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10 事件の収束と平和な日常


 その後、シェリル妃は側室の身分を剥奪されアラビゴ王国に送り返されることとなった。第三皇子であるレナルドを勝手に投獄したことが露見し、レナルド自身もこれまで受けてきた数々の虐待を告発したからである。加えて、驚くべき事実が判明した。


「っ陛下、発見しました!」

「チッ、あの女…まさか懲りずに裏でこんなことをしでかしているとは…!」


 シェリル妃は母に呪いをかけていた。禁断とされる魔法の一種で、母はそれによって肺病を拗らせていたのだった。


「あぁ、なんて息がしやすいんでしょう。」


 呪いを解いて初めて母が皇后宮の外に出ることができた時には、嬉しくてつい母に飛びついてしまった。父も涙を流して喜んだものだ。

 口には出さなくても皆母の近い未来の死を予感していたし、私も原作で確定している病による母の死は覆せないものだと思っていた。けれど、これからもこの優しい母と一緒に生きていけるのだ、こんなに嬉しいことはない。

 しかし、そんな喜びの中でも懸念点が一つある。何故大して強い魔力を持っている訳でもないシェリル妃がそんな大層な呪いをかけられたのか、ということだ。


「これほどの呪いはしばらく神殿に留めて浄化するしかないでしょう。」

「解呪にも相当な神聖力を要します。」


 母の呪いを解く前にそんな会話が繰り広げられていたのをたまたま聞いてしまい、それはびっくりしたものだ。原作ではシェリル妃の仕業どころか呪いだとすらバレることなく“皇后は肺病で死んだ”とされ、完全犯罪が成立していることになるのだから。

 しかしまだ考えてもしょうがないことではあるので、ひとまずこのことは私の頭の片隅に置いておくことにした。


 シェリル妃は呪いの痕跡が発見された時は至って大人しかった。ただ母のことを「死んで当然の女」だと繰り返しうわ言のように呟いていた。

 しかし、罪を重ねすぎたために離婚となり国に返される時だけは、それまでの態度が嘘のように泣き叫んだ。


「私を捨てたら絶対に後悔するわよ!!私はっ、私はただ貴方に愛されたかっただけなのに…!!レナルドっ、貴方母親にこんなことして許されると思ってるの?!アマンダ、早く私を助けなさい!!」


 一応側室だったことは事実なので、馬車に乗るシェリル妃…いやシェリル王女を皇族を含めた高位貴族が見送ることは義務付けられた。

 あまりに暴れるので腕枷を付けられ馬車に乗る彼女の様子を、レナルドは複雑そうな表情で見ていたし父は一瞥して「早く馬車を出せ」と御者に指示している。けれどそれでも馬車に近づく人物が一人いた。

 原型が分からないほどに顔を殴られ、包帯を巻いた別邸の侍女長…アマンダだった。

 本来なら彼女も一緒にこの国に来たシェリル王女と一緒に自国に帰るはずだったのだが、レナルドがそれを止めて自分の侍女に推薦したらしい。


「姫様…」

「私を姫と呼ぶな!!離婚されたことをバカにしているのね?!」

「いいえ、姫様。ただこれだけお伝えに参りました。姫様はレナルド殿下のただ一人の母君ですが、貴女が今後殿下に会うことは許されません。けれどどうかご安心ください、私がレナルド殿下の成長なさったお姿を、いつか必ず姫様にお見せして差し上げますから。」

「そんなことどうでもっ」

「馬車を出してください。」


 そして侍女長はレナルドを振り返り、「いつかお母上に立派な姿をお見せする時がきたら、きっと姫様はうんと後悔することでしょう。」とだけ言って笑った。レナルドは頷いて、去っていく馬車をいつまでも見送るのだった。



━━━━━━━━━━━━━



「それで、そうしたらお母様がすぐに私のお人形を治してくださったんです!」

「エリスは手先が器用だからな、それくらい赤子の手をひねるようなものだろう。」

「私もお母様のみたいになれるように、お裁縫頑張ります!」

「ああ。」


「おいベアトリス、お前また俺のグローブ隠したな…って、父上!」

「レナルドのグローブ隠すのはいいけど、僕の部屋に隠すのはほんとやめてよね。」

「おいノアそれどういう意味だ!」

「痛だだだ?!俺はテオだよ!ノア、俺のこと盾にすんのやめろ!」

「レナルドお兄様が剣の稽古ばっかりするからです!努力のしすぎも良くないんですよ!」

「此処も騒がしくなったものだな…」


 相変わらず父は塩対応だが、騒ぐ私たちに冷たい視線を向けることもなく優雅に紅茶を啜った。母が健康になり、よく二人で笑いあったりしている効果なのか性格が丸くなったような気がする。

 レナルドはまだ心の傷が完全に吹っ切れた訳ではないにせよ、別邸での一件以来皇太子宮でノアやテオと親しくなったみたいでこうして一緒にいるのをたまに見かける。兄弟仲良しこよしとはまではいかなくても広い皇太子宮で誰とも口きかないなんて寂しいもんね!

 私は私で変わらず父とティータイムを楽しんだり、母とお喋りしたり、偶に例の天真爛漫妹として兄たちに絡みに行ったりしていた。積極的なアピールには継続が大切なのである。

 こうして私には束の間の平和な日常が訪れていたのであった。


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