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11 やるべきこと


 比較的平和な日常が訪れた今、ゆっくりグダグダ過ごしたいところだが…私にはまだやるべきことがある。


「だってこのままだったら世界滅亡しちゃうかもしれないしなぁ…」

「は?世界滅亡?」

「絵本の話ですー。」


 『ダイスダーグ戦記』は、後に“魔王”と呼ばれる邪悪な人物が世界に多くの魔物を放つシーンから始まる。この世界には魔物が存在するが、数はそんなに多くなく人間を脅かすような脅威にはなり得ない。しかし魔王によってその数は数倍に増え、人間同士で領地を取り合って戦争しているどころではなくなった。世界中で一時停戦が宣言され、強い魔法士や実力を持った騎士が魔物退治に奔走し、魔王討伐部隊が結成されることとなる。

 “ベアトリス”はそんな魔王討伐部隊の一人で、魔王討伐に大きく貢献する勇者だ。

 だけど私は魔王討伐部隊なんかに参加したくない。『ダイスダーグ戦記』を読んでいれば誰でも分かることだが、魔王討伐部隊に入ったら最後、めちゃくちゃ危険な目に遭うし世界からのプレッシャーも半端じゃない。

 魔王との戦いではもちろんのこと、それまでに三人の魔王幹部と戦うことになるのだがそれで何度も死にかけることになるだろう。原作でベアトリスは魔王討伐までに死ななかったとはいえ、命の保証はない。


「お父様」

「なんだ?」

「もしも私がすごーい力を持っているとして。」

「有り得ないな。」

「もしもですって!で、この帝国から一人は必ず危険な戦いをする部隊に参加させなきゃならないとして。私のことは…」

「参加させない。」

「お父様〜…」


 嬉しいような残念なような…、いややっぱり嬉しい。私は父のお腹にぐりぐり頭を押し付けた。以前ならこんなことしたら首が飛んでただろうが、今や父は黙って私の頭を撫でるだけである。

 この世界には大陸を代表する五大帝国が存在する。そんな五大帝国の皇族から一人ずつ指折りの実力者が招集され魔王討伐部隊は結成されるのだが、五大帝国の一つであるフィニアン帝国の代表として招集されたのはベアトリスだった。

 実力でいえば一番の強者は第一皇子だと言うが、皇太子である彼を危険な戦場に行かせる訳にはいかないということで、強い神聖力を持ち且つ出征に反対する母親も既に亡くなっていたベアトリスが選ばれたという事情だ。

 しかし、今の会話で父が私の出征に反対するであろうことが明らかになった。母も当然反対するだろうし、帝国の皇帝と皇后の両方が反対すれば今後私に神聖力があることが知られても私が魔王討伐部隊に選出されることはまず無いだろう。

 そこで一つ問題になるのが、“ベアトリス”無くして魔王討伐は叶うのか?ということである。原作での彼女の活躍は目を見張るもので、強大な神聖力を駆使して他の勇者たちを窮地から幾度となく救い、亡き後も彼女の数々の逸話は後世に語り継がれることとなるほどだ。


「(討伐部隊には絶対参加したくないけど、魔王討伐に失敗して世界が滅亡して結局また若くして死んだらたまったもんじゃないしなぁ…)」


 私が魔王討伐部隊に参加しない且つ、世界滅亡も回避する方法。それは一つだけある。

 ずばり、“ベアトリス”の代わりとなる神聖力の使い手を探し出すことだ。


 という訳で、私は早速帝国の神殿に出かけることにした。


「ようこそいらっしゃいました、皇后陛下、第七皇女殿下。皇后陛下、すっかりお元気そうで何よりでございます。」

「あら、レジーナじゃないの!その節はお世話になったわね。ベアトリス、この人は女神官のレジーナ・クラウン嬢よ。私が神殿で治療を受けた時に仲良くなったの。」

「初めまして、私のことは気軽にレジーナとお呼びください。」


 母はシェリル妃からの呪いを解くため、一定期間神殿で過ごしていた。その際に母の世話役を担当したのがレジーナで、話をするうちに仲良くなったらしい。


「初めまして、レジーナ。私は第七皇女のベアトリス・デル・フィニアン。私のこともベアトリスと呼んで!」

「恐れ入ります、ベアトリス様。」

「今日はこの子が神殿に来てみたいというから連れてきたのよ。貴女が案内してくれるのかしら?」

「はい、広いので時間がかかってしまうと思いますが、お疲れになりましたらお声がけくださいね。」


 神聖力を扱える者は極わずかだが、実は神聖力を持っているという人は一定数存在する。実際神殿でも神聖力を扱えるのは今のところ教皇と枢機卿、大司教のみで、神官はその身に神聖力を宿している者がなる職業らしい。


「何だか楽しそうね、ベアトリス。初めての宮殿外への外出だから張り切っているの?」

「へへ、そうみたいです。」


 ベアトリスが強大な神聖力の持ち主だからだろうか、神殿はとても居心地が良く体が軽い。そよそよと風が肌を撫で、何だか訪問を歓迎されている気分だ。


「此処は小祠堂です。代々皇族が祀られるべき所ですね。そして彼処に見えるのが第二中庭、その更に奥が礼拝堂になります。」

「貴女の祖父母様、曽祖父母様も此処にお眠りしているのよ。」

「へぇ…あっ、私先に行って礼拝堂でお祈りを捧げてきます!」

「え?それなら私たちも一緒に…」

「いいえ、私一人でたくさんの時間お祈りすることが絵本で読んでから憧れだったんです!二人とも絶対来ちゃダメですからね!」

「あっ、そんなに走ったら…全くもうあの子ったら。」

「ふふ、初めての神殿が物珍しいのでしょう。」

「そうね、これからは色々な所に連れて行ってあげようと思うわ。さ、それじゃベアトリスのお祈りが終わるまで私たちは中庭でお茶でもしましょう。美味しいクッキーを持ってきたのよ。」

「まあ、光栄です。」


 母たちがティータイムの準備に取り掛かったのを見届けてから、私はひっそりと礼拝堂に足を踏み入れた。


「わぁ…」


 ステンドグラスが光に照らされて輝き、礼拝堂はとても神々しく美しい場所となっていた。

 しばらくぼうっとその光景を見ていたが、今日の目的を思い出して慌てて礼拝堂の奥に進む。もちろん目的というのはお祈りをすることではない。


「確かここら辺に…、あった!」


 主祭壇の右奥のカーテンの裏の床を調べると、一つだけ色の違う木材でできている。爪をひっかけると案外容易に板を外すことに成功し、地下室へと繋がる鉄製の梯子がかかっているのを見つけた。


 輝かしい見た目に反して、神殿は腐っている。

 実は私が今いる梯子を降りた先の地下室には多くの神聖力を持つ子供たちが閉じ込められており、神殿の実験台となっているのだ。原作でベアトリスがそれに気づいて子供たちを救済し、それもまたベアトリスを讃える一つの逸話になる。

 けれど実際子供の救済を成し遂げたのはベアトリスが大人になってからだし、今の私に子供たちを助けるほどの権力はない。この帝国で神殿の力はそこまで強いと言わないとはいえ、一定の権力を持っていることは事実だ。私が今神殿の悪事を告発したところで簡単にもみ消されるだけだろう。

 だから今日は、閉じ込められているある人物一人を此処から出しに来たのだ。


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