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異世界ハーレムライフがなんか思ってたのと違う  作者: 白宵玉胡
紐解かれる混沌とした世界
17/25

魔に飲まれた魂はマツリゴトと共に帰還する

 (まずい…!)



 迫り来る雷の刃に、俺は直感的に死を感じた。しかしその時、目の前に突然プリナがどこからか現れ、魔力の盾で暴走体の攻撃を防いだ。



 「プリナ…!?今のって…」


 「簡単なテレポートですよ。万が一に備えてソウタさんの体にポイントを定めておいたんです…それにしても、私の魔法を食らってもピンピンしてるだなんて…はぁ、ソウタさーん…何か策はありますか…?」



 プリナは泣きを入れるようにして俺に策をせがんで来る。そうは言われても、俺にもこの化け物をどうこうする策があるわけではない。五年前、騎士団でさえ手を焼いた問題児なのだ。そう簡単に倒せるわけがない。



 (何か方法はないか……ん?そういえば、プリナのやつ、ちょうど都合の良い魔法を持ってたような…)



 しばらく考えて、俺はふとプリナのとある魔法を思い出した。「人格分離(ペルソナ:リベル)」だ。これを使って魂を分離させれば、分離させたシラノの本体に協力してもらえるかもしれない。しかし、あくまで人格分離は()()の「人格」を分離させる魔法だ。()()の「魂」を分離させるとなると、人格分離が使えるとは限らない。ということで…



 「…プリナ!無理なお願いだってことはわかってるけど、()()()()()作れないか?」


 「…え?…はぁー?」



 プリナは口をあんぐりと開けて呆れた表情を浮かべている。俺が思い描いているのは、人格分離を元に新しい魔法を作り、魂を分離させるというものだが、それに対する根拠があるのかと言われると全く無いわけで…アニメか何かで、「技を進化させて敵に勝つ」なんていうシーンがあったことを思い出して適当に言っただけなのだ。そんなものだからプリナに呆れられてもおかしくはないだろう…



 「あ…冗談で言っただけだから…聞かなかったことに…」


 「…素体は何ですか?」


 「は?」


 「だーかーら!『組成分解式魔法錬金そせいぶんかいしきまほうれんきん』を行うんですよね?そんな高度な技術を要求するんなら、早く準備をさせてください!」



 …何だかよくわからないが、意外とそういうこともできるということだろうか…



 「えっと…素体?素体は…人格分離《ペルソナ:リベル》。んで、えっと…暴走体の魔力とかなんかそういうのでうまいことやってくれ!」


 「…はぁ…ソウタさんは流石ですね。それは私も思ってました。今この状況を打破することが出来るのは、暴走体の魔力に一番触れていて、暴走体の体の構造を一番熟知している人間…シラノさんだけです。私はさっきの攻撃を受け止めて、暴走体の魔力に触れた時、あの暴走体は魔力生命体であることに気がつきました。つまりそれは、魔力イコール魂ということ…魂を分離させる魔法を作ることができれば、シラノさんの本来の魂と、あの暴走体の魂とも言える魔力を分離させることが出来る…そういうことですよね!」



 …全くどういうことかわからないが、おそらくプリナが言いたいのは、シラノがいれば暴走体を倒せるかもしれないということなのだろう。なぜかプリナの勝手な解釈でいい方向へと向かっているようなので、俺はとりあえずプリナに従うことにした。



 「…ああ!?そういうことだー!ははは…んじゃ、パパッとやってくれ!」


 「しょうがないですね…あれ疲れるんですけど…」



 プリナは気だるげな表情を浮かべながらも、上空高くに浮かび上がり、杖を頭上に掲げた。すると次の瞬間、プリナの足元の地面には深い紫色の魔法陣が、頭上の空には黄金色の魔法陣が大きく浮かび上がった。そして異様な威圧感の中、プリナは詠唱を始める。



 「陽の神、陰の神よ。今こそ世界の表裏を一体とし、神話の力をこの混沌とした現世に降臨させたまえ…素体、『人格分離《ペルソナ:リベル》』。かの魔法を捧げ、狂乱の魔物の魔力と共に、新たな神技へと再創することを望まん!…《《祭司》》・プリナ=フロル=トルメイジがここに宣言する!此れを、新たな魔法、『魂核分離《アニマ:リベル》』の誕生とする!」



 詠唱が終了すると共に魔法陣は消滅し、魔法陣が放っていた紫と黄金の光がプリナの体を包み込んだ。そしてプリナは深く息を吐いてから、俺の元へと戻ってきた。



 「…なんか、すごいな…今までの魔法とは全然違うっていうか…」


 「今のは魔法っていうか、儀式です。ちょっと特別な…あ、いえ、これはまたの機会に…まぁとにかく、これでいいはずです。早速試してみましょう。『魂核分離《アニマ:リベル》』!」



 プリナが新たな魔法、「魂核分離《アニマ:リベル》」を発動すると、見るからに禍々しいオーラが一瞬にして暴走体を包み込んでいった。そして次の瞬間、暴走体の中から青白く光る玉のようなものが飛び出してきた。



