、アーシュの指が、その懐かしさにわずかに震えた。

身体は覚えている。

呼吸の取り方も、重心の置き方も。

だが、それを見せてはいけない――

ゆっくりと、あくまで“王女らしく”、擬態しなければ。


その瞬間。

ウラドの目が、僅かに細まった。

剣が打ち合わされる音が、乾いた金属音を立てた。


――速い。

そして覇王の剣はとてつもなく重かった。

無言で打ち合いを続ける内に、身体は無防備に喜び、いつの間にか解放された気持ちになっていた。

ああ――……楽しい…。

アーシュは無我夢中で剣をふるう。


ウラドの動きが、急に止まった。

剣を合わせたまま、息が触れ合うほどの距離で、ウラドの声が静かにこぼれた。


「もういいだろう。()()()()


剣を動かすこともできず、ゆっくりと目を見開きながら声の主を見上げる。


「お前が国の為エリシアであり続けるというなら、そのままでも良い。でも俺の前ではアーシュでいろ」

「陛下?」

「俺は誰よりもアーシュが良い」

「わたくしは……」

「俺の妃はアーシュだけだ」


どうしたら良いのか分からなかった。ただ混乱した。


「わたくしは……、わたくしには、陛下の――求める力はありません…」

「アーシュ?」

「“癒しの聖女の力”と……、わたくしの“癒しの力”は違うものなのです!」


異世界から来た少女が得た“癒しの聖女の力”。それは膨大な癒しの力で国を覆う、戦乱から守るための護国の力。一方で、王家の血に稀に現れる“癒しの力”は、ただ個を癒すだけのもの。


――私は、覇王が欲しがる存在ではない。


「私が勝手に王女として参りました! 国には何の責もございません!どうか……どうか……!」


膝をつき、何度も頭を下げる。

ウラドは目を細め、その姿を静かに見つめていた。


「アーシュ、その“癒しの聖女の力”は俺はいらん」

「え?」

片膝をつき、視線を合わせる。

そこにあったのは、覇王ではなく、一人の男の穏やかな眼差しだった。

「陛下?」


「俺が治めるのは連合国家だ。たった一国を守る結界など、最初から価値はない」

言い聞かせるように、静かに言葉を重ねる。

「分かるか?不要なのだ聖女の力は」

アーシュは目をこれでもかと見開いた。


「俺が今も、これからも望んでいるのは――」

アーシュの顎に、そっと手が添えられる。

「お前だけだ。アーシュ」


動揺したように、アーシュの目がせわしなく左右に動く。


「お前は覇王たった一人の妃として、これからも俺の側にいろ」

「陛下……」

「特に婚約者の元には絶対に戻さん」

「?」

戸惑うアーシュを見て、ウラドは短く息を吐いた。


「お前と入れ替わったエリシアはな、泣けばお前が何とかしてくれると思っていたんだろう」

「エリシア様が?」

「タイミング良く泣けば、お前が理由を聞いてくれる、怖いと言えばお前が代わってくれると」

淡々と、だが冷ややかに言葉を並べる。

「そうやって、ずっとお前に寄生虫のように寄りかかって生きてきた」


ウラドは心底呆れたような顔をして、これ以上エリシアの為に生きる必要はない、とアーシュに説く。


「泣き虫王女として諸外国にまで名が知られていたからな。あれは」

若干遠い目をしながら、低い声で呟いた。


「お前が国のため、と命をかけて嫁いできてくれて本当に良かった」

“暴虐の限りを尽くす覇王ウラド”

