美少女に囲まれて食うメシは美味いらしい
「ねえ、起きて…起きてってば!」
誰かの声が聞こえる…優しい声だ。今まで聞いたことのないような優しい声…
「ん…ん?…zzz…」
「えっ、ちょ、寝ないでよ!君が寝たら歓迎会始めらんないじゃん!?」
「…え?…うわ!?寝ちゃってた!?」
俺は慌てて飛び起きた。気づけばうっかり寝てしまっていたようだ。時計を見ると三十分ほど立っているようだった。
「よかった…まだそんなに時間は経ってない…ところで、君は?」
俺の目の前にはホド姉さんでもシラノでもない少女が立っている。CDの裏のような不思議な色彩の瞳をした俺と同い年くらいの少女だ。
「あたしはエルマ・セノウ。年はあなたと同じはずよ。ホド姉さん、あたしがあんたと同い年だからってあたしに起こしに行くように言ったの。全くいい迷惑よね…まぁいいわ、早く行きましょう。みんな待ってる」
そうして俺はベッドから起き上がり、眠気が醒めないまま一階へと降りていった。
「うわ…なんだこの状況…」
一階のリビングに入ると、豪華な料理の数々をたくさんの美少女が囲んで待っていた。ようやく異世界ハーレムらしくなって来たではないか。
「いらっしゃいねぼすけさん、待ってたよ?ずっと」
早速ホド姉さんが出迎えてくれた。どこか様子がおかしい気もするがさっきと変わらず優しい笑顔だ。もしかして迷惑をかけていただろうか…
「それじゃあ、君の家族を紹介するね。全部で八人いるから、すぐに覚えろとは言わないけど、頑張って覚えてね?じゃあまずは…」
ホド姉さんは長いテーブルの横にあるソファに座った少女のもとに駆け寄った。大人びた体つきをしているがどこか幼さの残る顔だちをしている少女は、ずっと手元のガラス瓶の中身を見つめながら小さく笑みをこぼしている。
「この子はパル・シュシュちゃん。エルマちゃんよりも一個上だから、君の一個上でもあるよ。風原霊を集めるのが趣味で、君がこの子を見るほとんどの時はこういう状態だと思う…パルちゃん、ソウタ君に挨拶して?」
「ん?ああ、よろしくね?」
パルは俺に軽く挨拶をするとまたすぐにガラス瓶の方を向いてしまった。この子は時間をかけてじっくりと開拓していくとしよう。
「それじゃ、次は…よし、ミュインちゃんいってみよう!」
ホド姉さんが次に指名したのは、俺よりも身長が高く筋肉もある威圧感満載の女性だった。
「ああ!私はミュイン・アノムチルだ。この家では二番目に年上になる。見ての通り生粋の武人なんだ。いつか一緒に隣町のアンデッドモンスターを退治しに行こう!」
「はっ、はい!その時はよろしくお願いします!?」
凄まじい威圧に萎縮してしまいそうになる。ミュインの姉貴をしっかり攻略できるかどうか不安になってきた…
「んじゃ、次はウチかな!」
そういって突然俺の背後から一人の少女が飛び出してきた。音もなければ気配もなかった。そもそもさっきまでこの場にいたのかいなかったのかすらわからない。
「うわ!?びっくりした!」
「へへっ、これが隠密魔法だよ!普段はスパイとして活動してるんだ。あ、敵に情報売らないでよね?…それじゃあ自己紹介!ウチは我らが聖炎八姉妹の三女、ルカネ・ストークだよ!ルカ姉って呼んでね!」
「えっ、あ、はい?ルカ姉?」
「そうそう!」
…なるほど、そういうタイプか。天真爛漫な少女系というわけだ。こういうのは案外仲を深める分にはさほど難しくない。それにしてもルカ姉と居るとどことなく前向きな気持ちになって自然と口角が上がってしまう。
「ああ…私が何か言うまでも無かったみたいだね…ソウタ君も楽しそうでなによりだよ、うん」
ホド姉さんはそう言って頭をかく。…それにしてもやっぱり変だ。さっきからホド姉さんを見るたびになんとなく機嫌が悪くなっていっているように見える。やっぱり寝坊したことを怒っているのだろうか…
「んじゃ、今度こそ。君の一つ下の子を紹介しようかな?」
