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弟弟子としての受難

 時を現在に戻そう。俺たちの視界が晴れた後、俺たちは鉄の壁と天井に囲まれた異空間のような部屋に立っていた。ルカ姉の姿が見えないが、きっと逃げ…いや、ここにくる必要はなかったから来なかっただけだろう。



 「さあ、ここが私たちの訓練所だ!お前たちの姉弟子もそこら辺にいるだろうから、仲良くしていてくれよ?んじゃ、私は早速お前たちの訓練の準備をしてくる」



 そう言うと、ミュインの姉貴はさっさとどこかに行ってしまった。残された俺たちは辺りを見渡してみる。すると鉄に囲まれた部屋の真ん中に、一人ポツンと立っている、赤い髪をしたショートヘアの少女の後ろ姿が見えた。シラノは俺の体を少し震わせながらその少女の元に恐る恐る近づいた。



 「…なんだ…アタシに弟弟子と妹弟子が出来るって言うから誰かと思ったら…あなたたちだったの。すごい滑稽な状況にあるんだって?」



 エルマは俺たちの方を振り返り、その不思議な色彩をした眼で見つめると、どうでも良さそうな顔をしてすぐにまた反対側を向き直した。ずっと武器か何かを手元で弄っている。 



 (…エルマ…!?)


 「やっぱりエルマさんだ…あの、ソウタさん…正直言うとあんまりこの人得意じゃなくて…会話変わってくれませんか…?」



 そう言うとシラノは俺が返事をする前に裏に引き下がった。いきなりエルマの前に突きつけられた感じだったが、シラノはエルマのどこが苦手なのだろうか…



 「えっと、ソウタだ。久しぶり…よろしくな?」


 「…ん、よろしく。せいぜいアタシの足を引っ張らないように頑張りなさい?」



 なるほど、こういうところだ…随分と高飛車な性格をした少女である。同い年であるが故に余計対応に困る。



 「……」



 その後ミュインの姉貴も帰ってくることはなく、しばらく気まずい空気が続いた。俺は仕方がないのでエルマの横に座り、話しかける機会を伺うことにした。だがなかなか話しかけづらい…エルマは立ったまま険しい顔をして刃物とずっと睨めっこしている。


 …五分ほどが経過した。エルマは未だ刃物と睨めっこしている。あまりの静けさに痺れを切らした俺は、エルマに話しかけてみることにした。



 「あの…エルマ…さっきから何を…」


 「関係ないでしょ?話しかけないで」


 「……」



 エルマは床に座る俺を見下ろすように睨みつけた。…だめだ。こいつはだめだ。コミュニケーションが全くできない。俺は一旦立ち上がり、その場を離れた。そして部屋の隅でシラノと話し合うことにした。



 「おいシラノ…!なんなんだよあれは!(小声)」


 (だから苦手だって言ったんですよ!エルマさんはいつどんな時に話しかけてもあんな風に拒絶するような態度で返してくるんです。私みたいな人間には到底対応できなくて…)



 なるほど…その気持ちはわかるぞシラノよ…だがシラノが無理ということは俺も無理ということなのだ。あんな人間相手にどう接しろというのだ…それにしても、最初にこの世界に来たときにエルマと話した時は、このような印象ではなかったと思うが…



 「おい、こんなところでどうした?エルマとは話が合わなかったのか?」



 突然後ろから突き倒してくるような声が響いてきた。振り返ると、そこには装いを変えたミュインの姉貴が異様な威圧感で立っていた。先ほどまでよりもずっと薄手のタンクトップを着ている。このままいけば最終的に脱いでしまいそうに思えてしまうが。



 「ミュインの姉貴…!?なんかすごい格好ですけど大丈夫ですかそれ!?…っていうか、エルマ!あんなのとどうやってコミュニケーションをとれって言うんです!?会話が全く成立しないですよ!?(小声)」



 俺がそういうと、ミュインの姉貴は「やっぱりか…」といった表情を浮かべ、小さくため息をついた。そして俺の頭をそっと撫でると、今までとは違う優しい声で俺に囁いた。



 「あいつもお前らと一緒だ…ちょっと人見知りなところがあるんだよ。あんなのだけどな…ちゃんと向き合えば心が通じるはずだから」



 そう言ってミュインの姉貴は俺の背中をそっと押した。もう一度行ってこいと言っているのだろうか。俺は少し気が引けたが、勇気を出してもう一度エルマの隣に行ってみることにした。


 俺たちとミュインの姉貴が話している時、エルマは未だ一人で武器と睨めっこしていた。しかしどこか上の空な表情を浮かべている。



 (……なんでかな……)



 そしてエルマは微かに吐息を吐いた。


 俺はエルマの背後から恐る恐る近づいた。近づいたは良いもののどういう風に声をかけようか…しばらく考えた末、俺は温泉でのシラノとの出来事を思い出した。あの時のように、エルマの背後に忍び寄り、突然声をかけてみた。



 「よっ、エルマ!」


 「きゃあっ!…なっ何よ!脅かさないでっ!この!」



 エルマは俺の腹を思い切り殴った。そりゃそうだ。そもそも根がシラノのようにおとなしいやつではない。俺は痛みのあまりその場にうずくまった。そんなことよりこいつ、今俺と一緒にシラノも殴ったのだということに気づいていないのだろうか。



 「ふん…何よあんた…そんなにアタシと話がしたいわけ…?」



 エルマは軽蔑するような目で俺を睨む。



 「お前と話したいっていうより…これから仲間同士になるんだから、交友関係を結んでおくのが普通だろうよ…くそ…痛えな…」


 「痛い?アタシを背後から脅かしてきたんだから当然と思いなさい?自業自得ってやつよ」



 それを聞いて俺はとうとう我慢の限界に達した。俺のことなどどうでも良いのだ。ただこいつは俺とシラノが体を共有しているということを知っておきながら俺の体を殴っている。



 「…おい。まずはシラノに謝ったらどうだ?結構痛かったぞ?お前の可愛い妹をも傷つけておいて心が傷まねえのか?」



 俺がそう言うと、エルマはハッとしたような表情を浮かべて、頬をポリポリと掻いた。



 「…シラノ…?あっ、アタシ…いや、そんなつもりは…」



 …もしかしてこいつ、本当に忘れてたのか…?



 「…お前…」


 「わっ…悪かったわよ!…本当に、悪かったわよ…シラノ」



 エルマは少し視線を逸らしながらボソッと謝った。



 (エルマさんって、一応謝れるんですね…)


 「…まあ意外と素直なんだな…」


 「勘違いしないで。別にあなたには謝る気ないから」



 …うん。やっぱりあんまり得意じゃない気がする。


ここまで読んでくださりありがとうございます。少しでも面白いと感じていただけたなら幸いです。

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