 「プリナ…!あれって!」


 「はい!プリナさんの魂です!依代はどうしますか?」


 「え?依代…!?えっと…まあいいや、どうでもいいから俺のとこに来い!」



 …この時俺が勢いで行ってしまった言葉には後悔している。まさかそんなことになるとは思ってもみなかったのだから。



 「はい!ソウタさん、受け取ってください!」



 プリナが杖を振ると、シラノの魂は真っ直ぐに俺の体へと飛んできた。そしてそのままドカンと、強い衝撃と共に俺の体の中に吸い込まれていった。



 「…ん?え?どうなった!?」



 …それからは考える暇もなかった。俺の体はどこかで蠢くもう一つの魂に一瞬で支配されたのだ。体の自由が効かない。何もかも知覚できるのに、指一本動かせなければ、喋ることも出来ないのだ。その代わりに俺の口からは聞き覚えのある口調の男…いや本質的には女の声が聞こえてくる。



 「…あれ…?私、ここで何を…騎士団は…?」


 (…!シラノだ…シラノが俺の体を使って喋ってる…!…でもこの反応…五年前から記憶が止まってるみたいだ…やっぱり一部の呪いの効果がいまだに残ってたんだな…頼むシラノ…!俺の思考が読めるんなら返事してくれ…!お前には話すべきことがたくさん…)


 「大丈夫ですよ、聞こえてますから」



 シラノは淡々とした口調で答えた。こちらの声はシラノに届いていたのだ。



 「それと今、朧げですけど、暴走体の中にいた時の記憶が蘇ってきたんです。今まで色々迷惑かけてきてすみませんでした、ソウタさん」


 (…!覚えてるのか、シラノ…!)


 「まあ、少しですけど。少なくとも、あなたが悪い人間では無いということだけはわかります」



 シラノは相変わらず照れくさそうな口調で話す。今は体を共有しているため、シラノが顔を赤ていることも、目が泳いでいることも、心臓の鼓動が早まっていることも全部わかる。



 (かわい…)


 「今可愛いって思いましたよね…別にそういうんじゃ無いんですから!…ちょっと待っててください…あれについてはプリナさんの推測通り、私が一番よくわかっています。今目の前の化け物を倒して、可愛いなんて思えなくしてやります!…私、昔から魔力量が人より多いんです。だからこの程度、一瞬で片付けてしまいますから!」



 そういうとシラノは俺の体全体に魔力を流し込み、目にも止まらぬ速さで暴走体に襲いかかった。



 「インボカーレ・グラキエス!」



 そう唱えると、空中に空いた黒い穴のようなものの中からシラノのアーティファクトが飛び出してきた。それはあのグラキエスだ。



 「フェルム=イラ・フリーズ!」



 刺々しい氷がグラキエスを包み込んだ後、空を切り裂きながら進むグラキエスの刃は、体の芯まで凍ってしまうような冷気と共に暴走体に降りかかった。その力は圧倒的で、攻撃を避けようとする暴走体を、冷気を使って空中で凍らせてしまった。



 (す、すげー…)


 「まだですソウタさん!気を抜いてはいけません!」



 その言葉通り、暴走体はグラキエスの凍結を解いて、再び戦闘態勢に入ろうとしていた。しかし、今にも暴走体を包み込む氷が破られそうだという所で、シラノは再び魔法を発動した。



 「イラ・フリーズ!…グラシアルス・モンス!」



 この、「イラ・フリーズ」の力は俺も身をもって感じたことがある。この魔法の氷はそこら辺の生物の力では突破することは不可能だ。こうしてガチガチに凍らせられた暴走体に、今度は無数の氷の刃が天に昇るように足元から襲いかかった。まさに八つ裂き…凍ったサーモンのようにあっさりと捌かれてしまった。



 「ふう…いっちょ上がりなのです。全身凍結、そして魔力分解によって機能停止です」


 (…シラノ…お前こんなことできたのか…)


 「私だって戦えます!この通り、アーティファクトを使った魔法なら私の右に出る人なんていないんですから!」



 シラノは腰に手を当ててドヤ顔を決めて見せた。こうして鼻息が荒くなっているのを直で感じると、シラノの性格なんかがより一層伝わってくる。



 「あ、体はお返ししますね?今度は私が裏に引きますから…」



 そうシラノが言った瞬間、ふっと体が軽くなり、俺の意思のままに動くようになった。今まで拘束されていた分、反動がきてふらついてしまうところもあったが、それはすぐに慣れた。



 「…ふう…よし、プリナ!……え?」


 

 俺はこれまでのお礼と、再会の約束でもしようかとプリナの方を振り返った。しかしそこからは、予想だにしなかった光景が目に入ってきた。



 「…ソウタ…さん…」



 黒い影が自身の手を刃のように伸ばし、プリナの心臓を貫いている。俺は理解が追いつかなかった。そこにそれが現れることなどないと思っていたのだ。そしてそれが直接人に危害を加えることも無いと思っていた。



 「…やあ」


 「……イシ!」


ここまで読んでくださりありがとうございます。少しでも面白いと感じていただけたなら幸いです。

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