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異世界ハーレムライフがなんか思ってたのと違う  作者: 白宵玉胡
紐解かれる混沌とした世界
9/25

愛の形は血を以て型取る

 「ソウタさん…あなた、本当に何も知らないんですね。この国にはそもそも男の人はいないんですよ?」


 「…へ?」



 シラノはあたかも当然かのような顔をして言う。一瞬俺が間違っているのでは無いかと錯覚してしまいそうになる。



 「あ、すみません…それは《《私の世界》》だけでしたね…でも私が暮らしている世界には、つい最近まで男の人はいませんでした」


 「…は?お前の世界…?男がいないって…意味がわからねぇよ!」


 「だから…!」



 シラノは飛びつくようにして俺を押し倒した。その目はもはや理性を失っているようだった。



 「あなたは、顔も名前も覚えてない父親にかけられた呪いから解き放たれて、ようやくありつけた私の愛の形なんです。私の世界で、私に男の人の温もりを最初に教えてくれたのはあなたなんです。この温もりを離すわけにはいかない…そして誰にも感じさせたくない…ずっと、私のものですから」



 シラノはさらに体を寄せ、俺を絶対に離すまいと強く抱きしめてきた。シラノの息が俺の顔に当たるたび、俺の鼓動が早まるのを感じる。



 「それが…お前が俺に執着する理由だってんのか?だからって俺をずっとここに閉じ込めておくつもりか?」


 「そんなこと言って、ずっとドキドキしてるの、知ってるんですよ?本当は私と一緒にいるのが心地いいんですよね?」


 「んな訳あるか…むしろ俺はお前に恐怖を抱いているまであるんだが…?」



 俺は必死に弁明しようとするが、俺が何を言おうとシラノはもう聞く耳を持ってくれなさそうだ。世界から与えられた絶対的な力の前では何人たりとも争うことができなくなってしまうのだろう。それにしても、シラノの父親がシラノにかけた呪いというものが気になる。残念ながらそれに対して問い詰める余裕はないのだが。



 「遠慮しないでいいんですよ?まぁ何にせよ、この家で最初にあなたに会ったのは私ですから、私があなたの所有権を持つのは当然です。…では、また後で会いましょう…ソウタお兄ちゃん…?」

 

 「…!シラノ…待て…!」



 シラノは俺に小さく微笑みかけると、そのまま部屋を出ていってしまった。本当に俺はここに縛りつけられたまま一生を終えることになるというのか…俺は考えるのも面倒になり、深いため息をついたあと、静かに目を閉じた。


 それからどれだけの時間が過ぎただろう…俺はあれから、シラノがいない時は静かに眠り、シラノがいる時はセクハラまがいな事を受け、定期的に持って来られる食事を食べることを繰り返していた。みんなには俺は風邪をひいているということにしているらしい。流石にもう精神が限界に達してしまいそうだ。ずっと体を動かせていないせいで体の感覚はほとんど失われてしまっていた。そんな死んだ魚のような目をしている俺のもとに、今夜もシラノが食事を持ってやってきた。



 「ソウタさん。今日も来ましたよ…すみません、お昼は忙しくて来れませんでした…今日の夕飯はマンドーグ、それと野菜スープです」 



 シラノは夕食の乗ったお盆を俺の足元に置いた。いつもこのようにしてシラノがスプーンやフォークで俺の口に食事を運んでくるのだ。



 「…これは、ハンバーグか?」


 「はい?…その、はんばーぐ…というのは分かりませんが、親近感のある料理だったのならよかったです。今日は私の特製なんですよ?」



 そう言ってシラノはいつも通り満面の笑みを浮かべて俺の口にマンドーグを運ぶ。一口マンドーグをかじってみると、やはりハンバーグのようだった。だがどこか違和感のある味をしている。



 「シラノ…これ、何か入ってるか?」


 「え?…あ、はい…気づいてくれたんですね。実は、隠し味を少しだけ…えへ、これなんです」



 シラノはそう言って照れたような表情をしながら俺に血まみれの腕を見せつけてきた。要するにそういうことなのだろう。血液入りハンバーグとは…バレンタインでも見ないぞ…



 「は?お前…まじかよ」


 「はい…!喜んでいただけましたか?喜びますよね、当然ですよね?だってあなたは私のことが大好きで仕方がないんですから…!」



 シラノは狂ったように笑いながら俺に抱きついてきた。今まで何度もシラノにこうされて来たが、今回はそのどれよりも強く抱きしめている。



 「仕方ないから…もっと近くに…そして一つになりましょう…」



 そう言ってシラノはポケットから小さなアーティファクトを取り出した。注射器のような物に赤い液体が入っている。その赤い液体が何なのかはわからないが、まずいことだけは本能的にわかる。



 「まっ、待て!シラノ!落ち着いてくれ!』


 「何でですか?これを打ち込めば、私たちは本当に一つになるというのに…」



 シラノはなぜか不思議そうな顔をする。おそらく自身の想像以外の結論を絶対に受け入れられなくなっているのだろう。一つも疑いのない純粋な目が、歪んだ良心で俺を縛り付けるように睨んでくる。そしてシラノがついに俺の腕に針を刺そうとしたその時だった。突然扉が凄まじい音と共に蹴破られたかと思うと、部屋の中に金色のポニーテールを大きく揺らしている少女が雷光の如き勢いで飛び込んできた。



 「シラノちゃん!ソウタくん!」


 「ルカ姉!何でここに!?」



 見ると、そこにいたのはルカ姉であった。金色の長い髪を高く結び、全身汗だくの状態で息を切らしている。



 「任務中にアクラマちゃんから連絡があったの。シラノちゃんの部屋から変な物音と口論の声が聞こえてくるって…急いで駆けつけてみたけど、確かにこれはウチにしか解決出来そうにないみたいだね…」



 そう言ってルカ姉は静かにシラノに歩み寄る。…確かに感じる恐ろしいまでの殺気…普通ならたじろいでしまいそうになる。しかしシラノは全く怯むことが無かった。近くに飾ってあった青白い剣のようなアーティファクトを手に取ると、目の光を消して鋭くルカ姉に剣先を突きつけた。



 「…あと少しだったのに…またあなたなんですね、ルカネさん…あの時は負けてしまいましたが、今回はそういう訳にもいきません。あなたの息の根を止めて、目的を遂行してみせます」


 「シラノちゃん…君がいつどんなことをしようとも、ウチは何度でも君を止める。ソウタくんを奪わせるようなことは絶対にさせない!」



 ルカ姉が手を振ると、空中に淡い光を放つ濃い桃色の槍が現れた。ルカ姉はそれを素早く掴むと、突きつけられている剣先に向けて槍先を突き返した。殺意と殺意が交わる混沌とした空気に、俺は思わず自身の存在ごと飲まれてしまいそうになっていた。


ここまで読んでくださりありがとうございます。少しでも面白いと感じていただけたなら幸いです。

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