彼がこれまで見たことのないほど穏やかな表情で、何故か嬉しそうに笑っていた。


「アーシュしか俺には妃がいないからな。忙しくなるぞ」

「そうなのですね?」

「妃の仕事で一番大事なのは何だ?」

「陛下の補佐でしょうか?」

「世継ぎを産み育てることだ」


その瞬間、凄い勢いで実感せざるを得なかった。

恥ずかしさに頭の先まで真っ赤に染まる。

こんなに生々しく意識したことなんて、今まで一度もなかった――


私の反応が面白かったのか、ウラドは迷いなく腕を伸ばし、私をその胸元へと抱き寄せた。


「アーシュ。その名を呼ぶ権利は、俺だけのものにしたい。二人きりの時だけ……本当のお前を、俺に呼ばせてくれ」


アーシュは、覇王の温かな腕にそっと身を預け、安らいだ微笑みで頷いた。



◇◇◇



「陛下、お妃様とは上手くいきましたか?」

侍従がお茶を用意しながらウラドに声をかける。

「ああ。可愛かったぞ」

「……そんな感想は聞いておりませんが」

「今度俺も、お妃様と剣を交えてみたいなぁ」

護衛騎士が呑気な声で笑いながら言うと、ウラドはむっとした顔をした。

「だめだ。あれは俺のだ」

「我らが覇王陛下が、すっかり絆されてしまいましたね」

クスクスと笑う侍従からアーシュの国の報告書を受け取る。


「元護衛騎士の“アーシュ”嬢は、婚約者の公爵家へ行儀見習いと称して滞在しているようです」

「ほう」

「ただし――。」

「なんだ?」

「婚約者の家は嫡男の為に第二婦人を探しているようですよ」

ウラドは若干目を見開いた。

「護衛騎士だった“アーシュ・レイフェルト”嬢に欠陥があったとは思えないんですけどね」

「公爵家は第一婦人との間に子を設ける気が無い、という事か」

「更に婚約者との関係も最悪だそうで」

「どういうことだ?」

「滞在初日から、食事も何もかも別だと。かの方は毎日自室で泣き暮らしているとか」


おそらく……婚約者も王女に対する気持ちはアーシュと同じだったのだろう。

泣き続け甘える王女に、従兄として手を差し伸べていただけ――。

ただ傍目には男女の仲に見える程、親密だったと聞く。

アーシュを失って、初めて気づいたのではないか?

どれだけアーシュという女性が大切だったか。


魔力を第一主義とする公爵家において、結婚前から第二婦人を探す意味……

――おそらく王女は魔力がない。

間違って嫡男の子供が魔力なしだった場合、公爵家としての体面が潰れる。


もしくは王が一枚嚙んでいるか?

王女と、従兄である公爵家嫡男とは血が近すぎる。子をなすことを許さなかった可能性がある。

もしそうなら、我が子に対する態度としては思いの他厳しい。



「俺としては全く問題ないがな」



アーシュは国の為に、自分を捨てて命をかけて嫁いできた。

そして今――俺の傍で、生きている。

ウラドは窓の外を眺めながら、自分の唯一の妃を想う。

次は二人で遠乗りでもするか……と。




覇王ウラド・ザルツェフの治世は、驚くほど穏やかであった。

少々の内乱や外敵はあったものの、王自ら速やかに対処し、民は穏やかに、国々は豊かに息づいたという。


そして小国より嫁いだただ一人の妃が王妃となり、

ウラドは生涯、その王妃だけを深く愛し続けたという――


ここまでお読みいただき、ありがとうございました。


婚約者は、主人公が身代わりとして嫁いだことを知り、さらに王女が自分の婚約者になると告げられたとき、激しく後悔します。決して王女を愛していたわけではなかったのです。

ちなみに王女は、全部わかって主人公に泣きついていました。幼い頃に従兄の公爵令息に一目ぼれしていた王女は、今回の出来事を利用し、一計を案じます。わざと公爵令息に泣きつき、抱きしめてもらう姿を主人公に見せることで、誤解を誘う――その算段でした。


結果として、身代わりは上手くいったものの、王女自身は永遠に愛してもらえない結婚をすることになり、子を作ることも許されず、従兄は他の令嬢とも結婚する……なかなかのざまあが待っております。


短い物語ではありますが、少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。

最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。

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