ホド姉さんはミュインの姉貴の後ろをちらっと覗く。
「あーやっぱりここだ。この子、小柄だからミュインちゃんと一緒にいるとよくどこに行ったかわからなくなるんだよね…」
しばらくしてからミュインの姉貴の陰から出て来たのは、華奢な体つきをした少女だった。
「えっとーこんにちは、男の人。私はクイナ・ジュナイ。見ての通り背が低くて、たまに見失っちゃうかもだけど、これからよろしくね」
「ああ、よろしく。…それにしても、身長何センチなんだ?」
「えっとね…多分123センチくらいじゃない?私の家系は代々身長が低い家系なの。あ、でもでも!これでももう十五歳なんだから!」
クイナは気恥ずかしそうに言う。そう言う一族なのだろうが、身長のせいでどうしても俺の一歳下とは到底思えない。年下のシラノと比べても頭一個分以上は違う。ロリキャラは俺の趣味ではないのだが…
「んじゃ、あとは…アクラマちゃんかな?…って、またどっか行ってるし…」
ホド姉さんは部屋の角っこの壁の方を向いた。だがそこには人は疎か物すらないが…
「えっと…あの子ちょっと人見知りで、いっつも隠密魔法で隠れちゃうんだよね…そのせいもあってか隠密魔法だけならルカネちゃんよりも洗練されてるんだ…」
「そうそう、だからいっつも、一緒にスパイやろう!って言ってるんだけど、なかなかしぶといんだよねー…」
ルカ姉は苦笑いを浮かべて頬をかく。そうしていると、ホド姉さんはいつの間にかどこからか何色にも光り輝く球体を持ってきていた。そして不敵な笑みを浮かべると、壁に向かってそれを投げつけた。その瞬間、辺りは眩い光に包まれ、それと同時に何も無かったはずのところから一人の少女が現れた。
「やっぱり壁に擬態してたんだね。今日みたいにこれだけ物が多いと擬態できる場所はここくらいしかないと思ったんだよー」
「はぁ…姉さんは変なところで勘がいいよね…えっと、私はまだ心の準備が…」
少女は幽霊でも目にしたかのような顔をして下を向く。もう今にも泣き出してしまいそうである。
「しょうがないな…んじゃ私から紹介するよ。この子はアクラマ・デルヴィーちゃん。うちでは二番目に年下なんだ」
「そうなのか…ってことはシラノは最年少だったわけだ。…よろしくな、アクラマ」
「はっ、はい…よろしくお願いします…うう」
それだけ言うとアクラマは透明化してどこかへ行ってしまった。扱いづらくはあるが、心を開いてくれさえすればよく懐いてくれそうな子だ。これは攻略のしがいがある。
「えっと、後の三人はもういいかな?大方わかってるよね?あはは…んじゃ、料理が冷めてしまう前に食べよう!今日は奮発してドラゴンの尻尾を買ってきたんだからね!」
そんなこんなで俺たちは、豪華な夕食を平らげた。ちなみに一番美味しかったのはヌクルトッポという鳥の卵で作った、「ホムボム」という、何かわからないが美味しい具材がタマゴに包まれているものだ。これに関してはエルマも気に入っているらしく、初対面ではクールな印象だったが、今は目を輝かせて口いっぱいに頬張っている。美味い飯と美少女…俺はこれまでの人生で一番幸せな夜を過ごした。
…その晩、俺が寝ていると、トン、トン、トン…と、妙に重々しく部屋のドアをノックする音が聞こえてきた。
「ソウタ君、ちょっといいかな」
「…ホド姉さん?どうしたんですか?こんな時間に…」
声の主はホド姉さんだった。しかし昼間のような明るい印象はなく、妙に低い声でゆっくりと話しかけてきた。まるで別の人格が出て来たようである。
「えっとね、ちょっと聞きたいことがあって」
…この時はまだ、ホド姉さんの様子がおかしいこともそこまで気にしていなかった。しかし俺は知らなかったのだ。ホド姉さんの手にナイフが握られていることに。
ここまで読んでくださりありがとうございます。少しでも面白いと感じていただけたなら幸いです。
いいね等で応援していただけるとさらに頑張れます!