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15 イヴォンヌとの別れ


 帰り際になると、何ともう何人もの神官が手枷を嵌められ聖騎士によって連行されている最中だった。

 少し話しただけでこんなにすぐ解決しそうになるなんて、シャルル・グレン枢機卿…彼の握る権力とその手腕が窺える。時々聞こえてくる騒ぎの内容からしてまだ大司教は捕まっていないようだが、この調子なら時間の問題だろう。

 はぁ、それにしても環境は前と全然違うにしてもイヴォンヌを神殿に帰すことになっちゃうなんて、テオが怒るかなぁ…と多少不安に思いつつも馬車に乗り込もうとした時、枢機卿が「あ、今彼処にお見えになっているのがエセルレッド教皇猊下です。今は見ての通り忙しくご挨拶できないと思うのですが、また後の機会に。」と言ってきた。見れば神官の服を纏い、優しそうな、けれど瞳には確かに強い光を宿した中年の男性が聖騎士に指示を出している。


「(あの方が教皇猊下ね…、ん?)」


 教皇の後ろに、一際目を引く美しい少年がいることに気がついた。淡い金の髪に蜂蜜色の瞳。誰だろう、神官候補生かな…?まるで天使のような外見の子だ。

 まじまじと見ていると、ふと少年も顔を上げ、ばちりと目が合った。


「シャルル枢機卿、あの子は…?」

「あの子?…あぁ、あの方は」


 枢機卿の言葉の途中で一人の聖騎士が此方に駆けつけてきた。


「シャルル枢機卿!大司教の身柄を捕らえたのですが、神聖力を使いご乱心です!どうか救援を…!」

「すぐに向かおう。大司教は今何処に?」

「自室にいらっしゃいます!今は指折りの聖騎士が何とか取り押さえていますが、いつまで持つか…!」

「分かった。…お見送りができず残念ですが、皇女様。」

「はい、私のことは気にせず行ってください。枢機卿の無事を祈っています。」

「ありがたきお言葉。では失礼します。」


 神殿の悪事を告発した私を恨んで誰かしら追ってくるんじゃないかとヒヤヒヤしたものだが、後から聞いた話だと枢機卿は完全に大司教と司教を取り押さえるまで告発のことを誰にも話さないでいないでくれたらしい。

 大司教と司教が裁判にかけられて処刑され、関わった神官たちも牢獄行きになり、子供たちは解放されて地下室が完全に封鎖された頃にようやく此度の不祥事発覚は第七皇女によるものだと公表された。


「すごいわベアトリス、一度しか神殿に行ったことがないのによく気がついたわね!」

「いいえ、地下室を抜け出したイヴがたまたま居た私に教えてくれただけなので、私は何も。」

「それでもちゃんとそれを理解して枢機卿にお伝えしたんだもの、誇っていいのよ。貴女は多くの子供たちの命を救ったのだから。」

「だが神殿で大司教が抵抗して暴れている時もその場にいたそうじゃないか。別邸での件もそうだが、面倒事は起こすなと言っただろ。」

「もう、シルヴェスターったら。素直に心配だと言えばいいのに。」

「別に心配はしていない。」


 微妙に父はご立腹だったが、母は頭を撫でてくれたし今まで私を毛嫌いしていた貴族たちも珍しく私を褒め讃えた。

 私が何故大司教の悪業に気づくことが出来たのかは、公には地下室を抜け出すことに成功したイヴォンヌが私にそれを伝えたためだということになっている。枢機卿にお願いしてそのようにしてもらったのだ。


「私にも何故地下室の子供たちに気づいたのかは教えてくださる気にはならないんですね?」

「はい。私は基本秘密主義なので。」

「そうですか、それは残念です。」


 枢機卿もそこについては深堀りしてこなかった。 もうどうせこのずる賢い本性はバレてる訳だし、私にとって枢機卿は唯一の本音で話せる相手だ。枢機卿もそんな私を受け入れているようで、対等な取引相手に対するような態度をとってくれるのだ。


 そんな彼がいる所になら安心してイヴォンヌを任せられるというものである。言葉通り枢機卿は全てが片付いた後で、神官候補生としてイヴォンヌを馬車で迎えに来てくれた。


「ベアトリス様…」

「イヴ、そんなに悲しそうな顔をしないで。大丈夫、このシャルル枢機卿はとても良い方よ!ほら、絵本の王子様なお顔でしょ?」

「恐縮です、皇女様。」

「はぁ?!何言ってんだよベアトリス、そんな奴より俺の方がイケメンだし!なぁイヴ!」


 ついにイヴォンヌが皇宮を出てしまうということで数日前からしょげていたテオが、私が枢機卿を褒めた途端勢いよくそんなことを叫ぶので思わず笑ってしまった。

 テオはイヴォンヌの兄貴分のつもりらしく何かと格好つけたがるから、今私がイヴォンヌの前で枢機卿の顔を褒めたのが気に入らなかったのかな?

 ぷんぷん怒るテオを見てイヴォンヌはようやく少し顔を綻ばせた。おお、さすが兄貴分。


「大丈夫、イヴが寂しくならないように私絶対神殿に会いに行くから!毎日行くから!」

「いや毎日は無理でしょ…」

「俺も!俺も行く!」

「テオまで何言ってんの。」


 一緒に見送りに来ていたノアがすかさずツッコミをいれる。ここしばらくの日常の光景だ。イヴォンヌはそれに安心したのか「絶対会いに来てくださいね。」と言って馬車に乗り込んだ。


「イヴーーー!言い忘れてたけど頑張りすぎ厳禁だからね!!」

「あっそうだぞー!!前から言おうと思ってたけどお前聖書の勉強しすぎーー!!」


 遠ざかる馬車に向かってテオと競うように大声を出すと、イヴォンヌは何度か目を瞬かせた後、まるで花が咲いたような笑みを浮かべ大きく手を振った。

 私もテオもノアも、馬車が見えなくなるまで手を振り続けた。


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