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04 再会


 祝、作戦B成功!!

 皇帝と初対面を果たしてから約一ヶ月、私は父に会うため皇宮に毎日通い詰めた。最初は無視されてたしウザがられていたが、何とか懐柔(?)に成功し今や「私中々可愛がられているのでは?」と思えるほど皇帝の私への態度は柔らかくなった。


 そしてついに今日、私の手引きにより父と母は再会を果たすことになるのだ。部屋の前まで来て、やっぱり帰るなんて傍若無人の父は言い出しかねないので直前まで気は抜けなかったが、杞憂だったようだ。


「お母様、ベアトリスです!」

「ゴホゴホ、いらっしゃ…、えっ」


 今日は体調が良くないらしく、母は横になったまま此方に顔をやって私の隣にいる皇帝を見て目を丸くした。そして起き上がって挨拶をしようとしたので、父がそれを食い気味に制した。


「ど、どうして…ゴホッ」

「エリス…」


 咳き込む母を見て、父はとても辛そうに顔を顰めた。けれどその手は優しく母の背を摩っている。


「…すまなかった。」

「え?」

「これまで君から目を背けてきたこと全て、俺が間違っていた。だからどうか俺が君の傍にいることを許してくれ。」


 皇帝は項垂れて母の痩せた手に額を当てた。母は目を見開いてその様子を見、何かを言おうと何度か口を開いたがその度に咳き込み、ようやく少し落ち着いた時には赤い瞳に薄い涙の膜が張っていた。


「…私の傍に居てくれるの?」

「あぁ、いくらでも。」

「嬉しいわ。私が醜くなったから、貴方は私が嫌いになったんだと思っていたの。」

「そんな訳ないだろう、今でも君は綺麗だ。それに見た目なんてどうでもいいんだ。」

「…そう。」


 母は嬉しそうに、花が綻ぶように笑った。この笑顔が見れただけで私は十分だ。

 前世で一応二十年以上は生きた身だ、後はお若いお二人で〜…という気持ちでひっそりと部屋を出ようとすると、母付きのベテラン侍女のジョアンナががっしり私の腕を掴んだ。

 えっ何、いつも笑顔で静かに私と母を見てるから穏やかな人だと思ってたんだけど。意外と力強いな!


「皇女様、何処へ行かれるのです?」

「い、いやちょっとお手洗いにでも行こうかなーと…」

「そうですか、お腹が痛い訳でないのならどうか後にしてください。せっかくお父上とお母上がいらっしゃるのですから。」

「えぇ…」


 いやでも私普通に邪魔でしょ…完全に二人の世界入ってるじゃん、と思いベッドの方へ視線をやると、予想外に母と目が合った。


「ベアトリス、こっちへおいで。」


 母がいつもそうするように私に向かって両手を広げてくれた。しかし父は母との時間を邪魔されたくないのでは…?と思い躊躇っていると、それまでずっと母しか見ていなかった父が此方を見た。


「何やってる、エリスが手を広げてるぞ。」


 もしかして、私もそこに入っていいの…?

 早くしろと言わんばかりに父が眉間の皺を濃くするので、ついに私は母の胸に飛び込んだ。

 母の優しい匂いだ。不意にぽすり、と頭に硬い手が置かれた。驚いて父の方を見ると目を逸らされてしまったが、それでも両親の温かさを感じられる時間だった。

 前世での両親は、娘である私を自分の装飾品としてしか見ていなかった。フェンシングで世界優勝を飾った優秀な娘、素晴らしい結婚相手を捕まえた娘。そんな価値を常に求められていた。

 けれど今の両親は違う。私は、兄姉は当然使用人にすら見下されるような出来損ないだ。それでも私が感じることができたのは、確かに二人からの愛だった。


「ゲホ、ゴホ、ッ、ところで、ベアトリスが貴女のお父様を此処に連れてきてくれたのね?」

「うん、だってお母様、お父様に会いたそうだったから。」

「ならお前まさか、このためだけに俺に毎日会いに来てたのか?」


 微妙な顔で父がそんな風に言ってくるので、機嫌を損ねてはいけないと思い「ちっ、違います!それとこれは別で、私はお父様とお話したかったから会いに行ってたの!!」と慌てて否定しておいた。

 父とあまり仲良くなりすぎると良くないのでこれから距離を置こうと思ってはいるが、此処で母のために父に近づいた、実はずる賢い奴だと思われるのはまずい。


「二人が仲良くなっていて嬉しいわ。シルヴェスター、この先もどうかこの子をお願いね。」

「…まぁ、此奴の方から俺に会いに来るからな。」

「ふふ、ベアトリスはお父様が大好きなのね。」

「…」


 え、いや何満更でも無い顔してんの?ていうかこれからも私が毎日皇宮に行かなきゃならない流れになってない…?


「でも私これから授業も始まるし…」

「それは七歳からだからあと二年後なはずだが?」

「新しい友達が欲しいなぁなんて」

「それなら皇宮に招待すればいいじゃない。」

「うーん、やっぱり飼い始めた猫が体調悪そうだから…」

「皇宮専属の医者に診せてやってもいい。」

「…じ、実はちょっと太った気がするの!お父様とのティータイムの時にお菓子を食べ過ぎたかも…」

「あら、私と同じで太りにくい体質なはずよ?それに全然変わってないと思うけれど。」


 そうそう、ありがたいことにベアトリスの体は代謝が良いのか太りにくいのだ…じゃなくて!

 何も父と過ごす時間が嫌な訳じゃない。そりゃリラックスはできないけど、前みたいに怖くはないし楽しい。けどこれ以上皇帝と距離が縮まってしまうと不味いのだ。


「お前が第七皇女だな?」

「…」

「ふーん、噂に聞いた通り気弱な奴だ。」


 ほら、こうなるから!今後面倒事が起きるであろうことを予想し、私は一人頭を抱えるのだった。


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