出会い(図書館)
春の暖かな日差しの中、俺は市営の図書館に来ていた。
本の香りと、時たま新聞を読んでいる人の紙をめくる音が、パラパラと聞こえてくるほど、静寂している。
こういう所は物音を立てないようにしなければと、いつ来ても少し緊張してしまう。
何か面白そうなタイトルの文庫本でもないかと、棚をぐるぐると回る。
ないと分かると、他の分野の本棚も見て回る。文庫本でなくても意外と面白そうなタイトルの本が目に留まるときがある。
そんなことをしていると、一人の女性に目がついた。
長い黒髪の女性は、まるで小動物のように愛らしい。小さな背を伸ばして、上段の方にある本を取ろうとしているようだ。
俺は、そんな女性を助けたいと思い、声をかけた。
「この本ですか?」
俺が彼女が取ろうとしていた本を指差すと、女性は少し焦りつつ「あ、はい」と返事をした。
彼女が指定した本を取り、女性に手渡す。
女性はお礼を言うと、受付カウンターに行き、本を借りて図書館をあとにした。
(なんか恋愛の物語とかでありそうな、ベタな出来事だったな。こんなことってあるんだ……)
心の中で笑いと自分が人に優しくできたことを誇りに思い、再び自分が読めそうな面白い本を探す。
だが、探そうとしても、先ほどの女性の表情が頭に浮かぶ。
どんな物語よりも、心躍る出会いであった。
また彼女に会えるだろうか?
その時は少しでも話せたらいいなと思い、俺も図書館をあとにした。
読んで頂きありがとうございます。
練習作品です。
作風を広げたいため、恋愛ものの冒頭部分を強化してみようと思い、書いてみました。